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コラム

マーケティングを“別名保存”する

牛乳石鹸「与えるもの」が示すWeb動画の新たな課題

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【前回】「「リーンブランディング」が広告キャンペーン設計を変える」はこちら

牛乳石鹸さんのWebムービー「与えるもの」が炎上して話題になりました。

映像は会社員と思しき男性がマンションのゴミ収集所にゴミを捨て、バスで会社に向かうシーンからスタートします。バスに乗っている最中に回想シーンが挟まれ、その日が息子の誕生日であること、出がけに妻からケーキを買ってくるよう頼まれたことが思い出されます。

会社に着いて仕事を始めると、後輩が上司に叱責されているのを目にします。かたや、妻からLINEが入り、合わせてプレゼントも、とリマインドされる。ここで再度回想シーンとナレーションが入って、男性の子どもの頃が思い出されます。仕事一筋であまり家庭を顧みなかった自分の父親。でも、与えられたものは大きかった。自分は息子に何を与えているのか。

まだ明るいうちに、プレゼントを買って家に帰ろうとする男性。しかし、突然立ち止まり、シーンが切り替わって居酒屋に。男性は今朝叱責されていた後輩を飲みに誘ったようです。そして、かかってきた妻からの電話を無視して後輩と酒を酌み交わします。家に帰ると、当然妻から怒られます。「なんで飲んで帰ってくるかな」。男性はそれには何も答えず、妻の制止を振り切ってお風呂に向かいます。

お風呂から上がると、「さっきはごめんね」という一言で家族は(なぜか突然)和解し、誕生日の夕食を楽しみます。最後にキャッチフレーズ。「さ、洗い流そう」。

2分半の映像の割には、上記の通りイベントがたくさんあるストーリー展開です。この動画に対するネット上の批判の内容を見ると、「何が言いたいのか解らない」「シュールすぎて怖い」という類のものがまず目立ちます。それは多くの人が、出来事・イベントの時系列である「ストーリー」のみに着目するからでしょう。イベントとイベントをつなぐ見えない糸であるプロットにまで注意を向ける視聴者は少ないでしょうが、この動画ではそのプロットがストーリーの伏線として作り込まれています。

その世界に没入できる連続ドラマや映画であれば、作り込まれたプロットはリアリティーとして作品を支えます。ストーリーに必然性が出てきます。しかし、広告動画では、通常映像への没入をそこまで期待することはできません。勢い視聴者はストーリーだけに着目しますが、それが伏線ありきで設計されたものだと、特に最後のいくつかのイベントが唐突に感じられ、「意味がわからない」「何が言いたいのか理解不能」ということになります。

ただ、これだけでは「炎上」とまではいかなかったでしょう。批判のもう一つのパターンは、「何が水に流すだ、身勝手すぎる」「モーレツ社員なんて時代錯誤、それを擁護するなんて」といったタイプのものです。この手の批判をする人は、作者の意図を誤解しています。この動画は決して昔かたぎのモーレツ社員を擁護するものではないのです。誤解のもとは「水に流す」という表現にあります。

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