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GINZA SIXが5周年プロモ コロナ禍経てデジタルで新機軸

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商業施設「GINZA SIX(ギンザシックス)」(東京・中央)は開業5周年を機に、プロモーションに力を注いでいる。エントランスアートは写真家の小林健太氏が手がけたほか、音声コンテンツ配信や、音楽ユニット「三月のパンタシア」を起用したミュージックビデオ(MV)など、新機軸の施策も盛り込んでいる。

Reflex Kaleidoscopes ©Kenta Cobayashi

東京都では飲食店向けに人数や滞在時間の制限を要請しているものの、20年、21年と続いた緊急事態宣言のない、ゴールデンウイークが始まる。来館者を迎えるのは、写真家・小林健太氏のデジタルアート「Reflex Kaleidoscopes」。地下1階のランウェイ天井には、約40メートルに及ぶ同氏の「Reflex Colors」が花を添える。

Intersection of Reflex Colors ©Kenta Cobayashi

Reflex Colors ©Kenta Cobayashi

これまでダンヒルとのコラボや、ルイ・ヴィトンのキャンペーンイメージを手がけてきた小林氏は、1992年生まれの気鋭の写真家。実は「GINZA SIX」ではこの世代、20〜30歳代の顧客が増えている。

施設中央の吹き抜け部分で、拡張現実(AR)技術を活用して鑑賞できる「Metamorphosis Garden(変容の庭)」(名和晃平/ダミアン・ジャレ)。10月まで会期を延長して実施。専用のスマートフォンアプリを4階と5階の鑑賞スポットでかざすと、名和氏の彫刻作品と3DCGの点群モデルによるコンテンポラリーダンスパフォーマンスを楽しむことができる

GINZA SIXリテールマネジメント プロモーションサービス部部長の佐伯喜美氏は、「カード会員やスマートフォンアプリ利用者という顧客基盤を見ていくと、元々開業以来20〜30歳代のお客さまは増加傾向にあったが、コロナ禍においても堅調に伸びている」と明かす。

同世代が増えていることの背景には、21年、22年と計画的にリニューアルを行っていたことも大きい。21年には約40店舗、22年にも約20店舗の入れ替えを敢行した。

「時代をけん引するお客さまの価値観や嗜好にフィットするブランドや大型レストランを中心に招聘した。合わせて、開業以来続けているアートの取り組みや、館内イベントの仕掛けも、新しい価値観に合うものを、と気を配ってきた」(佐伯氏)

前例なき施策に挑む

このゴールデンウイークの施策で特徴的なのは、企画の幅の広さ。館内の「観世能楽堂」では、初開催となる伝統的な「蝋燭(ろうそく)能」を公演する一方、音声コンテンツの配信や、MVの制作・オンライン配信など、「GINZA SIX」としては前例のない企画にも挑んだ。

音楽ユニット「三月のパンタシア」によるGINZA SIXオリジナルムービーの1カット。イラストはダイスケリチャード氏が手がけた

「MVについては、初めは半信半疑の部分もあったことは確か」と話すのは、音声やMVなどデジタルコンテンツの制作に携わったGINZA SIXリテールマネジメント プロモーション担当の山下英梨子氏だ。

「それでも、20〜30歳代の新たなお客さまの共感を生み、前向きなメッセージを届けたい、前例のないことをやりたい、やらなければならない、という考えがあった。MVについては、ソーシャルメディアユーザーの方に自発的に広めてもらえるような、という狙いもあった」(山下氏)

「GINZA SIX」の開業は2017年。松坂屋銀座店の跡地に、大丸松坂屋百貨店や住友商事、LVMHグループの投資会社、森ビル(当時、2020年以降は運営から外れている)による運営でオープンと話題性十分でスタートを切った。訪日観光客需要の追い風も受け、2019年までは売上も好調に推移。東京・銀座エリアの活性化に一役買った。

「開業からの好調そのままで5周年という節目を迎えられるはずだったところの、新型コロナウイルス感染症の拡大。『GINZA SIX』として、影響がなかったと言えば嘘になる」と話すのは、山下氏と同様、音声コンテンツやMV制作などプロモーションに携わる木部崎奏氏だ。

5月7日にはバンド「Nulbarich(ナルバリッチ)」によるライブを屋上庭園「GINZA SIX ガーデン」にて開催する。屋上でのリアルイベントは3年ぶり。コロナ禍でできなかった分、期待は高く、「非常に好調で、多数の応募があり、抽選でのご招待となった。私たちも、やっと本来の館の姿を体験いただけるという万感の思いがある」(佐伯氏)

「だからこそ、館としても振り切ったことを提案するタイミングなのではないか、と、社内でも議論を重ねた。そのひとつの結実が、『三月のパンタシア』を起用したMV。これまでのプロモーションとは、やや趣の異なるものであり、『もしかすると、従来のお客さまに受け入れていただけないのではないか』という懸念があったことも事実。しかし、再生回数も4月26日時点で25万回近くに上り、館内でも映像を流しているが、ご評価いただけていると考えている」(木部崎氏)

MVの制作会社はダンスノットアクト。アーティストの選定、提案から、楽曲やミュージックビデオのプロデュースを担当した。特に音楽も映像も『GINZA SIX』のための書き下ろし。一方、「三月のパンタシア」自体の〈作品〉でもあり、ファンを皮切りに口の端に載せるには、企業色が強すぎても逆効果だ。

「GINZA SIX」側からの依頼の核は、銀座なので『憧れ』といった感情を抱かせるものであってほしい、というもの。館内でも流すので、品質の高さ、洗練された印象、そしてアート性といった点も外せない要素だった。

ダンスノットアクト プロデューサーの佐野陽一氏はこう語る。

「音楽だけでなく小説やイラストをかけ合わせたスタイルのアーティスト。歌詞を全面に出す、いわゆるリリック・ミュージックビデオを制作する上で、完成された作品にすることが、ファンを介して話題化させる上では不可欠だった。一方、クライアントとしては入れていただきたい語句もある。何度も折衝を重ね、『三月のパンタシア』のフィルターを通した上での『GINZA SIX』らしさ、というものが出せたのではないか」

 
伝播も理想的で、配信当初は「三月のパンタシア」側に掲載した動画の再生回数から増加。次第にGINZA SIXのWebサイトやYouTubeの公式チャンネルの動画が伸びていった。

デジタルとリアルのバランス

音声コンテンツ「銀座は夜の6時 presented by GINZA SIX」のキービジュアル

もうひとつの目玉が、音声コンテンツ「銀座は夜の6時 presented by GINZA SIX」だ。新しいエピソードが追加されるたびに通知・配信されるポッドキャスティングを採用し、米アップルの「Apple Podcasts」や、スウェーデンのスポティファイによる「Sportify」、米アマゾンの「Amazonミュージック」、エフエム東京の「オーディー」 で配信している。

舞台は銀座にあるバーで、毎回異なるゲストによる対談が同じカウンターで聞こえてくる、という設定。4月25日時点で3回分(それぞれ前後編)の対談が配信されている。

「MVがより広く、新たなお客さまとの接点だとすれば、『銀座は夜の6時』はより深く、ある意味で狭くという色合いが強い。さまざまなジャンルのトップランナーたちによる〈至高の雑談〉で、少しずつファンを増やしていければ」とは山下氏の弁だ。

「『編集』という点を非常に大事にしている」と話すのは木部崎氏だ。

「蝋燭能」のポスター。5周年プロモーションは、〈本物〉を軸に、企画の幅を意図的に広げている

「『蝋燭能』やMVといったプロモーションだけでなく、館としての運営を含めて、『GINZA SIX』らしさの根幹は、『編集力』にあると考えている。アーティストだったり、文化人の方だったり、さまざまなブランドであったり。いろいろな要素を束ねて、ご来館のお客さまとの接点を設けている」(木部崎氏)

いま、支持を集められている20〜30歳代について、佐伯氏は「自身の価値観に基づいて、世の中のさまざまなものから選び取る力にとても長けている印象がある」と分析する。

「施設側の意志を押し付けるのではなく、バリエーション豊かに提供できるものを用意し、そのなかから選んで楽しんでいただきたい。これと、本物、本質、一流という『GINZA SIX』が大切にしてきた考え方は両立する。多種多彩な〈本物〉をご用意することで、従来からのお客さまにも、新しく『GINZA SIX』を訪れるお客さまにも喜んでいただきたい」(佐伯氏)

コロナ禍を経て、「GINZA SIX」らしい、デジタルとリアルの融合のあり方も見えてきた。外出自粛を余儀なくされる中、オンラインセミナーや演奏会のストリーミング配信、「Instagram」でのコミュニケーションなど、情報発信に努めてきた。宣伝でもソーシャルメディア広告を強化したり、メディアリレーションにリソースを割いたりと、広告と広報の連携も図っている。

「5周年ではテレビの生中継なども入り、手応えがある。いち早くリリースしながらデジタル広告などを打つなど、デジタルとリアルのバランスの糸口が見てきたのではないか。これを機に、さらに『GINZA SIX』らしいプロモーションのあり方を模索していきたい」(佐伯氏)