少量多品種でも全国で売れる農産物―徳島県のとある農園が取り組む「ファンづくり」

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「100万社のマーケティング」2016年6月号では、「インターネット×農産物」をテーマに特集を組みました。農産物の新しい販路として、オンラインショップを中心とする直販チャネルへの注目が高まっています。地域の農産物を、求めている人に届け、さらに売上を高めていくためには工夫が必要です。本記事では、国内外に向けて情報・メッセージを発信し、農産物・農園のファンを着実に増やしている徳島県「阿波ツクヨミファーム」の取り組みを紹介します。

日本有数の天候条件と、日本一の清流・吉野川の恵みに育まれた豊かな土壌を持つ、徳島県阿波市。「阿波ツクヨミファーム」は、この地で野菜の生産・販売や加工品の製造・販売、さらに就農・移住支援などを手がける農家だ。

販売チャネルは、自社ECサイトや「クックパッド産地直送便」、「BoxTo You」、「Puret」などオンラインのみ。夏はナスやピーマン、オクラ、ズッキーニ、トマト、空芯菜、秋冬はキャベツ、ブロッコリー、カリフラワー、春菊、菜の花、エンドウ……自社農園で採れる少量多品種の野菜は、つくり手の丹精込めた野菜への温もりと、暖かい土地の阿波市の温もりを感じてもらいたいとの思いから、「温土野菜」と名付けて打ち出している。

恵まれた気候の下、化学肥料や農薬を使わずに野菜を少量生産。

野菜づくりへの思い・こだわり

地元の高校を中退後、家業の建築業を手伝いながら、夜間にはダンスのインストラクターをしていた阿波ツクヨミファーム代表の芝橋宏治さん。建築業の傍ら展開していた農業の規模が拡大するにつれて、農業に従事する時間が増えていったという。お米の生産を20ヘクタール、キャベツ、レタス、ブロッコリー、玉ねぎなどの畑作を10ヘクタールほどという規模で「慣行栽培(主な肥料として化成肥料を使い、農薬を使って病害虫の防除を行う栽培方法)」を行い、県内市場を中心に出荷していた。

「転機は、父の死でした。いろいろあって一時は一文無しになったのですが、農業を続ける意思があったので、自分が追求したいと思う農業に取り組み始めたのです」。慣行栽培から有機栽培へと移行し、納得できるものができ始めた2010年頃から「ツクヨミファーム」として活動を開始。現在では、有機栽培から不耕起型(農地を耕さない)の自然栽培へと移行している。

「阿波ツクヨミファーム」という名前の由来は、徳島県の昔の呼び名「阿波国」と、日本神話に出てくる夜(月)の神様の名前であり、農耕の神様の名前でもある「ツクヨミ」。月の暦を数えて農業をしていた時代のように、農薬・化学肥料を使わずに自然の力だけで野菜を育てたいという思いを農園名に込めた。

「ツクヨミファームのミッションは、①すべての野菜をオーガニックにすること。②誰もがオーガニックの農産物を普通に食べられるようにすること。③農業を通じたセーフティネットを構築することです。化学農薬、化学肥料を利用せず、自然の循環を活かして、おいしく・栄養価が高く・調理しやすく・日持ちも良い高品質なオーガニック農産物を誰もが簡単に安定して生産し、誰もが毎日普通に食べられ、自給率を向上させることができれば、日本という国全体に貢献することになる。それが可能になれば、どんなに農業の可能性が広がるでしょう。そのために仕組みづくりを行うことで、『農業が本当の自立をすると、社会が変わるんだ』ということを証明したいと思っています」と、芝橋さんは力を込める。

“野菜の向こう”のストーリーを発信

日照時間が長く温暖な気候と、吉野川が届ける山の惠みを受けた土壌が、豊かな実りをもたらす。

おいしい、栄養価が高いといった野菜そのものの価値もさることながら、産地・徳島の自然環境や、農業への思い、めざすビジョン、それに基づくこだわりの栽培方法など、ツクヨミファームが最終消費者に伝えたい情報・ストーリーは数えきれない。そのため芝橋さんは、販売サイトや各種SNS、週1回のメールマガジンなど、デジタルツールを効果的に活用したコミュニケーション活動を展開している。

例えばFacebookは、公式サイトの代わりとして活用するほか、農業や食、エコにまつわる情報のキュレーションを目的に運用。その投稿と連携させたTwitter、より私的な投稿を行うInstagram、質問に答えたりリピーター向けの特典を付与するLINEと、SNSは用途に合わせてフル活用。投稿する写真は「自分が、虫やこびとになったつもりで撮っています」(芝橋さん)と話し、こだわっている。メールマガジンでは、個人的メッセージのほか、販売中の野菜セットの内容、ブログ的な読み物「ツクヨミストーリー」、お知らせ、オススメの商品や飲食店、数量限定・有効期限ありのクーポンコードなどを記載している。

「農業は、生産者と消費者の認識の違いが大きい産業だと思います。農業にまつわる課題・問題については机上の空論が多い上、『農薬は危ない!』『化学肥料は危ない!』など、さまざまな噂や憶測が尾ひれをつけて飛び交っている。メルマガでは、良い話も悪い話も、それぞれの視点から内容を伝えるようにしています」。

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本記事は、『100万社のマーケティング』2016年6月号(第7号)の特集「地方創生とデジタルマーケティング[農産物]篇」の記事を転載したものです。特集内のほかの記事は本誌をお読みください。

例えば「無農薬の農家」について。無農薬の農家には大きく分けて次の4パターンがあるという。(1)農薬を危険だと考え、安全な農作物をつくろうとする農家、(2)高収益を得る手段として無農薬を選択する農家、(3)自分の栽培スキルを高めようとする農家、(4)生き方・ライフスタイルとして無農薬を選ぶ農家。芝橋さんは、いずれにも当てはまらないという。

「オーガニック野菜は一般的に高価なイメージがありますが、毎日食べないと意味がないものです。技術が発展し、農業が人の手を必要としなくなれば、極端な話、農産物は無料になるかもしれません。農業は究極のレッドオーシャン。限られたパイを奪い合うのではなく、『誰もがオーガニックの農産物を普通に食べられる』という、いつか来る未来を実現するために、具体的には、農産物を無料にし、持続可能な農業を普通にすることを目指しています。そのために、農薬も肥料も燃料も使わない、経費がかからない不耕起型の自然栽培に移りました。…といった感じで、なぜ農業をするのかなど、僕自身の内面的な話をしっかり伝えるようにしています」。

こうしたコミュニケーション活動の結果、一人あたり週に2~3回の注文がくるなどリピートが増え、単価は5000~6000円に上がり、お客さまからメッセージが頻繁に届くようになったと芝橋さん。「長いお客さまだと、すでに6年間のおつき合いがある。そんなお客さまからは『ツクヨミファームは、ツクヨミファームの思いやビジョンに共感した自分たち(お客さま)と一緒にサービスをつくっている』と思っていただけているようです」。

今後は、お客さまが徳島へ足を運びたくなるよう、サービスを充実させたいと話す。「お客さまが、もっと多様な商品を選べるようにしたい。もっと非効率な農業を展開し、日本・徳島の自然や歴史の『なぜ?』『どうして?』を深堀りしていきたい。そのために、逆に新しいツールやサービス、ガジェットを利用して魅力的なコンテンツを増やし、『なぜツクヨミファームを選ぶのか』の理由を提供していきたいと考えています」。

特集内のほかのコンテンツはこちら。詳しくは、本誌をご覧ください
◎個人の生産者でも始められるECサイトの企画と効果的な運営
◎ローカルブランディングの成功ケース:かほくイタリア野菜、加賀野菜
◎マーケティング理論で分析、2016年地域団体商標の成功要因と課題
◎米国スタートアップに見る、ITを利用した新しい産地直売の形
◎小さな魅力を小さく見出し、小さく成功するビジネスへ:農林水産省 農村振興局長 末松広行氏
ほか


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