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<特別鼎談>2017年、広告界の共通キーワードは「クオリティ」の定義と指標化

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ニューバランス ジャパン・鈴木健さん、スマートニュース・藤村厚夫さん、電通・並河進さん。 「アドタイ」の人気コラムニストであり、広告主・メディア・広告業という異なる立場で広告界に携わる3人が一堂に会し、 それぞれの専門領域について2017年度に目指すべきゴールを提案するとともに、 互いに連携できる・連携すべきポイントはどこにあるのか 、徹底議論しました。

※本記事は、『宣伝会議』2017年3月号とアドタイとの共同企画「アドタイコラムニストはこう見る!2017年 広告界動向予測」の一部を抜粋したものです。全文は本誌をご覧ください。

参加者

左)鈴木健(すずき・たけし)氏(以下、鈴木)
ニューバランスジャパン マーケティング部 シニアマネージャー

1991年広告会社の営業としてスタートし、ナイキジャパンで7年のマーケティ ング経験を経て2009年にニューバランス ジャパンに入社し現在に至る。ブランドマネジメントおよびPRや広告をはじめデジタル、イベント、店頭を含むマーケティングコミュニケーション全般を担当。

 

中)藤村厚夫(ふじむら・あつお)氏(以下、藤村)
スマートニュース 執行役員 メディア事業開発担当

90年代を、アスキー(当時)で書籍および雑誌編集者、および日本アイ・ビー・エムでコラボレーションソフトウェアのマーケティング責任者として過ごす。2000年に技術者向けオ ンラインメディア「@IT」を立ち上げるべく、アットマーク・アイティを創業。2005年に合併を通じてアイティメディアの代表取締役会長として、2000年代をデジタルメディアの経営者として過ごす。2011年に同社退任以後は、モバイルテクノロジーを軸とするデジタルメディア基盤技術と新たなメディアビジネスのあり方を模索中。2013年より現職にて「SmartNews」のメディア事業開発を担当。

 

右)並河進(なみかわ・すすむ)氏(以下、並河)
電通 ビジネス統括局 部長 クリエーティブディレクター/コピーライター

社会貢献と企業をつなぐソーシャルプロジェクトを数多く手がける。ワールドシフト・ネットワーク・ジャパン・クリエーティブディ レクター。東京工芸大学非常勤講師。受賞歴に、ACCシルバー、TCC新人賞、読売広告大賞など。 『SocialDesign 社会をちょっとよくするプロジェ クトのつくりかた』(木楽舎)など著書多数。 2016年度グッドデザイン賞審査委員。

 

2017年度のテーマ①
デジタル化・データ活用が進んだ今
「数字で測れない価値」の定義と評価

—2016年、広告界はデジタル領域の進化が目覚ましく、人工知能やテクノロジーの話題が席巻しました。メディアや広告でも、新たなツールや手法への注目が高まっています。こうした動きを、どのよう に捉えていますか?

並河:データの革命が起きていると言われていますが、人工知能やビックデータの活用による「人間の作業の代替」や 「効率化・コスト削減」の面に議論が集中していたのが2016年でした。2017年は、それを「前提」とした上で、テクノ ロジーによっていかに新しい価値を生み出せるのか、どんな新しい文化ができていくのか、が議論されていくと予測して います。

藤村:メディアにとって2016年は、 「フェイク・ニュース」やいわゆるキュレーションメディアの問題が話題を集め、記事コンテンツそのもの、あるいはそれを体験するサービスを含めた「クオリティ」に注目が集まりました。「PVが高まればいい」といった悪質な記事、あるいはそれを配信するメディアの姿勢は見抜かれ、必ず「ツケ」が回ってくると、はっきり認識されたのです。2017年はより一層、本質的な「クオリティ」が求められていくと思います。

鈴木健 氏

鈴木:それはメディアだけでなく、多くの企業が直面している問題ですね。デジタルの進化に伴い、企業も生活者に直接アプローチすることが容易になりました。一方で、企業の発言ひとつが大きなクレーム、ブランド毀損につながるリスクもあり、お客さまとの偽りのない関係構築が問われているところです。売上をはじめとする企業都合の数字目標だけではなく、事業を通した社会的な貢献・ビジョンの存在がより明確に求められてい ます。

藤村:そこで私が関心を持っているのは「クオリティの定義・指標化」です。漠然と「うちは良いものを扱っています」と言うだけでは自己満足で終わってしまう。とりわけメディア業界では、コンテンツを測る指標はPVやUUといった旧態依然としたものが多い。メディア側が「良質なコンテンツとは何か?」と いうことを、読者や社会に積極的に説明 してこなかったからです。

一方、これまで広告主企業への説明責任を求められ、さまざまな手法で「効果」の追求を進めてきたのが「広告」です。「そのコンテンツを体験したユーザーが、どんな影響を受けて、どんな考え・行動に至ったか」を指標化する、というロジックから学ぶところは大きい。難しいテーマではありますが、話題性だけを狙ったコンテンツと、良質なコンテンツを差別化するための仕組みをメディア、そして広告も含めた業界全体で検討すべきだと考えています。

並河:確かに広告の領域では、効果測定のための指標や手法が多数存在します。 しかし実際のところ、数字で測れる部分は非常に限定的だと感じています。経営領域でも、売上のように数字で測れる部分と、ミッションやビジョンといった数字では測れない部分、その2つが必ず存在する。そして、その間をつなぐ言語がないことが課題として頻繁に話題に上ります。広告・マーケティング分野で言う と、やはりブランディング領域の指標化はすごく難しい。数値化できない領域の「クオリティ」をどう定義し、指標化していくか……。未だ答えのないテーマですね。

鈴木:確かに、ミッションやビジョンといった抽象的な目標の達成度を測るのは難しいですよね。「クオリティ」という言葉ひとつとっても、一人ひとりの社員間で認識が違うことがよくあります。会社が大きくなればなるほど、それらを統一することがとても難しくなってきます。

藤村厚夫 氏

並河:「情報のクオリティ」の指標って、どうしたら設定できるのでしょうね。例えば、東京大学で人工知能やビジネスモ デルの研究を行っている松尾豊先生は、「正しい情報」をコミュニティ内で共有することによって、そのグループのコミュニケーションコストが下がるのではないか、とおっしゃっていました。そのように、何らかの行動で数値化していく しかないのかな、と。

鈴木:そうですね。その情報によって行動や時間の使い方が変わるといった、具体的な行動・態度の変化は数値化できますね。例えば、店舗の従業員全員がICレコーダーを持って、その日一日の会話を記録すると、優れた従業員とそうではない従業員の違いは、会話、つまりコミュニケーションの内容以前に「量」 に現れるようです。そういう、「行動の差」は測れますが……。

藤村:データによって得られるインサイトの幅は広がり続けています。注意しなければならないのは、部分的にデータを取得できるようになったことで、極めて限定的な情報をもとに大きな判断をしてしまうことが往々にして起きるということです。

行動データはあくまで「感情が動いたことを示す兆候」だと思うんです。かつて感銘を受けた小説にドストエフスキーの『罪と罰』がありますが、内容は「主人公が悶々と考えている」ことがほとんど。行動というものは、さまざまな思考の末にほんの一部分だけ現れるものだということが、よく分かる例です。

鈴木:確かに。内面の動きや葛藤は、ほとんど外側に現れませんからね。

並河進 氏

藤村:たくさんの人に読んでもらった、最後までスクロールをしてもらったとい うのは、良質な体験をしてもらった「兆候」ではある。ただ、本当は人間の内面はもっと複雑なものだと認識すべきではないかと思うのです。

並河:その通りですね。藤村さんが今おっしゃったことは、広告会社が置かれている状況にも刺さる言葉でした。 「ターゲティングをしたいけれど、できない」という制約から、普遍的なメッセージを追求するマス広告が生まれた。それが昨今、デジタルテクノロジーの進化に伴って「数字で測れる価値」に重きが置かれるようになった。

これと反比例するように、成果を数字で測れない広告は「パフォーマンスが出ない=価値がない」と見なされがちになりました。でも 「数字で測れない=価値がない」という見方は非常に危険ですね。そう考えると、今のデジタルマーケティングの世界は、何でもできて、すべてが最適化されているように見えるけれど、実は限られた範囲の中で満足してしまっているのではないかとも思えてきます。

本記事は、『宣伝会議』2017年3月号とアドタイとの共同企画「アドタイコラムニストはこう見る!2017年 広告界動向予測」の一部を掲載したものです。その他の記事は本誌をご覧ください。