「質」と「量」はどっちが重要だったのか?
松岡正剛さんによると、実はナポレオン以前の時代には、そもそも「量」は問題では無かったというのです。ナポレオンが国民国家を作る上で必要な健康や失業、教育などに対する基準値を国勢調査などの統計を確立していく上で、初めて「量」が人間社会で注目されるようになったとか。
ナポレオン以前の時代、日本で言えば江戸時代には、そもそも人間関係において重要なのは「質」であって、「量」は問題では無かったわけです。
人間社会は、元々は「質の世界」だったと言えます。確かに冷静に考えてみれば、私たちは普通の人間関係においては明らかに「質」を重視しています。
田中さんが感動してくれたかどうか
鈴木さんに嫌われたんじゃないか
教室のみんなが笑ってくれたかどうか
ここで重要なのはいわゆる「エンゲージメント」であって、今日は40人の友達に「リーチ」した、とかは普通あまり考えないわけです。
それが、産業革命以後、大量消費大量生産、マスメディアとマスマーケティングの時代が訪れ、全てのものを「量」で交換する社会がやってきます。「量」が多くの価値観において重要な位置を占めるようになったわけです。
「量」が万国共通で議論できる数値で表現できるのに対し、「質」というのは共通言語で語ることが非常に難しいんですよね。そういう意味で、この200年ぐらいの時代は「量の世界」だったということができるでしょう。
松岡正剛さんのお話で興味深いのが、ソーシャルメディアのようなデジタルネットワークの普及により、再び「質」が測りうる時代になってきているのではないかという点です。
ソーシャルメディア上では、発言数という「量」も測れますが、ユーザーのブランドに対する感情や感想など「質」も記録されています。これらの感情は、当然今までも存在はしていましたが、あくまで人の脳や気持ちの変化や会話は記録に残らないので測れませんでした。でも、現在は、それがソーシャルメディア上に記録されているわけで、測れる可能性が出てきているわけです。
ここで今後、重要になるのが「質」と「量」をどう変換するかということになります。
松岡正剛さんの言葉を借りると「量」の中にある「質」は比較的、抽出しやすいが、「質」の中にあるものを「量」に出すことがまだまだ非常に難しいというのがポイントです。「量」で「質」を表現している代表的なサービスがGoogleの検索ランキングのロジックでしょう。Googleは被リンク数という「量」が多いことが「質」が高いことであるという仮説の元に現在の検索エンジンの原型を作り上げました。
これは非常に画期的なアプローチであり、従来の手法に比べると非常に高い精度の検索エンジンを生み出すことに成功しました(もちろん、必ずしもリンク数が多ければ「質」が高いというわけではないという結果も散見されるわけですが)。
ある意味Facebookページの「いいね」ボタンなども、「量」で「質」を表現するためのアプローチと言えるでしょう。一方で、現時点で誰も成功していないのが、「質」を「量」で表現することです。
ネスカフェアンバサダーキャンプに参加したアンバサダーは、少なからずネスレに対して深い関係値を持つはずですが、この「エンゲージメント」は何人分の「リーチ」と等価と言えるのでしょうか?
松岡正剛さんは、「質」の「量」への変換には量子のレベルで「質」というものを表現する技術が必要だとお話しされていましたから、私のような文系人間では不可能な話にも聞こえてしまったのも事実なのですが。ただ、そのヒントになるような活動や成功事例が、マーケティングの世界では徐々に見えてきているようにも思います。
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