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「こちらが、肉うどんです。」機会を最大に生かすSNS戦略

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「こちらが、肉うどんです。」――丸亀製麺が2021年12月、Twitterに写真と共に投稿した文章だ。写真1点とたったこれだけの文で、リツイートは1万4000回、「いいね」の数は4万8000という数字を叩き出した。話題化だけでなく、「肉うどん」の既存店売上【前週比】で、数百万円分押し上げたことも分析の結果、わかっている。
この投稿は、どのようにして生まれたのか。また、なぜこれだけの成果につながったのか。実際に丸亀製麺のSNS運用を担当しているマーケティング統括部の小西香織氏と、CARTA COMMUNICATIONS(CCI)、Social AdTrimチームマネージャーを務める笹秀史氏との対談からその裏側を紐解く(※本稿は2022年2月開催のセミナー「丸亀製麺と考える、マーケティングの成果につながるSNS活用」の講演を基に再構成したものです)。

重要なのは、アカウント運用の目的と”生きた”フォロワー

この投稿自体の背景は、漫才師日本一を決める「M-1グランプリ2021」のネタのひとつから。漫才コンビ「ロングコートダディ」の漫才中に、「肉うどん」というフレーズが登場し、そのシュールさから、Twitter上でトレンドワードになっていた。

丸亀製麺 マーケティング統括部 小西香織氏

丸亀製麺マーケティング統括部の小西香織氏は、「SNS運用チーム内で『これは、いま投稿するしかない』と判断しました」と語る。この判断を支えたのは、日々の地道とも言えるTwitter業務だった。

小西氏が語る、丸亀製麺のTwitter運用戦略は、(1)ファンを拡大し、エンゲージメント(関与度)の高い状態を保つこと (2)商品展開スケジュールに合わせて広告やプロモーションを運用し、売り上げにつなげること (3)Twitterユーザーの、丸亀製麺についての自発的な投稿を促すこと の3つだ。

 
まずは「ファンの拡大」と「関与度の高い状態の保持」。丸亀製麺のTwitterアカウントのフォロワー数は2022年3月時点で、100万人まであとわずかの99万4000人に上る。ただ、丸亀製麺からの情報発信が届くリーチという観点からフォロワー数も重要としつつ、より重視していることがあるという。それは、どれだけ内容を見られて、反応されているか、だ。

 
「現時点でTwitterを利用していて、かつ、投稿に対して反応していただいたり、あるいはご自身で丸亀製麺について発話していたり、という”生きた”アカウントの方がフォローしてくださっている状況を重視しています。それが実際の話題の広がりやその先の来店、売上といった成果につながると考えるからです。なので、一見、右肩上がりに増えているように見えるのですが、実は細かく見ると、お客さまであるフォロワーの内訳としては常に入れ替わりながら増減しています」(小西氏)

これに対して、「とても本質的なポイント」と指摘するのはCARTA COMMUNICATIONS(CCI)のSocial AdTrimチームマネージャーを務める笹秀史氏だ。CCIでは、2020年よりSNSアカウント運用サービス「CCI Social AdTrim」を提供し、SNSを軸とした企業の課題解決を実現している。笹氏個人もInstagramで「ラーメンサラリーマンささ」として約2万人のフォロワーを持つ。

 
Social AdTrimによく寄せられる課題のひとつが「フォロワーが増えない」というもの。しかし笹氏は「まずはフォロワーを集める目的をきちんと確認すべき」と話す。

CARTA COMMUNICATIONS Social AdTrim チーム・チームマネージャー 笹秀史氏

「たとえばあるお客様からのご相談で、『SNSフォロワーで10万人を目標にしたい』と伺ったことがあります。しかし調べてみると、ご相談いただいたお客様の商圏に住む人口は約8万人ほど。もし、商圏住民向けの発信という目的であれば、その中で更にSNS利用者でかつ、興味関心事項も合っていて……となると、10万人には到底届きません。しかも、小西さんがおっしゃるように、フォローだけしていて見ない、というユーザーがいると、成果にはつながりづらいものです。アクティブな方で、となると目標規模はぐっと小さくなります。また、さらにいえば、フォロワーを集めてどうするのか、その先の活用は、というところまで考えていなければ、その掲げるフォロワーの数や内訳は有意義なものとは言えません。『まずは1万フォロワーいかないと格好がつかない』等の数字が先行しがちですが、SNSアカウントの目的からフォロワー数やその内訳、投稿コンテンツ含めた運用方針、施策ごとのKPI等定めていくのが、まずなによりもSNSを効果的に活用する第一歩だと思います」(笹氏)

 
では、関与度の高いフォロワーを集めつつ、そのエンゲージメントを維持するにはどうすればいいか。それは、日々のたゆまぬ投稿と、広告運用の両翼が必要となる。小西氏はこう話す。

「丸亀製麺アカウントを見てくださっている方を飽きさせないよう、毎日新鮮な情報をお届けすることと、さらに商品プロモーションに合わせてさまざまなキャンペーンを展開して、お客さまに楽しいブランド、役に立つアカウントだと感じていただくことだと思います。これはどんなブランドでも両方必要だと考えています」(小西氏)

とはいえ、毎日何件も投稿するような“ネタ”がない……小西氏の情報源のひとつは、店舗だ。

「お客さまがどういうものを召し上がっているのか、店舗に赴いて観察しています。そうすると、我々でも思いつかなかったような食べ合わせなどの新しい発見があります。自分だけで考えるのは限界があって、やはり好みが偏ってしまうんです。そこで、まずは店舗でどんなお客さまが、どんなものを、ということを情報源にしています」(小西氏)

もうひとつは、ほかのブランドが運用しているアカウントの投稿のチェック。もちろんマネするわけではない。

「投稿内容も参考にしつつ、そのブランドで自分たちが投稿するとしたら、どんな投稿をするか。あの話題とこの商品を組み合わせるか、など、シミュレーションしています。単に企画の発想力が鍛えられるだけでなく、それを経て、自分たちの投稿を見直すと、とても新鮮な気持ちで自社のアカウントに向き合うことができると感じます。当社のSNSは私ともうひとりの2人体制ですが、広告会社の方々もチームに加わって、いろいろな視点で、アンテナを張っています」(小西氏)

自身もラーメンのインスタグラマーとしてSNSアカウントを運用する笹氏も、「アカウント運用を続けていると自分が『発信したいこと優先』になり、マンネリ化や得られる反応が鈍くなりがち。そうならないよう、時節やユーザーの興味に合わせて投稿を考え投稿の幅を広げたり、過去の自身の投稿への反響を分析し、その傾向も踏まえながら事実/結果に基づいてコンテンツ改善をしています」と話す。

 
小西氏は、Twitterで多くの人が話題にしているフレーズなどが表示される「トレンド」欄に入ることも重視する。

「自分もそうなのですが、Twitterを開くと、まず自分のタイムライン(フォローしているアカウントの投稿などが並ぶ)を見て、その流れで『いま何が話題なのか』と『トレンド』を見て、という動線の方が少なくないと思います。そこに丸亀製麺の社名や、お出ししているメニュー名、シズルのある画像などが出ていると、お昼や晩ごはんに食べようかな、と思っていただけるのではないかと」(小西氏)

「トレンド」は投稿のヒントにもなる。「こちらが、肉うどんです。」も、そのとき放送されていた「M-1グランプリ2021」のネタをきっかけに投稿が増えたのは前述の通り。「肉うどん」について想起する人が増えた、まさに天からのチャンスに即応できたのは、常に「トレンド」の動向をチェックし、いざとなれば即時で動けるような体制と社内での信頼づくりがあったからだった。

プロモーションで売上に寄与、貢献度の可視化で信頼を積み重ねる

丸亀製麺だけでなく、外食産業は非常に限られたパイの奪い合い、激戦区だ。1人が1日3食、年間で約1095食という、明確な限界がある。もちろんすべてが外食ではないので、さらに少ないチャンスを多くの事業者が狙っていることになる。

「ソーシャルメディアも、丸亀製麺をご利用いただく確率や頻度をいかに高めるか、そのためにお客さまとなるべく数多く接触するための、ひとつの接点です。だからこそ商品よりお客さまが優先で、どのような方がどんな商品を好まれるのか。SNSでもとても重視して投稿に生かしているんです」と小西氏は言葉をつなぐ。

 
「その上で『いますぐ食べたくなるような五感に訴えかけるおいしさがきちんと伝わること』が大切です。『肉うどんです。』も、今すぐ食べたくなるような、一番おいしそうに見える写真を厳選しました。それも少なからず貢献したのではないかと思います」(小西氏)

一方、今回の「肉うどん」のようなシチュエーションは、そう滅多にあるものではない。その機会を生かす土壌づくりには、日頃のオーガニック投稿だけでなく、プロモーションという軸も欠かせない。

笹氏も、「日頃のオーガニック投稿と広告施策の両軸での運用で、それぞれの売上やそこに至るための中間指標といった成果への貢献度の可視化、効果検証をしながら進めていくことが重要」と説く。それが、様々な施策にチャレンジできる社内での信頼づくりにもつながるのだ。

「Twitterのようなリアルタイム性の高いメディアは、オーガニック投稿や広告、いずれの施策を打ったタイミングと、その後の売上やフォロワー、ブランドに関する会話量の推移を見て、相関しているかどうかで、貢献度を示すことができます。ただ、これらを同じ指標で一元管理し、一覧できるようにしているケースは多くない印象です。広告やオーガニックを別々に管理するのではなく、1枚絵にすることで、仮に担当部署が異なっても、同じ目標に向き合いやすくなります」(笹氏)

CCIが提供するダッシュボード。オーガニック&広告運用のデータや、売上等の関連データを一つのダッシュボードで一元化。それぞれの貢献度を可視化しながら適切な運用が可能

 

丸亀製麺で2020年に実施したタル鶏天ぶっかけのプロモーションでは、プロモーションのフェーズごとで、他メディア展開とあわせてSNSをフル活用。そこでの話題量が売上に貢献していることを可視化している

 

UGCで企業の情報に絶えず接触している状態を

丸亀製麺のSNS活用における方針の最後が「ユーザーによる自発的な投稿」。いわゆる「UGC(User Generated Contents)」だ。小西氏は「丸亀製麺だけが投稿している状況はできるだけ避けたい」という。

「丸亀製麺アカウントからの投稿が広まるのもひとつのきっかけ。より重要なのは、お客さまが丸亀製麺や当社のメニューについて自ら投稿し、それをその方のフォロワーが見て、『いいね』をしたり、リツイートしたりすることでブランドに接触することだと考えています。そうすると、さらに『おいしかった』という投稿が誘発され、それをまた別の方が見て来店の動機につながって……という循環を起こしたいんです」(小西氏)

 
どんな嗜好を持つ人がどのメニューを好むか、つまりユーザーのほうが先にあるのは、UGCを投稿してもらいやすくすることにも貢献する。多くのユーザーが話題にする『トレンド』に即座に反応するよう、日頃からチェックするのも、ユーザー投稿が増えるチャンスだからでもある。

「なるべくユーザーからの自然な発話を引き出すことは、キャンペーン目的でも大切なことです」と笹氏。

「よくあるのは単純に投稿数だけを増やす施策として、”ハッシュタグ付きツイートだけで応募完了”というケースです。ただ、それだけではなく、クイズの選択肢に認知してもらいたいキーワードを入れたり、アンケート形式でユーザーの方の自然な声を拾うといった、双方向性を意識するだけで、よりユーザーの人物像を意識しやすくなりますし、投稿の喚起にもつながります」(笹氏)

UGCの観点からは、フォロワーの属性分析や、フォロワーのフォロワーがどのような属性で、どれくらいの人数がいるのかなどの把握も重要

 
実はTwitterはサービス開始から16年、日本上陸で見ても14年という年数が経つ。習慣化している人もいれば、離れた人もいて全く不思議はない。そして、新しく使い始めた人も少なくないだろう。

「ユーザーによっては見ている日もあれば、見ていない日もあるものだと思いますし、だからこそ、いつ、お客さまがTwitterを開いても最新の情報が出ているように、毎日投稿を実施して、お客さまにとって優良な情報をお届けし、飽きられないようにすることが大切だと思います。また、昔はTwitterを使っていたけど、今はTwitterを使っていない方もおられると思います。フォロワーの数が最重要ではなく、反応が大切、というのは、今Twitter上でアクティブに活動されているお客さまに反応いただけることに意味があると思っており、そんな方が丸亀製麺をフォローしてくださっているお客さまにたくさんいる状態を目指したいからです。フォロワーであるお客さまが、どうすればより反応したり話題にしたくなったりするか、内容を意識しながら1投稿、その投稿の言い回し、テキストの改行にいたるまで、細部に目を配りながら取り組んでいます」(小西氏)

そうして積み重ねて、アンテナを磨き上げた先に、ふと現れるチャンス。それが、「こちらが、肉うどんです。」の投稿だったのだ。140文字使えるうちのたった12文字。しかも誘導先のリンクなし。興ざめしないよう、わざとらしさをなくしつつ、商品にもきちんとつなげる。日々の試行錯誤の結晶となった12文字となった。

 



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株式会社CARTA COMMUNICATIONS メディアソリューション・ディビジョン Social AdTrimチーム
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