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エージェンシーVS.コンサルティング会社 新しい関係性を探る1問1答

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2004年に米国・ニューヨークで始まった「Advertising Week」は、2016年から東京を舞台とする「Advertising Week Asia」(AWA)も開催している。今年は10月14日と15日の2日間、世界各地からの中継によりマーケティング、メディア、テクノロジー、クリエイティブ業界の関係者が一堂に会すオンラインイベントとして実施予定だ。そのAWA エグゼクティブ・プロデューサーの笠松良彦氏とアクセンチュア インタラクティブの黒川順一郎氏による、最新の「エージェンシーVS.コンサルティング会社」論を対談形式で実施した。率直な質問を投げかけたQ&Aを起点とする、対談の模様をレポートする。

【共同執筆者】

イグナイト 代表取締役社長
「Advertising Week Asia」エクゼクティブ・プロデューサー
笠松 良彦氏

博報堂において媒体・制作・PR・イベント等、コミュニケーション戦略全体を統括。電通に移りメディアマーケティング局チーフ・ストラテジストとしてメディアプランニングを中心に実施。電通とリクルートのジョイントベンチャーであるMedia Shakers代表取締役社長を務めた後、電通のコミュニケーションデザインセンターを経て2010年7月にイグナイトを設立。2006年カンヌ広告祭メディア部門プロモライオン受賞。

 

アクセンチュア 執行役員 インタラクティブ本部 統括本部長
黒川 順一郎氏

SIerを経てアクセンチュア入社。業界横断でIT戦略、デジタル戦略を中心としたコンサルティングサービスに従事。現在は、インタラクティブ本部 統括本部長として、「顧客体験を起点とした企業変革」の実現を世界有数のブランド企業に提供。IMJのM&A(2016年)をはじめ、デザインスタジオFjordやCGIに強みを持つMackevisionなどのブランドの日本立ち上げを率い、グループ全体で企業のビジネス成長を支援している。
Campaign Asia-Pacific主催「2019年エージェンシー・オブ・ザ・イヤー金賞」「コンサルタンシー・オブ・ザ・イヤー金賞」他、受賞多数。

 

Q1:
ずばり、広告会社とコンサルティング会社は「競合」すると思いますか?

Answers

Ans. by 笠松氏:一部のコンペ等、部分部分では競合するケースも発生しうる。しかし広告会社とコンサルティング会社の単純な競合ケースは減少するだろう。クライアントのマーケティング課題は複雑化・高度化しており、両者の協働・協業による課題解決が期待されているからである。

Ans. by 黒川氏:両者が競合する場面は少ないと考える。両者は、お客様企業の「予算」に対するアプローチや企業の強みが異なるほか、サービスを提供するお客様組織の部門も異なる。両者はお客様を巻き込みながら、ワンチームとなって高い付加価値を提供することが求められている。

笠松:クライアントを取り巻く状況や社会全体の大きなトレンドを見ても、広告会社とコンサルティング会社が競合関係になることは、今後はほぼないと言ってよいかと思います。事業会社が抱えているマーケティング課題を広告やコンサルティング業界の1社だけで解決することはますます困難になりますし、相互補完的に協業することが重要になります。

黒川:同感です。総合コンサルティング会社であるアクセンチュアも、広告・マーケティング分野に特化しているわけではなく、お客様の広告予算の獲得を目指すビジネスモデルでもありません。生活者への提供価値を向上させるために企業を変革する重要な要素として、マーケティングを位置付けています。全面競合する場面は少ないと思います。

笠松:広告会社は、企業の宣伝部に対してメディアやクリエイティブなどと紐付き、機能を横展開しています。ビジネスの原資は宣伝費です。一方で、コンサルティング会社は経営層や経営企画部と仕事をされることが多いですよね。欧米で先行していたメディアコミッションからの脱却が日本でも進んでいるなど予算のあり方も変化しており、今は過渡期だと思います。

黒川:私もテレビをたくさん見て青春時代を過ごしてきた世代ですし、今なお強い影響力を保持しています。また今後もある程度は変わらないでしょう。ブランド想起の効果を生み、日本の文化を形作ってきたのも、広告会社とトップクリエーターによる優れたクリエイティブ表現だったのではないかと思います。

笠松:おっしゃる通り、高度経済成長期は魅力的なアート表現を発信することで、商品が飛ぶように売れた時代でした。しかし社会環境は変化し、最近では「クライアントのToBe像を描く」「クライアントの課題を起点に広告のゴールを設定する」といった、バランス感覚のよいクリエーターが増えています。私自身も半世紀前に広告業界の大先輩から「広告は科学と芸術の高度な融合であるべき」と指導されてきました。1周回って原点回帰したように感じています。

Q2:
広告会社から見たコンサルティング会社、コンサルティング会社から見た広告会社。それぞれ「自分たちが有していない相手の資源」は何だと思いますか?

Answers

Ans. by 笠松氏:広告会社から見たコンサルティング会社としては、「経営層へのアプローチとノウハウ」「デジタルトランスフォーメーション(DX)のインフラ提案力」そして「財務諸表を読むチカラ」など、企業経営に関する人材やスキル、機能が第一には挙げられる。

Ans. by 黒川氏:「クリエイティブ開発力」を筆頭に、「宣伝部とのリレーションシップとネットワーク」「Below The Lineのプロモーション領域のノウハウと実践力」など、コンサルティング企業があまり手掛けてこなかった領域の実践力が、その「資源」に該当する。

黒川: 広告会社とコンサルティング会社は、もともと求められる価値、持つ機能や領域の被りが少ないので、あまり対比されることはありませんでした。しかし「デジタル時代」である昨今は、コンサルティング会社と広告代理店の連携が発生しています。たとえばアクセンチュアでは、アクセンチュア インタラクティブが中心となってデータアナリティクスなどの技術を活用しながら、消費者が決済へと至る一連の購買行動を分析して、消費者起点の価値体験を作り出すなど、様々なサービスを提供しています。そしてそのようなサービスを世に出し、認知を得るためには、マーケティングが必要不可欠です。その際、伝統的なメディア調達、紙ベースでのカタログ作成、タレントを起用したイベントなどはアクセンチュアがこれまでやってきていない分野の仕事であるため、広告会社と交わるポイントになっています。

笠松:「データ活用」は広告会社やクライアントにとってもホットなテーマですが、多くの日本企業ではデータベースが分散している傾向があります。突合の重要性は誰もが理解していますが、実現へのハードルはあまりにも高い。しかし、昨今はテクニカルな実現可能性だけでなく、「データを提供し、相互に活用する」というカルチャーの浸透に取り組む企業が増えています。

黒川:私はITの経験が長いのですが、データ統合は多くの企業にとって20年来のテーマです。横串でのデータ活用は、組織ガバナンスの問題と結びついています。縦割りの組織を解消するための突破力も同時に求められると痛感しています。

笠松:広告展開でも顧客IDを的確にマネジメントして、カスタマーエクスペリエンスを高めることの重要性が広く認識されています。市場は成熟しており「客数」を稼ぐことは難しい。「客単価×頻度」の向上のために、経営者の方々は「いかにして自社の経済圏で顧客に楽しんでいただくか」を真剣に考えています。

黒川:アクセンチュアも「アドバイザリー主体のコンサルティング」という旧来型モデルから、「クライアントのビジネス成果創出にコミットする伴走者」へと役割が変わってきています。

消費者に素晴らしい体験を届けるには、その企業自体が変わらなければなりません。アクセンチュア自身も、クライアントへ価値を提供し続けるため、新たなケイパビリティを取り込みつつ、大きな変革を遂げてきました。

ただし、私たちの主たるサービス領域はメディアバイイングではなく、新規ビジネスの開発支援など全社規模での企業変革です。

広告会社とはお互いの「相手の有していない資源」を持ち寄り、コラボレーションで付加価値の高いサービスを提供する時代だと考えています。

笠松:コンサルティング会社と協働しようという発想は、実は15年以上前からありました。いわゆる「上流から下流まで」という統合管理の思想に、多くの業界関係者は賛成します。とはいえ、クライアントと広告会社の双方が担当レベルや組織単位でサイロ化しており、横の連携を実現する統括的な窓口を持つことが困難でした。加えて、扱う情報の秘匿性が高く、互いに手の内を見せるわけにいかないのもその背景にはあります。こうした事情による不信感を徐々に取り除くコミュニケーションは並大抵ではなかったのです。

黒川:今後は、そうした組織運営の課題の段階的な解決が、協働において不可欠だといえますね。

Q3:
事業会社(クライアント)は、広告会社とコンサルティング会社をどのように使い分ければよいと思いますか?

Answers

Ans. by 笠松氏:自社の課題をレイヤーごとに整理し、各課題に対応できる広告会社とコンサルティング会社のケイパビリティを知ることが第一歩。同時に、「発注者・納品者」という境界線を打破し、関係者全員によるオープンイノベーションの実現が必要だ。

Ans. by 黒川氏:使い分けよりも、両者を取り込み、渾然一体となったチームを編成して新しい顧客体験価値を生み出してはどうか。広告・マーケティングの「インハウス化」は現在のトレンドであり、コントロールを取り戻す動きが活発化している。

笠松:宣伝部に限らず、大企業の部門長クラスは非常に優秀な方々ばかりです。優秀であるがゆえに、自部門をきちんと管理し、成果を出そうとする過程で部門最適が先行してしまい、全社規模での統合的なマーケティング戦略が見えにくくなってしまうという弊害に苦慮されています。異業種企業を集めて1つのマーケティングソリューションチームを構成することが、効率改善につながると考えています。

黒川:アクセンチュア インタラクティブでも、「ベンダー的立場でのサービス提供」には限界があると考えています。私たちのデジタルネイティブ人材がお客様側の組織に入ってプロジェクトメンバーとなり、フラットかつオープンな関係性を構築したうえで案件を進めるというモデルの定着が進んでいます。

笠松:なるほど。私も最近はクライアントの宣伝部の方々へ「従来からの、発注して納品を待つスタンスを変え、私たちと同じベクトルで共同作業をしませんか」と提案しています。私はオープンイノベーションが重要だと考えていて、私が持つノウハウをクライアントへ移植し、内製化のお手伝いをしたいと思っています。

黒川:外部へ依存しすぎたことへの反動あるいは反省として、広告業務やマーケティングのインハウス化がトレンドですね。いまではデジタルと並んで重要性が認知されています。

笠松:利害が対立しやすい社内組織同士の連携や外部会社の活用においても、私たちのようなニュートラルの立場の者が入ることでうまく機能します。イグナイトはエージェンシーフリーであり、様々なサービスの目利き役にもなります。

黒川:アクセンチュアもベンダーフリーを提唱していて同じ考えです。インタラクティブでは、最後まで責任を持ってプロジェクトを仕上げるために「足りないピースは何か?」「さらなるエクスペリエンス創出のために、我々に必要な変化は?」といったテーマを考え抜いた結果として、IMJやFjord、Mackevision、Droga5といったトップレベルのブランドを社内にもち、協働しています。

笠松:私もニューヨークでDroga5のDavid Drogaと会ったことがあります。とても“イケてる会社”です(笑)。AWA2020でもセッションを持っていただけるので楽しみです。今は世界経済が混沌としているからこそ、「数字でビジネス目標を見極めて管理するプロフェッショナル」がクライアントに求められています。アクセンチュアが広告やマーケティング業界でプレゼンスを高めているのは、自然の流れでしょう。

黒川:成功モデルを実現するには、どのようなことが必要だと思われますか?

笠松:やはり実際のコラボレーション事例を作る事に尽きます。しかしまだまだ数が足りません。「なるほど、ああいうやり方があるのか」と認知されれば、広告業界にもコンサルティング企業との協働は急速に広まると思います。ご一緒できるプロジェクトをぜひ創出していきたいと思います。

黒川:ありがとうございます。明治維新から150年の今は、いわば令和の維新と呼べる節目の時代ではないでしょうか。未来の日本の礎を創るためにも、業界関係者は“令和の維持志士”として、「対立」ではなく「協働」が必要だと思います。ぜひ宜しくお願いします。