十分な情報を持たないまま、敵陣に乗り込んで敗退
これまで競合コンペの後で反省会をしたり、関係者で情報共有をしたりしてきましたが、敗因の多くは「情報不足」なのではないかと感じます。
そのコンペでクライアントが求めていることは何なのか。なぜコンペを開催するのか。現状に不満があるのか。今何が足りないと感じているのかなど。十分な情報を得ないまま戦っていることが多いのではないでしょうか。
次はある地方の、観光キャンペーンの競合コンペでのお話です。我々は「観光客を呼ぶために広告とはかくあるべき」というプレゼンをし、カッコいいポスターのデザインなどを提案しました。
しかし先方の担当者からは、「ポスターに使用する写真はどうするのか?」という質問がありました。四季折々の美しい風景は、1年前から撮影しておく必要があることはもちろんですが、その地域には様々な文化財や建造物があり、それらの撮影にはかなりのノウハウが必要であるらしかったのです。我々はそのことをまったく把握していませんでした。
クライアントにとっては、その写真の手配をどうするのかが最も大きな悩み。我々の提案は撮影がより困難になる内容であり、彼らの課題に答えるものではありませんでした。写真手配のプロセスも含めてキャンペーン全体をうまく回してくれそうなパートナーをクライアントは求めていたのです。
どうすればそのゲームを制することができるのか。勝敗を決めるルールを知らないまま試合に臨むことは、リスクの高い戦い方になると言えるでしょう。
クライアントの顔ばかりを見て、結局敗退
さらに、あるメーカーの新商品ローンチ広告の競合コンペで敗北した時の話です。コンペ後にクライアントからこんなことを言われました。「もっと勉強してもらわないと困る」と。
このクライアントとの付き合いは短くはなかったので、かなり意外なお言葉をもらった印象を受けました。
我々はクライアントの目指す方向性を理解し、新商品の特長もきちんと踏まえた上で企画を組み立て提案したつもりでした。クライアントとの付き合いも長く、十分に理解しているつもりだったのです。どんな広告を望んでいるか、担当者がどんな企画を好むかなど、おおよそ掴んでいる自負もありました。
しかしクライアントの真意は違いました。「商品に関する知識はきちんと持っていたと思うが、今本当に必要な課題をちゃんと捉えていない。商品のデビュー広告ではあるが、ただ商品を見せたいだけではない。その先のお客さんのアクションが重要。お客さんが新しい商品を手に取りたいと思い、行動を起こすアクションにつながる施策提案が欲しかった」と。
ここで気付かされたことは、我々は本当の意味でクライアントの頭の中を理解していたわけではなかった、ということです。我々は長い付き合いの中で“知っているつもり”でいました。でも、ただクライアントを見ていただけだったようです。クライアントの資料を見て、顔色を見て、発する言葉を聞いていただけでした。
「クライアントが何を見ているのか」を、我々は見ていなかったのです。「もっと勉強する」とは、そういうことなのでしょう。クライアントは常に自分たちの業界を見ています。競合がどんな動きをし、顧客がどんな動きをし、商品がどんな動きをしているのか、とにかく見ています。
このクライアントの課題は「ブランドチェンジが起こりにくくなっている」ということでした。市場を見て、そこに危機感を覚えていたのです。彼らの視点から見て、今何が必要なのか。我々はそれを見ることを忘れていました。
つまり、クライアントが発する言葉をただ鵜吞みにするのではなく、クライアントが何を見てその言葉を発しているのかを知っておくべきだったのです。そこまでを理解した上で、改めて我々の視点から企画し提案しなければ、相手の期待を上回ることはできません。
クライアントが開催する「競合コンペ」という試合がどんなルールで行われるのか。クライアントの顔を見るのではなく、クライアントの視点の先にあるものを確認しておかないと、ゲームを制することはできないのです。
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