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コラム

澤本・権八のすぐに終わりますから。アドタイ出張所

膨大な表現方法の中で、たまたまひとつの座標を見つけた(ゲスト:友沢こたお)【後編】

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狂気の世界で描く、“あるがままのもの”

権八:なんでスライムをかぶって、あれを描こうって思ったの?

友沢:それは最初にも話したとおり、「原点に戻る」っていうことなんですよね。自分なりの「ああして、こうして」っていう表現で闘うのは、もう苦しかったわけですよ、周りが怖くて……。それで原点に戻って “あるがままのもの” を描こうと、そういうことです。

権八:そっか……。ぼくらも、曲がりなりにもモノをつくる仕事をしていますけど、やっぱり「自分と、世界と、作品」ていうかさ、そこだけに集中して突き詰めることってなかなか出来ないわけですよ。だから、そこに対しては、ものすごい憧れがありますね。

友沢:いや、でもすごいことをされていると思います……。私には、できないから。みんな違って、みんないいんですよ。

一同:爆笑

澤本:ははははは!ありがとうございます!!

中村:そうした葛藤を経て、2020年12月に初の個展を開催されましたね。これに対する反響とか、そこに至るドキドキ感は、どんな感じだったんですか?

友沢:やっぱり、絵を描くっていうのはそれだけで「めちゃくちゃ恐ろしいこと」なんですよ。だって、真っ白なキャンバスをなんだか自分なりに塗っているわけですよ?これって、恐怖なんですよ。すごい恐怖と毎秒闘ってるんですよ……。さらに、それを色んな方に見せるとなると、もうそれは恐怖どころではなくて「狂気の世界」なんですよ、私には。私、繊細なんですよ、ね……。

一同:爆笑

友沢:だから、狂気みたいな感じで頭をバグらせながら、挑んだ初個展だったんです。蓋を開けてみたら、初日から大行列ができていまして……。ほんっとに「何でなんだろう?」って思うんですけど、めちゃくちゃ幸せな初個展でした。

権八:うーん、そっかぁ。でも、その怖いっていうのは面白いですね。

澤本:そうですね。

権八:小林秀雄という昔の文芸評論家がいるんですが、うる覚えですが「毎秒毎秒、過去に向かって未来を紡ぐのだ」みたいな感じの事を言っていて。たしかに、描いた瞬間に過去になるみたいなことですよね。

友沢:カッコいい……。そうですね。

権八:高校の時ぐらいに読んだそれを、なんか今パッと思い出したんですけど。何もないところに描く「最初の一歩」が怖いのかな?一筆目?

友沢:いや、「描き始めようとする瞬間」が怖いですよね……。だから、バグらせているんですよ、いつも。考えたら怖いから、あんまり考えないようにしてるって感じですね。だから、ちょっとでもそこをほじくられると「ああぁ~〜、ぎゃあぁー!!!」みたいになる。

澤本:正気にかえると、「もしかしたら、これじゃなかったんじゃないか?」とか、やめたくなっちゃう、みたいな?

友沢:そうなんですよ……。 正気にかえらないように生きているんですよね。「ぎゃあぁ~~!!!」ってならないように暮らしていますね。

権八:え〜と、ちょっと待って?(笑)

友沢:でも、絵を描くのは楽しいです。楽しいからやってます!(笑)

権八:楽しいけど、正気をバグらせながら描いている、と。自分の中に渦巻いている感情を筆に込めて「バンッ」てやるとなると、エネルギー使って、疲れるんじゃない?

友沢:疲れますね、寝込んじゃうので……。今は月に結構な作品数を描いているんですけど、結構寝込んでいますよ……。ボロボロですよ、なんか。

澤本:へぇ~、それはすごい……。

友沢:お風呂も入らないし、ご飯も変なものしか食べないし(笑)。ボロボロなんですよ。

権八:ご飯、ちゃんとしたものが……食べれなくなっちゃうのか。

友沢:あんまり食欲もなくなってきて「早くブドウ糖を脳に入れたい」みたいな感じになる。溶かしたらジュースになります、みたいな粉売っているんですけどね、駄菓子の。

澤本:ははは、駄菓子のね!泡サイダーみたいなやつ。

友沢:そうです、あれを粉のまんま「ガァーッ!!」って食べて、描いてます。

極限までぬるぬるしたものを

澤本:さっき、画風も「特殊なタッチ」だと言われましたけど。これは独自に編み出したものなのか、それとも、そういうインスピレーションを受けた、みたいなことが?

友沢:うーん……。分かんないですねぇ……。描き方は自分で編み出しているな、と思いますね。でも「ちゃんとした描き方」を諦めたんですよ、私は。ちゃんと習う描き方っていうのは、 “光の表現”と“影の表現”を描き分けることなんですけど。ザラつかせた調子っていうのを大事にしなきゃいけないんですよね。でも、私はザラつきを残せないんですよ。全部をぬるぬるにした上で、さらにぬるませる、みたいな……。

澤本:ぬるませる……?(笑)

友沢:粘土とかで「お友達の顔をつくりましょう」みたいな時にも、すごい “ぬるませる” んです。やっぱり、人間らしい“ふわふわ感”ってあるんですけど、私がつくると「これはブロンズですか?」って言われるぐらい、トゥルントゥルンになってしまうんですよね。でも、別にそうさせたくてやっているわけではないんです……。まぁ、自分は勝手に、自然にそこに行き着いたし、自分の人間性みたいな部分にもやっぱりぬるぬるしたところがあるんですよね……(笑)。なんでも吸い込んでいくというか。

澤本:それは毛が生えていたり、ブツブツがイヤだとか、そういうことじゃない?

友沢:全然イヤじゃないですよ。描けるもんなら描きたい、と思っていたわけですから。まぁ、上手い人はいっぱいいますよね……。

中村:なるほど!「自分はそこじゃねぇ!」と?

友沢:そこじゃねえっていうか……なんか、私がそういうのをやるのもなんかね、アレですけどぉ……。なんかね……。でも、これは自分にしか出来ないことじゃないのかな、と。極限までぬるぬるしたものを、変な描き方で描いているという。

権八:どんな描き方をしているのかっていうのは多分、シークレットで見せられないと思うんですけど。なんか写真っぽい感じがするよね。

友沢:まぁ、写真を見て描いてはいるんですけど。でも、やっぱり変な描き方をしているので。作品を画像で見た方には「上手い!写真みたいじゃん」と言っていただくことが多いですね。クールで細密な、ハイパーリアリズムの絵、みたいに受け取られることが多いんですが、自分としてはぜひ生で見てほしいな、と思いますね。

権八:そうですよね、生だと印象違うよね。

澤本:あぁ~、そうなんだ?見てみたい。

友沢:結構変ですよ、生で見ると。「上手い!」っていう感じではないかもしれない。「なんか、ぬるぬるしてんなぁ……」って感じ。

澤本:昔は陰影のあるリンゴとか、油絵っぽいものを描いていたんですか?

友沢:そうですよ、ちゃんと頑張ってやっていました。でもやっぱり、そういうのが最初からすごく上手い人がいるんですよ。でも、私は視野が1センチ位しかないんですよね、ホント。1センチ1センチを完璧にしようとするので、全体感というよりは “なにかの呪いの凝縮” みたいな絵ができるんですよね。
で、私はぶっきら棒な一面も持っていまして。 さっきの「1センチの視野」と、超ぶっきら棒な部分が合わさるんですよ、絵の中で。だから、私の絵はスライムの部分は
「んぬおぉ~ッ!!!」って “怨念” が入っているんですけど、そうじゃないところは「ハァーッ!!」と、すごい大胆に描いたりしていて。思いっきりバーン!って毛が入ってたり。“ちっちゃいことは気にしない精神”もめちゃくちゃ持ち合わせていますね。そういう意味で、私の絵は生で見ていただくと嬉しいですし、面白いと思います。

次ページ 「「油絵の宇宙」で見つけた、ひとつの座標」へ続く