「賢しら」にならない フレームワークは自社に応用できて機能するもの
この指摘に「ハッとした」と話す富永氏は、自身の経験から「リテール業界においては、とかく『競合の動きを見るように』と言いたくなる。しかし、それだけでよい結果は生まれないことも感じている」と話した。リテール業界においては売上を高めようと、特売品などのプロモーション施策に目が行きがちだが、実は日々丁寧な接客を心がけるといった、基本を徹底することの方が結果につながることが多いのだという。「差別化を意識しないというのは、基本を徹底することが、売上につながるというリテール業界の経験とも相通じるところがある」(富永氏)。
マーケティングの戦略を考えるとき、重視していることについて、富永氏は「賢(さか)しらにならないこと」と回答した。
「マーケティングについて、勉強することは大事だが、理論やフレームワークを身に着けて、そこで思考停止してしまう人が多い。自分の会社や事情に合わせて咀嚼して、自分の会社やサービスで使うときにどうするのか、顧客に徹底的に感情移入して考えることが実践においては必須」と解説した。
矢野氏も「笑わせよう、楽しませようとする人間っぽさが消費者に刺さるのではないか。特に共感は、そういうところからしか生まれないように思う」と話した。
またマーケティング組織のマネージメントというテーマでは、富永氏が「企画を考える際に“松竹梅”をつくらない」という提言を行った。責任者や上司の顔色をうかがい、複数の案を持っていくのではなく、自ら最も良いと思う案で進められるように説得する。ひいてはそれが全体の幸せにつながるという論だ。
冨永氏の発言を受けて、矢野氏は「マーケティングは企業の未来を見ている人たちだが、同じ組織においてもファイナンス部門は会社の過去を見ながら判断をしているし、営業は現在を見て活動をしている。見据えているものが異なれば、意見が合わないのは当たり前だと」話し、社内の意見に合わせて企業の未来を考えるべきマーケティング組織が小さくまとまってしまうことに警鐘を鳴らした。
富永氏も「その企画、本当に効果あるの?と聞かれることは多いが根拠はなくても、最高のスタッフで英知を集めて考えたので100%ではありませんが私は成功を確信しています、と言えることがマーケティングのトップとして大事である」と話した。
富永氏は最後に「今日の話で持ち帰る言葉をひとつ選ぶなら『差異化は考えるな』ということ。名言だと思います」と触れ、その言葉のインパクトの強さをうかがわせた。
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