【前回の記事】「2018年、テレビ視聴計測が変わる。それは、広告業界の「平成」が終わる準備かもしれない。」はこちら
1社提供というスタイルが持つ価値
テレビアニメ「サザエさん」のスポンサーがどこか、話題になっています。Amazonが決まったとか、西松屋や大和ハウスだとか、さらに日産もだとか。ネット上では、Amazonがスポンサーになると、磯野家は何でもネット通販になって、三河屋のサブちゃんに注文しなくなるのでは?というネタが盛り上がっていますね。
Amazonのスポンサー決定は共同通信が、日産は時事通信が伝えていて、通信社が競い合う題材にもなっています。そんな、大ごとでしたっけ?
ひとつの番組のスポンサーが代わるなんて、しょっちゅうあることなのに、これほど関心を呼ぶのも珍しい。それもこれも、東芝がスポンサーを降りることが、先にニュースになっていたからでしょう。つまり、まず「東芝がサザエさんを降りるなんて!」が衝撃で、だからこそ「次はどこか?」が気になっていたわけです。
それくらい、東芝と「サザエさん」は密接な関係でした。いわゆる「一社提供」で、「サザエさん」で流れるテレビCMは、すべて東芝。「明日をつくる技術の東芝がお送りしまーす!」とテーマソングが終わると、サザエさんがアナウンスしていました。
実際は、1998年にすでに一社提供ではなくなっていましたが、その後もイメージ的には東芝提供という印象を強く残していました。それくらい切っても切れない関係でした。それが、この春で降りるということで、ニュースになったわけです。
この「一社提供」。広告とは何か、メディアとは何かを考えるうえで、重要なスタイルだと思います。
みなさんご存知の通り、テレビCMの枠には「タイム」と「スポット」があります。「タイム」は、番組にひもづく形式で「提供」として名前を読まれたり、ロゴが表示されたりするわけです。「スポット」は、番組との関係は基本的にはありません。GRPという「合計で視聴率何%分のCM枠で流したか」によって取引されます。
一社提供の番組は、今でもけっこうあります。「日立 世界ふしぎ発見」が典型で、番組名も「日立」と一緒にみんな記憶していますよね。探せば、他にもたくさんあります。
そもそも、テレビ黎明期は一社提供だらけでした。私がパッと思い出せるものでも「ロッテ 歌のアルバム」「花王名人劇場」「大正テレビ寄席」、いまも「シオノギ・ミュージックフェア」がそうですし、こないだ終わっちゃったけど「SMAP×SMAP」は前半だけロート製薬の一社提供でした。
業界の大先輩方の話を聞くと、昔はスポンサーとテレビ局がぐっと近い距離で、番組について意見交換していたようです。それは番組の内容に口出しをするという意味ではなく、良い番組にする相談をひざ詰めでしていたらしい。もちろん、商品を番組に出すとかそんな低レベルの話ではなく、テレビというメディアを、テレビ番組というコンテンツをどうしていくか、つくり手とお金の出し手が真剣に話していました。
私が思うに、「提供」というスタイルはコンテンツと企業の関係を結ぶ、ひとつの理想です。ポイントは、企業がコンテンツ制作に参加意識を持ってくれること。番組を高く評価してもらうからこそ、その広告枠に気持ちの入った値付けをしてもらえるわけです。「数字」だけではない価値付けになります。
これは、ネットメディアやネット広告に、大きく欠けている点ではないでしょうか。
逆に言うと、ネットメディアは「一社提供」の思想でスポンサーにきちんとプレゼンテーションすれば、PVとは別の価値を認めてもらえる可能性がある。私は、そう思います。
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