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ブランドや企業のマーケティングは、音楽コンテンツで変えることができるだろうか?【Adver Times Day 2019 Spring】

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音楽にはブランドを記憶させる力がある

コウガミ:次に、タイアップの具体例を梶さんにお話していただきます。

梶 望 氏

梶:宇多田ヒカルの事例を紹介したいと思います。

現在もタイアップしている「サントリー天然水」は、スパークリング飲料分野も含めシェアを伸ばしたと聞いております。

こうした非常に良いシナジーが出せたのは、お互いのブランディングに対する姿勢がはっきりしていたからだと思っています。

サントリーさんは、後世にも残る曲と一緒にブランディングをしたいと考えていましたし、我々も楽曲に対するリスペクトのあるクライアントとご一緒したいと思っていた。こういったお互いブレない姿勢が売上につながったのだと思います。

もうひとつ、PlayStation®4(以下、PS®4)用ソフトウェアPlayStation®VR(以下、PS VR)とのコラボも大成功しました。宇多田ヒカルはPS®4用ソフトウェア『KINGDOM HEARTS III』のテーマソングを歌っていてPS®4との親和性も高くタイミング的に良かったこと。また、しばらくお休みをいただいていたこともあって、彼女を幻想のように思っていたファンも多かったようなんです。

それで、約12年ぶりのコンサートで実際に歌う彼女を見て「本当にいたんだ!」と感動するわけです。そういうストーリーの後にPS VRであらためて目の前60センチで歌ってくれる宇多田ヒカルを体験できると感動も倍増するという成功事例です。

今は、有名人と組んだCMを大量投下すれば物が売れる時代ではありませんからね。

コラボするかどうか決める時は、企業でも映画やドラマでも、相手先と組むことで何かワクワクするようなことがお互いにできそうかどうかで判断します。本当に宇多田ヒカルが必要なのか。なぜ必要とされているのか。我々の立ち位置もちゃんと見えることが大事です。

いま音楽業界は、定額で音楽を配信するサブスクリプションの普及によって、CDを買わせるマーケティングから、楽曲を聞く回数を増やすマーケティングへと変わろうとしています。

たとえば、「KINGDOM HEARTS III」のテーマソング『Face My Fears』は、宇多田ヒカルが洋楽の人気アーティストの スクリレックスと一緒にやったこともあって、日本の10倍以上の売上をアメリカでたたき出し、初の全米ビルボードTOP100入りを果たしました。

サブスクリプションサービスは、まだ日本ではこれからですが、アメリカをはじめとした世界では主流です。もしかすると、アメリカのファンの方が日本のファンより数は少ないかもしれません。しかし、アメリカのファンはこの楽曲を「お気に入り」に入れてくれて、何千回、何万回と聞いてくれているんです。こんな風に、ユニークユーザーのパイを得ることよりも、何回も聞いてくれるロイヤリティの高いファンを持つことがサブスクリプションマーケティングにおいては重要になっています。

今、企業が音楽とタイアップするなら、その楽曲と一緒にブランドもお気に入りに入れてもらえるくらいのシナジーがなければいけません。そのためには、可処分精神に音楽やブランドのライフタイムバリューを掛け合わせた基軸を新たなKPIとして設定する必要があるでしょう。

高野:エージェンシーの立場で言うと、音楽の可能性に対するブランドの期待をひしひしと感じています。競合と差別化を図りコモディティ化から脱する一番の方法は、会社や商品、サービスのビジョンや信念を伝えることです。しかし、それをそのまま言葉で発信しても、世の中にはなかなか伝わりません。

たとえば、立命館大学には「Beyond Borders(超えていけ)」というブランドスロ-ガンがあるのですが、それを同大学の卒業生がヴォーカルの感覚ピエロというアーティストとコラボして、受験生の応援ソング「#がんばれ受験生」として発信しました。

この楽曲は、キャンペーンが終わった後も毎年受験シーズンになるとソーシャルに出てくるんです。「歌詞に勇気づけられる」と。この楽曲は直接的に立命館の受験生を増やしているわけではなく、ブランドスローガンを伝えることに寄与しています。これは一例ですけど、音楽でブランドをデザインする取り組みは注目されつつあると感じています。

次ページ 「コラボの前に、目的と理由を明確にする」へ続く