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コラム

箭内さん!聞かせてください。今日このごろと、広告のこれから。

箭内さん、貧乏だったって本当ですか?

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—ほかにも、当時の体験が今に活きているなと感じることはありますか?

良くも悪くも、“お客様は神様”という精神が身に付きました。だから、仕事相手のことをバカだなんて絶対思えないし、「その人に言われたことは絶対だ」って思う癖がなかなか治らなくて、とても苦労しました。「お客様の言うことは絶対」と思うことが、相手にとって良いことかというと、そうとは限りませんからね。「そうじゃないですよ」って言うことが正しいサービスである場合もあって。それを身につけるまでは10年、20年かかりました。明らかな後遺症です(笑)。

あとは、小学生の頃、店の手伝いをしていて面白かったのは、店のどの棚に何を置くか決めること。「あの場所に商品を積むと絶対に売れる」とか「高さの低い位置に並べると売れない」ということが興味深かったですね。「300円の品がなんと220円!」みたいなPOPを書くことを通じて、レタリングや売り文句も覚えました。ものを売ることの難しさや楽しさをすごく感じたんですね。貧乏だったことより、小売り店の息子として生まれたことが、僕が今「対面型」の広告をつくっていることに直結しているように思います。

—小売り店の息子に生まれたことが、「対面型」の広告づくりにつながっている…?

人はみな親の後を継いでいると僕は思っているんです。職業自体を継がなくても、周りを見渡すと、建築家の親を持つ広告制作者は、建築家のように構築的な広告をつくっている気がするし、教師を親に持つ制作者は、やっぱり「教える」ように広告をつくる。商社マンを親に持つ制作者は、商社のようにモノを動かす広告をつくっているなって、僕は思うんです。親の職業のエッセンスを継いでいるというか。

そう考えると僕の広告づくりは、一対一で一人ひとりに届ける「対面型」だと感じます。しかも、僕が広告を手がける商品のほとんどは、実家で売っていたような商材なんですよね。もちろん、自分で選んだわけじゃないけど、依頼してくれる側が無意識の中で何かを感じているのかもしれないなと思っています。

江崎グリコ然り、かつては森永製菓もそうだし、桃屋も、サントリーもそうです。100円単位で売られるような商品の広告をつくることが多い。タワーレコードやパルコのような「接客型」も多いですね。

江崎グリコ「チーザ」

 

サントリー「ほろよい」

 

桃屋「辛そうで辛くない少し辛いラー油」

 

タワーレコード「NO MUSIC, NO LIFE.」樹木希林、YUKI、Gotch(ASIAN KUNG-FU GENERATION)

 

パルコ「Last Dance_」中谷美紀、木村カエラ、エリイ(Chim↑Pom)、森山未來

 

親は商売が下手でしたが、いま振り返ってみると、独特の「広告」をしていたなと思います。例えばこんなことがありました。

遠足の時、普通は「お菓子は300円まで」って言われるけど、父親は僕に「リュックサックいっぱいに詰め込んで行け」って言うんですよ。そうすると、同級生が先生に「箭内くんが300円以上持ってきてるけど、いいんですか」って言いつけますよね。そうしたら、僕はこう答えるように父から言われていました。「いいえ、うちではこれで300円です」と。僕がそう言うと翌日、同級生たちがそれぞれ親を連れてお菓子を買いに来るんです。そうやって父親は店を「広告」していました。

もう一つ覚えているのは、店でお菓子を選んでいるお客さんに、父親が「あ~、それ美味しくないですよ」って言うんです。お客さんにしてみれば、びっくりしますよね。「自分のお店で売っているものを『美味しくない』なんて、変わってるな。なんなんだ?」と。そして、あたかも正直な商売をしている人かのように思われて、不思議な信頼が生まれるんです。「だったら、どれが美味しいんですか?」とお客さんは必ず尋ねてくる。そして「あくまで私の好みですけど、これが好きですね」って父が指差した商品を、お客さんが必ず買って行くんです。でも、実は父親が指差していたのは、なかなか売れなくて困っていた商品なんですよね(笑)。そんな一対一の駆け引きの場を、僕はずっと横で見ていました。

次ページ 「お菓子屋さんのように、一対一、対面式の広告が、箭内さんの広告のつくり方なんですね。」へ続く