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物ではなく時間を価値にしたコミュニケーション — クラシエホームプロダクツ「mä&më」

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『ブレーン』2020年12月号の特集テーマは、「コンセプトからヒットを生む広告と商品デザイン」です。今回は特集の中から、クラシエホームプロダクツ「mä&më」の記事をアドタイ限定で全文公開。誌面では他にも、花王「アタックZERO」、江崎グリコ「カフェオーレ」、アクア・ライブ・インベストメント「カワスイ 川崎水族館」など、さまざまな事例を紹介しています。

クラシエホームプロダクツが2018年9月にスタートしたヘアケアブランド「mä&më(マー&ミー)」。大人と子どもが一緒に使えることを強みとして商品を展開している。

CONCEPT:“2人のレディーを美しく。”親子が一緒に美を楽しむ時間

2018年9月に発売した「マー&ミー シャンプー」(左)と「同 コンディショナー」(右)。

IとYouだけでなくWeの目線を

「現在のヘアケア市場は、女性が1人で使うことを想定した商品が多く、パーソナライズ化が進んでいます。それに比べると家族用シャンプーは非常に少ない状態でした」と話すのは、クラシエホームプロダクツ(以下、クラシエ) ヘアケアマーケティング部 係長 綿引志帆さんだ。そこで世の中の親子のシャンプーの使い方に目を向けると、自分用のダメージケアシャンプーを子どもにも使う人と、家族向けのシャンプーを自分も使う人とで、主に2パターンがいたという。

「自分目線でシャンプーを選ぶ『I』の目線、子ども目線で選ぶ『You』の目線があると気づきました。しかしお母さんたちにヒアリングをすると、『I』の場合は大人用を子どもに使って本当に大丈夫かな?という不安があり、『You』の場合は自分の髪の仕上がりや香りに満足しきれず、どちらを選んでも悩みを抱えているようで。大人も子どもも使えて、一生のうちでもごく限られた親子のバスタイムを大切な時間にしていけるような、本当の意味で『We』の商品をつくりたいと思い、開発に至りました」と綿引さんは開発の背景を説明する。

パッケージも含め、商品やブランドの世界観ができた後、コミュニケーション戦略を担ったのはハッピーアワーズ博報堂だ。

代表取締役社長/クリエイティブディレクター 藤井一成さんは「お母さんと子ども両方の髪質に優しいという製品のファンクション(機能)を信頼しながらも、成分などの機能性をそのまま生活者に訴えても届きにくい、と仮定。そこで生活者の方々にこのブランドが命を吹き込まれた意味を理解してもらうべく、さらにエモーション(感情、想い)をふくらまそうと考えました」と話す。

そうして行き着いた価値が「親子が一緒に美を楽しむ時間」だった。

「赤ちゃんはやがて親と同じものを使い始めます。子どもって、親と一緒のものを使うのがすごく嬉しいんですよね。家族用シャンプーは効率性や利便性で選ばれることが多いですが、『マー&ミー』の場合は、この親と子が一緒のものを使って過ごすモーメントとその喜びこそがインサイトにあるのではないかと考えました」(藤井さん)。

売っているのは物ではなく時間?

「マー&ミー シャンプー コンディショナー」のテレビCM「いたわり」篇。

コミュニケーションも「親子が一緒に美を楽しむ時間」を価値の中心に据えて展開している。テレビCMでは機能性を打ち出さず、お風呂の外で母と子どもが一緒に時間を過ごす様子をメインで描いた。catch 福部明浩さんがクリエイティブディレクターを、博報堂 山崎南波子さんがアートディレクターを務めている。

「製品自体ではなく、一緒に楽しむ時間をブランドの価値の中心に据えることで、その時間を過ごすのに必要な物は何か、と逆算して商品開発ができる。物ではなく時間を売っているんだと思うんです」(藤井さん)。実際に、タオルやヘアブラシなどのオリジナルアイテムのプレゼントキャンペーンを実施。回を重ねるごとに応募が増えているという。

テレビCMでは直接的な訴求を避けた分、プロモーションは「全てのお母さんに届ける勢いで徹底的にやりました(笑)」と、ハッピーアワーズ博報堂 企画 寺岡重人さんは振り返る。たとえば、全国の幼稚園や保育園で保護者に配布される情報誌を通じたサンプリングや、母と娘で同じ髪形をして写真を投稿する「#リンクヘアー」など。

最近では、「mä&më Latte×七五三」を開始した。子どもがベビー・キッズシャンプーを卒業し、大人と同じシャンプーを使うタイミングは3歳前後が最も多い、というクラシエの調査結果に基づくものだ。

「3歳の七五三は『髪置きの儀』と呼ばれ、子どもの健やかな成長などの願いを込め、髪を伸ばし始める儀式だったそうです。おしゃれに興味を持ち始めるその歳を、“レディーのはじまり”ととらえ、一部の着物レンタルショップや神社でサンプリングを始めました。ゆくゆくは千歳飴のように、七五三の“定番”になってくれたら嬉しいですね」(寺岡さん)。

さらに藤井さんは「赤ちゃん用の製品カテゴリーからのエントリーポイントとして『3歳』という年齢をきちんと打ち出す必要がありました。長期的に浸透させていくことで、毎年一定のエントリーユーザーの増加が見込めます」と話す。

ターゲットの狭さを商談ツールでカバー

ターゲットを明確に設定したために、市場が狭いのではないか、という懸念も。店頭できちんと棚を確保するためには、3歳前後の子どもがいる親に絞ったプロモーションに期待感を持ってもらうことが重要だった。

「そこで販売企業との商談の場で使えるパンフレットを作成しました。商品紹介はもちろん、認知使用意向率やリピート率といったファクト、年間のコミュニケーションスケジュールなども記載しています」(藤井さん)。

商談用に制作したパンフレット2種。

「その結果、通常の商談では全新製品が掲載された資料を使いますが、『マー&ミー』だけの資料を用意したことで、ブランドへの理解を深めるのに有効だったと聞いています」と綿引さんは話す。

商品専用の資料作成も含め、クラシエとハッピーアワーズ博報堂がスムーズに企画を進められているのは「関係者全員がブランドの価値を理解できているから」だと綿引さん。

藤井さんも「驚くことに、関係する全ての部署の担当の方々が打ち合わせに来てくださるんです(笑)。毎回その最初に、変わらないこと(ブランド価値=親子が一緒に美を楽しむ時間)と、変えることを話すようにしています。開発担当者から販促担当者まで一気通貫してブランドの価値を理解し、同じ方向を向いているため、僕らの提案で“ボツ”になることは、今のところほとんどないです」と話す。

今年8月に発売した(左から)「マー&ミー ダメージリペア」ライン、「洗い流さないトリートメント& スタイリング」シリーズ。

売上も前年比約140%アップと順調だ。今後の目標は、まずは価値を維持したままブランドを継続させること。「今『マー&ミー』を使っているお母さんの子どもたちが、親になった時にまた使ってくれる。そのサイクルを1周させたい」と3人は口をそろえる。「娘がママになったときに同じように使ってくれる日が来るまで、ブランドを続けられたら嬉しいですね」(綿引さん)。

(左から)ハッピーアワーズ博報堂 企画 寺岡重人さん
クラシエホームプロダクツ ヘアケアマーケティング部係長 綿引志帆さん
ハッピーアワーズ博報堂 代表取締役社長/クリエイティブディレクター 藤井一成さん

 

『ブレーン』2020年12月号

【特集】
コンセプトからヒットを生む広告と商品デザイン

・花王「アタックZERO」
・クラシエホームプロダクツ「mä&më」
・江崎グリコ「カフェオーレ」
・アクア・ライブ・インベストメント「カワスイ 川崎水族館」
・三菱鉛筆×GRAPH「3&bC」
・トリコ「FUJIMI」
・ヤギ「VIBTEX」
・タガヤ「Nœud.TOKYO」
・豊上製菓「信州アップルパイ研究所Q」
・伊良コーラ
・パッケージデザインの好意度をAIで評価ヒットを生むことは可能か/小川亮(プラグ)
 

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