狭い世界でしか機能しないアテンション効果
システム1が支配するような消費やメディア空間では、基本的にはモノは衝動買いされます。また衝動買いしたものは後で後悔するよりも先に、メルカリに出品され売られていきます。そのようなエコシステムは高速で流行るものがコミュニティ間で移動し値段が徐々に下がっていきます。メーカー側からすると適正な価格で売れる期間が短く、その後は消費者間の取引が活発になって消えるというパターンです。そういう経済の中では、情報という商品がもっとも価値があり、しかもその旬が短いことが課題になります。
もし、そのようなサイクルに巻き込まれるのが嫌であれば、別のエコシステムを生み出す必要があります。最近、スニーカー業界では「限定商品」がかつてのような完売による広いターゲットのアテンション効果を生むよりも、転売市場での付加価値のみを釣り上げ、しかも狭い世界での意味合いだけで、それを共有しない人々との壁をさらに高くする悪循環が生まれつつあります。
それを打破するためにはテクノロジーは欲望を扇動するものではなく、きちんと公平に人々と情報と価値を共有するプラットフォームとして機能させることが重要になりつつあるのです。
スポーツの世界では、音楽やエンターテインメントと同様に、試合やゲームの観戦のように、その試合を同じ時間、同じ場所で共有することが大きな価値になっています。最近のワールドカップにおいてNHKのアプリがマルチアングルなどの体験を提供したり、YouTubeがフジロックフェスティバルの中継をしたり、ハコスコで疑似VR体験を提供することは、チケットやリアルの体験の値段の価値を下げるよりは、むしろ上げるものとして機能していると言えます。
このようなテクノロジーが持つ可能性は、かつて理想として掲げられていたビジョンや理念を思い出させ、短く直感的にだけ神経をとがらせずに、体験を共有することで、単なる感覚以上のものを「共有する」ことがその肝だと言えるでしょう。そのような世界が実現されれば、単に好きなものを好きな人たちだけで語られるという偏りよりも、同じ時間、場所を共有することで、ワールドカップの対戦国同士のような一体感を生み出すことが出来るはずです。
そうであればマーケティングも短期的なアテンションや時間を奪い合うものにはならずに、より広い世界を見ながら新しい視野を提供するものとして機能するようになるのではないでしょうか。
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