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コラム

『ガラスの仮面』に学ぶマーケティング

『ガラスの仮面』に学ぶマーケターのヒント③「コア・メッセージを考える」篇

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自社製品の価値やメリットを伝えつつ、競合を陳腐化させる

ヘレン・ケラーはご存知ですね。障がいを持ちながらも、世界各国の障がいを持つ人の教育・福祉の発展に尽くした女性です。彼女の成長の中で大きな影響を与えたと言われているのが、彼女の家庭教師を務めたアニー・サリバン先生。この2人の出会いから、ヘレンがモノには名前があると理解する奇跡の瞬間までを描いたのが戯曲『奇跡の人』です(※“ガラカメ”ファンの方は、私がどの台詞を取り上げようとしているのか、もうお分かりですよね)。

その『奇跡の人』でヘレン・ケラーを演じる役者オーディションに北島マヤも姫川亜弓も参加するのですが、そこでこんな課題が与えられます。「様々な食事が並んでいる部屋でヘレンとして食事をしてください」。

亜弓様は数あるメニューの中からカレーを選ぶと、動物的に口に含み、直後に吐き出すという芝居(※あれが芝居だったのか、なりきった上での自然な行動だったのかは意見が分かれるところだと思いますが、私はあれは演技だったと思っています)をするのです。そして、その後のインタビューにおいて、カレーを吐き出した理由を聞かれた際の亜弓様の台詞がこちら。

「からいと思わなかったものですから」(ドヤッ!)

出典:美内すずえ『ガラスの仮面』第10巻(白泉社)

カレーを食べておいて、辛いと思わなかったですって!?!?!?

確かにヨーロッパで暮らしているヘレンは、カレーなんか食べたことはなかったでしょうから、辛いとは知らなかったでしょう。目が見えないヘレンは、ニオイが強烈だったから試しに口に含んでみたが、辛かったから思わず吐き出してしまった。

頭で考えると理解はできるのですが、この台詞、自然と出てきます??? カレーという誰もが知っている素材を活用した上でカレーは辛いという常識を覆すインパクトを与え、さらに視覚も聴覚も失ってサリバン先生と出会う前の粗雑で野性的なヘレンを演じているということを訴求しているこの一言に、脱帽です。

そして何よりスゴイと感じるのは、この台詞が、他の候補者の芝居が亜弓様の域まで達していないと感じさせる力を持っているという点です。「私はヘレンを演じきれているので辛いとは思わなかったのです(が、他の方はどうかしら? そこまで演じきれている方はいませんよね)」。そんな括弧の中の声まで伝わってくるのです。自分の長所を伝達するだけではなく、競合のできていないことを言い当てている。それが私の言いたい「【3】同時に競合を陳腐化できていること」の意味するところです。

そりゃ、こんな素晴らしい台詞なら、亜弓様もドヤ顔で答えるわ。さすがです、亜弓様。大量のたい焼きを差し入れさせてください。クイーンメリーで乾杯したいです。

世の中の人に圧倒的に良いと思わせつつ、記憶にも残り、思わず商品を手にとってしまうようなコア・メッセージを、私も開発したいものです。それが思いついた時ってどのような感じなのでしょう。やはりヘレンがモノには名前があると理解して思わず「ウォーター!」と叫んだ時のような感覚なのでしょうか。神様、お願いします。どうか私にそんな秀逸なコア・メッセージを思いつかせ、ヘレンと同じ感覚を体験させてください。亜弓様が演じたヘレンのように、私の体に電気を通してください!

出典:美内すずえ『ガラスの仮面』第12巻(白泉社)

【このシーンの背景】

新劇場のこけら落とし公演の演目が『奇跡の人』に決まる。ヘレンの家庭教師 アニー・サリバン役には姫川歌子が決まっている。ヘレン・オーディションには、姫川歌子の実の娘である姫川亜弓をはじめ、北島マヤ、この回しか登場しないが強い印象を残す金谷英美など、これからが期待される若手女優が呼ばれていた。それぞれが独自のやり方でヘレンを理解した上でオーディションにやってくる。ヘレン役に選ばれるのは、果たして誰なのか。

■登場人物の紹介

月影千草
往年の大女優であり、演劇界の語り草にもなる伝説の舞台『紅天女』の主演女優(姫川亜弓の母親である姫川歌子は、元々、月影千草の内弟子であった)。しかし舞台での事故で負傷し片目を失明したため一線を退き、自分の後継者として『紅天女』を再び演じてくれる女優を探していた。北島マヤの才能にいち早く気づき、彼女を女優へと育てていく。

余談にはなるが、彼女の本名は千津といい、その幼少期は中華料理屋の住み込みをしていた北島マヤが比べ物にならないほどドラマチックなのである。ぜひそこは単行本で読んでいただきたい。