アドマンが活躍しない世の中はツマラナイ
20世紀末、マス広告を中心に統合されたキャンペーンは日本で最高潮に達し、カンヌ広告祭で旋風を起こした。しかし今後は、あらゆる広告媒体が運用型広告の一つとして、高速PDCAの概念をベースに統合される、との予測がある。
そんな将来について、本コラムの第2回で宝珠山卓志氏は、運用型広告をベースに広範な業務知識を有した広告パーソンが幅広い広告業務を管理すると予言し、第3回で嶋浩一郎氏はコントロールできない未来に向き合うことに手慣れた広報パーソンが攻めの発想を持てば、統合チーム内で大活躍すると予見した。そんな21世紀の広告界のスーパースターが登場することに、マーケティング効率をさらに高めたい事業会社は大きな期待を寄せている。
お手本は既に存在する、と私は考えている。飲食店のオーナーでもあるシェフや料理人だ。彼らは日々思いついたアイデアをその夜のメニューですぐ実践し、料理の残し具合や退店時のヒアリング、ネットにアップされた写真やレビューの数という形で反響を即座に把握している。そしてその日・その週の売上として成功・失敗の結果が自らに突きつけられる。飲食業は、経営の重要ポイントである料理、集客、売上回収、代金支払いといったこと以外に気を取られると、すぐに金が回らなくなり翌月末には万事休す(廃業)となる。まさに高速PDCAの世界を、生死をかけて毎日真剣勝負している人達なのだ。
そんなシェフ・料理人の最終目標値(KGI)は週や月の売上額、すなわち「客数」×「客単価」だ。来店客の満足度と支払料金(客単価)を上手くバランスさせられれば、来店客は固定客(客数)になるだけでなく口コミやネットを含めたメディア上で喧伝してくれる。それを知った国内外の人がネット上に掲示した店の最新情報を見つけ新たな来店客(客数)となり、上記のKGI達成が見えてくる。
では来店客の満足度を構成する各要素(KPI)は何かというと、料理の味、店の雰囲気・演出、店員との楽しい会話、Web・電話の予約対応から再来店促進のメール内容も含めた、来店客への行き届いたサービス群だ。ここでの鍵はdelightと表現される、新たな発見や驚きを通じて来店客にもたらされる至上の喜び。料亭や茶道に代表される日本の食文化は、料理だけでなく食器や掛け軸、庭(景色)をも含めた総合芸術と言われるが、国や料理ジャンルを問わずビジネスとして成功しているカリスマシェフ・料理人も、持ち前のセンスで来店客を360度包囲して感性を刺激し、delightを提供する総合芸術家と言える。広告界の人間に負けない位、クリエイティブな連中なのだ。
話を戻すが、より広範囲な広告活動と運用型広告を統合していくためには課題も多い。生活者のマインドを動かすdelightの要素をどう数値化するか。なんとか定量化できたとして、時系列変化や横比較・横展開する上での有意性をどう見いだして、どう説明力を持たせるか。ここでは一足早く実践している達人であるオーナーシェフ・料理人の考え方やルール・セオリーが参考になる。だから定性要素と定量要素の統合に挑戦する次世代の広告パーソンは、シェフ・料理人の話に耳を傾けるべきだ。そして、彼らの店で食事をしながら五感をフル活用し、彼らのセンスを自らの仮説のヒントや検証の材料にして、事業会社からの期待に応える「第三の達人」になっていただきたい。
いよいよAdvertising Week Asia 2016が30日から始まる。さぁ、一流シェフや料理人と同様、世の中に夢や喜びや楽しみを提供している広告界の達人との出会いを求め、東京ミッドタウンに出かけよう!
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