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インタラクティブ・モバイル部門審査委員長 佐々木康晴氏が現地レポート① — ADFEST2017

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【執筆者】
佐々木康晴

電通 第4CRプランニング局長/デジタル・クリエーティブ・センター長

 

ぜんぜんアドフェストっぽくない写真・・・。自社応募物の審査時は、会議室の外に出されます。今回、全体の1/3くらいの時間、廊下に立たされていた気がします。役に立たない審査委員長。ぽつーん。

久々にアドフェストにやってきました。前回この暑いパタヤに来たのが2009年。そのとき僕は現場のいちコピーライターとして参加していて、アワードを獲って世界で目立ちたい!とか、鼻息荒い感じだったような気が、おぼろげな記憶のかなたにあります。困った奴ですね。

そこから8年ぶりのこのホテルと会場は、全然変わってなくて、相変わらず冷房は寒すぎです。でもアドフェスト自体は、Spikesとかに押しやられて最近元気が無いのかな、と思っていたら、そうでもなく、意外と日本人もっと来たほうがいいかも、とも感じたのでした。後編に書く結論を先に言ってしまいました。

さて、今回は、インタラクティブとモバイル部門の審査委員長という、恐れ多い役目で来ています。この前編レポートでは、インタラクティブとモバイルの審査の様子や結果について、ご紹介したいと思います。

この部門、僕以外の審査員は、日本、韓国、オーストラリア、タイ、インド、シンガポールなどから集まりました。それぞれの所属は、大手エージェンシー・ネットワークだけでなく、小さなデジタル・ブティックだったり、Facebookだったりと、広告的な人だけでない、なかなかバランスのとれた素敵な面々です。

インタラクティブは204エントリー、モバイルは89エントリーと、総応募数は多くないものの、 レベルの高い良き制作物が集まっているな、というのが第一印象でした。

全体の審査基準としては、Grand Jury PresidentのTed Royerさん(Droga5)からの、「Smartest and Bravest」なものを選ぼう、という号令がありました。そのもとで、インタラクティブとモバイル部門では、審査委員長として共通の審査基準をひとつ、つくりました。それは、「人の考え方を変えるもの、人の行動を変えるもの」を探す、というものです。

皆さまご存知のとおり、デジタルは、いろんなことができる道具です。クリック数が多いかもしれないけどとってもつまらない広告、もつくれるし、世の中を変える大きなムーブメント、だってつくれます。

最近、「デジタル」という言葉が独り歩きして、それぞれ違う解釈のもと、広告会社がそれを使っていますが、僕は、デジタルは、いいアイデアと組み合わせることで、広告業界をもっと良い方向に変える力があると信じていて。いや、もしかしたら世の中全体を良い方向に変えられるとも思っていて。だからこそ、僕ら審査員の責任として、「デジタル×アイデアの力が、人の気持ちを深いところから動かして、じっくりとブランドを体験させて、考え方や行動にも影響を与えることができる」ということを証明しようと思ったわけです。

よく、審査は大変ですよね、と聞かれるのですけど、審査はとってもフェアで、前向きで、楽しいものです。なにより、ものすごく勉強になるので、僕はけっこう好きなのです。審査ばかりしているおかげで会社にいなさすぎで、怒られますが。

そして、これもまた誤解されやすいのですが、審査員が自分の会社の制作物を賞に入れようとするとか、自分の国のものを受賞させるように工作するとかいうことも、まず、ないです。そんなことをすれば、その審査員の品格が疑われます。実際、自分が所属する会社からの応募物について議論をするときは、審査委員長といえども、部屋の外に出されちゃいます。

とくにデジタル系は、いつもとってもフェアで、アドフェストでも、良い議論がいろいろできました。

インタラクティブも、モバイルも、主な傾向としてはここ数年と同じく、「体験的」なアイデアが多くなってきています。逆に言うと、いわゆる通常の広告キャンペーン的なものは、ほとんど見かけなかった印象です。

テクノロジーを使ったリアルイベントや、アプリや、オンラインならではの動画や、ゲームや、VRなどをさまざま組み合わせて、ブランドをひとつの体験として提供する、というものが主体になってきています。

その中で日本のアイデアは、細かくてニッチな、表現だけにこだわったエントリーに見えることが多いです。何のためにこのブランドがその体験を提供するべきなのかを、ちゃんと伝えられないと、勝つのは難しいかもしれません。

さてアワードの結果は、詳しくは公式サイトを見ていただくとして、僕らはインタラクティブとモバイルで、4つずつの金賞を選びました。受賞数がかなり少ないと思われるかもしれませんが、審査は「世界水準」で決めていきました。インタラクティブでは、運転中のスマホ利用をやめさせるオンライン動画「HELLO」、DNAを解析してビールがより楽しく飲めるグラスをつくった「DNA GLASS」、子供たちのネットいじめを防止する教育ツール「REWORD」、オンライン動画で電気の愛おしさを伝えた「LIFE IS ELECTRIC」が金賞です。

なかでも僕が好きなのは「HELLO」で、この動画を見ると、きっと誰もがニヤリとしつつ「自分もやってみよう」「友達に教えたい」と感じると思います。非常にシンプルなアイデアで、まさにオンライン動画らしいエンタテインメントであり、かつ人々の行動変化をつくる良い事例だったと思います。日本のオンライン動画は、ただView数を稼ぐだけの刹那的なバズムービーや、ちょっといい話を長く引きのばしたコマーシャル等が多いのですが、「HELLO」みたいなアイデアが日本でも増えていくといいなと、思います。

しかし今回、インタラクティブ部門ではグランプリは選出しませんでした。「これが次のスタンダードになる!」というものがなく、みんなにもっと先に行ってもらうための、苦渋の決断でした。

モバイル部門では、iPhoneのUIをハックしたかのような縦動画「NATIVE MOBILE MUSIC VIDEO」、ヘルメット型のダンボールVRで子供たちに宇宙を体験させる「KIBO SCIENCE 360」、子供たちに犬との正しい付き合い方を楽しく教える「A DOG’S STORY」、スマホの文字入力で簡単に手話が覚えられる「SIGNEMOJI」を金賞にしました。

そのうち、皆の投票で「KIBO SCIENCE 360」がグランプリに選ばれました(そのとき佐々木は、会議室の外に追い出されていましたが・・・)。 このKIBOのVRは、子供たちの誰かに宇宙への興味を持たせ、将来宇宙に関連する仕事につくきっかけを、つくったかもしれない 。たんにVRという新技術を使ったことだけでなく、子供たちの未来に関係できた仕事、ということで、グランプリの受賞になりました。

この、「教育」や「トレーニング」というフィールドは、A DOG’S STORYもそうですが、今後デジタル×クリエーティブの力によって、もっともっと、面白くなっていく予感がしました。

さて、前編はこれくらいにして、後編につづきます!