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「AI時代のコピーライターは、どうなる?」その問いを必死に考えてみた。

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ある良く晴れた5月、さおりは、山下優太に連絡をとり、南青山のカフェテラスで、サンドイッチを食べながら、話した。優太は、制作プロダクションの時の同僚コピーライター。今は、独立し、コピーライター、クリエイティブディレクター、クリエイティブコンサルを生業としている。

「どう、ビジネスは?」
「まぁ、それなりに順調かしら」
さおりが、長く白い指で、白くふわふわした卵サンドをつかむ。

「AIコピーライターの働きはどう?投資に見合った活躍しているかい?」
「まぁ、それもそれなりに、かな」

空はよく晴れていた。東京の大気は20年前と較べて、信じられないほど澄んでいる。それは、電気自動車と自然エネルギーの進化がもたらしたもの。

「各メディアにどんな情報を配分すれば、効果的なトータル設計ができるか、もう頭を悩ますことはないわ」

優太は、気持ち良さそうに青空を見上げてから、さおりの大きな目を見つめる。
「答えが見えない暗闇状態だったからね。SEOとか、SEMとか。今は、だいぶ解放されたと思う」
「一昔前は、それも戦略的な仕事と言われてたりしたわ」。

優太の前に、タイ風のグリーンカレーが運ばれてきた。優太がスプーンを手にする。さおりは、続ける。

「メルマガの購読率が上がらないのはなぜかしら?」
「なんだい、急に。いつでも、かつ昔から、そうだけど」
「バーゲンの情報をAI君が、魅力たっぷりに届けているつもりなんだけど」

実は、優太のところにも、クライアントからのそんな疑問が近頃、届いたことがあった。

「もう社会に流通する情報量が人間の受け取るキャパを超えつつあると思う。人間の時間は有限だから」
「なるほど。有限である人の時間を、奪い合う時代が来ている、ということ?」
「そう。激しい争奪の時代」
「上手に奪うには、どうしたらいい?」

「それがわかってたら、いま頃は、ヨットの2つ、3つは持ってるよ」
優太は、笑いながら言う。

「ここのカレーがおいしいのはなぜかと考えてみる」
さおりが、来たわね、という顔で身を乗り出す。

「味、色、辛さ、この店の雰囲気?」
「いや、よく考えてみると、それら全部がひとつになって心に迫ってくるからじゃないかと最近、思うんだ。分解できないけど、リアルなこと」
「心って、ずいぶん曖昧ね」
「いや、いい映画を見て感動するのと、カレーを食べて感動するのはいっしょのはずなんだよ」
「バーゲンの情報も心に迫る必要があるのかしら。AI君には、過去の成功した広告やコピーをありったけ学習させてあるわ」
「そこが違うのかもしれない。君のAIには、映画の名作や心動く詩をラーニングさせたほうがいいかもしれない」

さおりは、DMを書きながら、優太が言った「心に迫る」の意味を反芻していた。膨大すぎるほどの情報を認知し、関連づけ、思考し、正解を見つけ出す。あるいは、驚くほどのメソッドを発見する。それでも足りないものは何なのだろう。

たとえ、AIが人間と同じ感情を持ったとしても、人間と人間のコミュニケーションがうまくできないことがあるように、すべてうまくいくわけではないのだ。「コピーライターの役割は、心のうちにある秘密のボタンを発見し、言葉にすることかな」。優太は、あのランチの最後に言っていた。確かに、そのとおりだと直感的にさおりは思った。

広告は、もう広告手法や仕組みではなく、人間の本質に迫らないといけない。

DMを手書きで、自分の言葉で届けよう。さおりは今、自分のブランドをこよなく愛している人たちに、その愛を超える愛を送ろうと思っている。2025年、東京にて。


AI研究の第一人者、松尾豊さん(東京大学特任准教授)がテレビの番組で、これから生き残る職種は何でしょう?と質問された時、まず「AIをつくる人」とおっしゃっていたのが印象に残った。

クリエイターは、AIに目的を教え、学習の方向を与え、新しい創造のツールとしてゆくのではないか。テクノロジストとジョイントしながら、AIのクリエイティブディレクター的な仕事もしてゆくのではないか、と思った。

「コピーライターは、これからなくなる?」には、なくならないと答えよう。ただし、コピーライターが、より人間的な方角に歩き出すことを条件としてということになるだろう。

次ページ 「市民コピーライターたちが、「東京」をコピーにしました。」へ続く