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人と社会を動かす「共感の深度」の見つけ方

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昨今、企業に求められるSDGsなどの、サステナブルアクション。しかし、従業員一人ひとりが自分ごと化できず、思うように進まないケースも多く聞かれます。本記事では、従業員の意識を変容させたり、分かりやすく取り組みを社外に発信していくための、「共感」を呼ぶストーリーづくりについて考えます。
※本記事は『広報会議』2022年6月号の転載記事です。

SDGsテーマ、とりわけサステナブルアクションは、現代の企業・ブランドにおける重要なミッションとなりつつある。この世界で経済活動を行う主体であるならば、自社利益のことだけではなく、「地球」という“巨大な我が家”のことを常に考えながらその活動を行っていかなくてはならない。

一方で、これらのテーマはその重要性と裏腹に、個人へとレイヤーを落としていく際には、常に「自分ごと化」という壁にぶち当たる。まさに「大切なことだとは分かっているが、行動にまでは移さない」というマジョリティマインドとの戦いだ。

人を動かす“ポイント”を探る

私は広告会社のクリエイティブディレクターとして、多くの地域創生プロジェクトの立ち上げに携わってきた。市民や地域を動かさなくてはならない課題と向き合う中で最も重要に感じているのが、この「共感の深度を見つける」ことである。「人の心を動かす」ためには、「共感を生み出すこと」が必須条件だ。ここで言う「共感の深度を見つける」というのは、簡単に言えば、共感を生み出すためのテーマを、あえて「深くする」こと、または「浅くする」ことで、人々の心が動く “絶妙なポイント” を見つけていくアプロ ーチのことだ。

共感の深度を「深く」する

「この先なくなってしまうかもしれないお店」に注目したプロジェクト。群馬県高崎市発のシテ ィプロモーションから、全国展開、ドラマ化、書籍化など広がりをみせている。カンヌライオンズをはじめ、国内外多くのPR賞・広告賞を受賞。

筆者自身が立ち上げた取り組みに、「絶メシリスト」という地域創生プロジェクトがある。これは、時代とともになくなりつつある町の古い個人飲食店を“絶メシ”と名づけ、その希少性をアピールすることで、地元のお店に再び光を当てる群馬県高崎市発のシティプロモーションだ。

2017年からスタートしたプロジ ェクトは数々のニュースや番組、さらに書籍化やドラマ化もされ、現在では高崎だけではなく全国の地域に発展している。成功のポイントは、まさに「共感の深度」を「深く」設定した点にある。

この取り組みは元々、「町にある飲食店を元気にしたい」という市の意向からスタートしたものだった。飲食店に光を当てるプロモーションであれば、「地元ならではの美味しいグルメ」を紹介することが定石ではあるが、美味しい地元グルメというものは巷に溢れ、競合も多く、そのテーマだけでは人々の共感をつくることはなかなか難しい。

そこで、「美味しいグルメが食べられるお店」ではなく、「この先なくなってしまうかもしれないお店」をテーマに地元グルメを紹介していこうと考えた。どんな人であっても、幼い頃や若い頃に通っていたが、最近では行く機会がなくなった地元の飲食店という“共有体験”があるものだ。すなわち、「町にある飲食店に足を運びたくなる」という人々の行動を生み出すために、「共感の深度」をあえて深く、ある意味“ニッチ”に設定したのだ。その結果、多くの市民が近くの絶メシ店に再び足を運ぶようになり、絶メシとして紹介された飲食店の売り上げが軒並み増加したのである。

「共感の深度を深くする」というのは、例えば「気候変動問題」で考えるとすると、世界の気候変動の状況を数字や事例で科学的に訴えるより、それによって絶滅の危機に瀕している“あるひとつの動物”のリアルなストーリーを見せた方が、人の共感性を得られるということである。

私たちはそのひとつの動物と直接的な利害関係があるわけではないが、気候変動問題の深刻さを具体としてイメージできる存在が、「共感」を生み出すのである。

共感の深度を「浅く」する

しかしここで記すべき点は、共感の深度は「深くすればいい」というものでもないことだ。同じく筆者自身が立ち上げた取り組みで、「静岡市プラモデル化計画」という地域創生プロジェクトがある。これは「静岡の町の景色がもしプラモデルだったら?」をコンセプトに、町にある郵便ポストや公衆電話などの公共物を、プラモデルのランナー風に分解した“プラモニュメント”として設置していくシティデザインプロジェクトだ。2021年のプロジェクトスタートから多くのメディアでも取り上げられ、実際それを見るために静岡の町に人々が集まっている。

この取り組みは、静岡市が全国のプラモデル出荷額の8割以上を占める“プラモデル都市”でありながら、それをうまくPRに活用できていなかったことを発想のきっかけとしている。大人にとっては「プラモデル=玄人の趣味」というイメージがあったものを、「町の景色をプラモデルのランナー型に変えていく」というアイデアで、世代を超えて老若男女がワクワクできるプラモデルの可能性を示したのだ。すなわち「プラモデル」というコンテンツへの「共感の深度」を、玄人的なプラモデルの楽しさを深掘りするのではなく、あえて「浅くした」と言える。

プラモデル出荷額日本一の静岡市を、“プラモデル”へと変えていくシティデザインプロジェクト。老若男女がワクワクできるものに。

“絶妙な深度”でくすぐれ!

繰り返しにはなるが、今私たちの社会が推し進めようとしているサステナブルアクションは、個人へとレイヤーを落としていく際に、「自分ごと化」という壁にぶち当たる。その壁を越えるためには「人の心を動かす」ことが必要であり、またそのためには「共感を生み出すこと」が必要だ。その際に重要となるのが、本稿で言う「共感の深度」を見つけること。最終的な目的のためにテーマをあえて「深くする」こと、または「浅くする」ことで、その心を掴むことができると私は考える。

たとえそれが、「サステナブルアクション」という難しい問題や一見自分ごと化しにくいテーマであっても、人々が共感してくれるようになる“絶妙な深度”を見つけることで、人を動かすことができるのである。

はたなか・しょうた 
2008年博報堂に入社、2012年から博報堂ケトルへ参加。

クリエイティブディレクターとして、「人と社会を動かすこと」をテーマに多くの広告キャンペーンを制作する。2021年dea inc.を設立。現在では広告領域からドラマやバラエティ番組、コミックスの企画・プロデュース・脚本までを手がける。これまでに国内外200以上のクリエイティブアワードを受賞。


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【特集1】
どうする?気候変動リスク対応
サステナビリティ発信強化

 
「脱炭素」座談会
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脱炭素に関する企業発信の潮流とは
 
GUIDE1 広報が求められる役割は
カーボンニュートラル経営実現のステップ
伊原彩乃(ボストン コンサルティング グループ プロジェクトリーダー)
 
GUIDE2 自分ごと化に広報は
人と社会を動かす「共感の深度」の見つけ方
畑中翔太(dea代表、クリエイティブディレクター/プロデューサー)
 
OPINION
脱炭素に真に取り組んでいるのか
判断の分かれ目、メディアはどう見る
・「Business Insider Japan」
・『繊研新聞』
・『WWDJAPAN』
・『化学工業日報』
・『環境ビジネス』
 
【特集2】環境ビジョンの浸透・成果の発信
「脱炭素」×自社の “らしさ”を結び付けた事例

 
CASE1 住友林業
脱炭素への本気度を示すのと同時に
事業領域の認知拡大を図る
 
CASE2 三菱UFJフィナンシャル・グループ
宣言に加え、アライアンスにも加盟
進める、ステークホルダーへの浸透施策
 
CASE3 ニチバン
環境対応に関する全社発信を、周年を機に強化
セロテープ®介し、他の企業の発信の“場”の創出にも
 
CASE4 石井造園
地域の”らしさ”を体現する企業を目指し
周囲の共感得る理念と合言葉を策定
 
COLUMN
Z世代に響くサステナブル発信とは
牧島夢加(博報堂 ミライの事業室)
 
【特集3】記事化につながるSDGsの取り組み
「プレスリリース」戦略

 
Q&A
社会課題の解決につながる取り組みのリリース
記者の注目を高める方法は
西林祐美(共同通信PRワイヤー)
 
CASE1 東急
日本初、全路線の電力を再エネ由来に
環境ビジョンと具体策を同時に示す
 
CASE2 UCC
カーボンニュートラルなコーヒー
背景にある技術、官民連携を発信
 
CASE3 千葉商科大学
自然エネルギー100%の大学を目指し
達成状況を視覚的にも伝わりやすく
 
など