無料化や値引きをマス広告で告知するリスク
「需要と供給」理論は、資本主義経済が存続する上での大原則であり、ビジネスモデルを構築する上では非常に重要である。価格を下げること、ましてや無料クーポンの発行が需要の大幅な増加につながることは明白であり、このことを予測できずに供給を増やせなかったことは経営側にも責任が存在する。
しかし従来は、繁忙期に電話回線がつながらなかったため注文を受け付けることができなかったピザ店が、インターネットにより大量の受注が可能になった。経営側がその影響を十分に考慮できていなかったのではなかろうか?
電話で注文を受ける時代と異なる需要予測やビジネスモデルが求められるだろう。そして、十分に配慮されていない値下げや無料策を告知するには、マスメディアは向いていないのである。
その理由はいくつかあるが、マスメディアは一方向のコミュニケーションで修正が効かないということが基本である。テレビやラジオのCMは簡単に変更することはできないし、中止してもコストはかかる。紙の新聞や雑誌は印刷されてしまったら、訂正はできない。
一方、デジタル広告はメニューにもよるが、素材の変更や出稿量の変更が容易であり、投下量の変更でコストもかからないケースも多いので、「これ以上供給できない」と判断した場合には出稿を止めることもできる。
人々を瞬時に行動させることができる「ポケモンGO!」ではマス広告、デジタル広告を含めて広告活動は一切行っていない。レアなポケモン出現情報などを修正の効かないメディアで流したら、人々が殺到する可能性があるため、人気のあるうちは修正の効かないメディアを利用することは相当なリスクがあると考える。
デジタルアイテムに関してはその限りではない
今回の問題は、物理的な制限がある問題に限られており、デジタルアイテムやサイバー空間においてはその限りではない。例えば、あるゲームで無料アイテムを提供しても、物理的な生産をする必要はなく、生産に人手はいらないので人員を確保する必要もない。
またサイバー空間上の場所に人が殺到しても渋滞や行列が実際に起こることはなく、交通上の安全や人ごみの危険が発生することもないのである。先ほどの“需要と供給”曲線は前提として“供給量が限られている”ことを前提に成り立っているが、デジタルアイテムやサイバー空間の供給量は理論的には“無限”に近いのである。
正確には物理的に処理する計算能力やアクセスする通信環境、データを保存する物理的領域などの要因は存在するが、最近は柔軟に対応できるクラウドコンピューティングの効果で、以前より問題は起きにくくなっている。オンラインゲームやアイテムの収益率が高いのはこの理由からである。
すなわち、デジタルやサイバー空間で実施するべきキャンペーンとその効果は物理的な現実社会とは違っており、その違いを企業側、消費者側が十分に理解していない状況なのではなかろうか?
織り込みチラシで行っていたキャンペーンを、そのままデジタルに持ちこむことはできないのだ。しかし一方で、そのことを理解している企業や消費者による取り組みがある。そちらのケースについて考えてみよう。
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