広告が期待するブランドへの態度変容に対する幻想
ポジショニングに引き続き、二番目の広告がなすべき態度変容への幻想に対して多くのマーケターは自分も含めて改めてこの点を考える必要があるでしょう。この主張の根拠は下記のローマニアック氏の視点にあります。
市場シェアの大きなブランドほど、小さなブランドと比較してよりポジティブな態度を持つことは示されるが、それらの(より強い)ポジティブな態度がブランドの使用を促進しているという証拠はほとんどない。より典型的な顧客の態度というものは、非常に少ない人々がブランドを愛しており、また非常に少ない人々がブランドを憎んでいて、それ以外の多数の人々はただブランドに対して完璧に「買ってもオーケー」程度だというものだ。(『How Brands Grow Part2』より筆者翻訳)
マーケターが広告メッセージの伝達効果測定に「態度変容」を加えるのは、「そのブランドが好きになった」「そのブランドに関心を持つようになった」というブランドの認識に対する変化を、いわゆるハードセル型のプロダクト広告と目的を明確にしたいからという意図があらわれています。つまり売上に直接寄与しない広告の効果について「態度変容」として意味を与えているわけです。
しかしながらバイロン・シャープ氏は、いわゆるそのようなマーケターの態度変容の幻想に対しても、多くの広告にそのような効果はない、と批判する一方で、認知に寄与する広告は、購買可能性の高い顧客の「記憶に残る」ことで、売上に寄与している、と主張しています。
AIDA(筆者注Attention(注意)、Intention(関心)、Desire(欲求)、Action(行動)を前提とした広告行動モデル)のような古いモデルは、広告の目的を、今まで知らなかった事実を伝え、今まで買っていた商品と違うものを買うべきだと説得して信念を変えさせるものである、という共通の考えが反映されたものである。すなわち「このトイレットペーパーXを買いなさい。これは(他のブランドより)ずっと柔らかいですよ」のように。
しかしながら、多くの場合広告の説得させる力は弱々しいものである。第一、ひとびとはマーケターがそう願うようには広告には注意を向けてもおらず、消費者はそのことで動かされたりしない。・・・(中略)
それでは、どう広告は機能するのだろうか?その答えは、広告はひとびとに考えさせたり意見を無理やり変えさせたりせずに機能するのだ。・・・(中略)
どのブランドをひとびとが買うのかは、彼らがどんなブランドかを気づき、認識し、そして思い出すかによるのである。消費者の心の中でブランドがどのような適用性があるか(メンタルアベイラビリティ)が問題で、どのブランドが思い出されるかは一定ではなく変化し、状況によって変わっていく。広告の重要な役割とは、そのようなメンタルアベイラビリティを構築し、リフレッシュさせることなのである。(バイロン・シャープほか共著『Marketing:Theory, Evidence, Practice 2nd Edition (2017)』より筆者翻訳)
もっと言えば、ブランドクリエイティブの金科玉条のように語られる「情緒的なつながりをブランドは顧客に対して作り上げるべき」という幻想に対しても、そのような顧客は一般的ではない、というのが彼やローマニウク氏の主張です。多くの顧客は日々さまざまな関心事に頭を使っているため、そもそも同カテゴリーのブランド間の違いを対して気に留めていないのです。
もちろんそのような顧客はゼロではありません。ですが少数過ぎるため成長には役立ちません。前回述べたように成長の寄与するのは基本的に関わりの薄い大多数のライトユーザーだからです。だからこそ少数のロイヤル顧客にしか通じない態度を持った情緒的つながりをブランドに求めるのではなく、そのブランドがより幅広い顧客に対して確実に役に立つ商品カテゴリーの機会(CEP)を最大化することが求められるのです。
そのためにはブランドが明確に人々の記憶に残るイメージが重要で、彼らの言葉で言えば差別化よりも「目立つ資産(Distinctive Assets)」を作り上げることで、より幅広い購買機会に対して顧客の頭のなかで再生されることが目指すべきことなのです。
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