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ESGの「見える化」で見える企業の未来 自然資本・企業リスクの可視化の重要性

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「SIMCリージョナル2023 in 福岡」が2023年7月28日に開催された。地域企業のあいだでマーケティングへのチャレンジが加速するなか、企業・ブランド成長のヒントを共有することを目的とした本イベントでは、「ESG(環境・社会・ガバナンス)/SDGs(持続可能な開発目標)」をテーマに九州大学大学院工学研究院主幹教授・都市研究センター長の馬奈木俊介氏が、ESGの新潮流について紹介した。

 

“見えない価値”を可視化するGDPに代わる新たな指標

「サステナブルな社会を目指す、ESG経営の最先端~ESG/SDGsの『見える化』は、事業活動にどのような影響を与えるのか?~」と題した本講演では、国連・新国富報告書代表や国連・世界SDGs報告書評議員などを務める馬奈木氏が、ESG経営を取り巻く国内外の変化とともにESG経営を推進させる取組を参加者と共有した。

馬奈木俊介氏

九州大学大学院工学研究院主幹教授・都市研究センター長の馬奈木俊介氏

冒頭で馬奈木氏は、ESGの概念につながる国際社会の変遷と「カーボンクレジット」の概要を説明した。1980年代に大気汚染や水質の汚濁などの問題を受けて規制基準が設けられると諸問題は改善に向かう一方で、環境を改善する技術やサービスの経済価値を見直す動きが表れ始めた。現在、生物多様性を考慮した気候変動政策への転換が図られるなか、カーボンクレジット市場では温室効果ガスのグリーンハウスガスは価値化が進み地球温暖化対策として国際的に排出権が取引されている。馬奈木氏は温室効果ガスの排出削減効果だけでなく、森林や農作地による温室効果ガスの吸収効果もクレジットとして認証・活用する動きにふれた。「農林水産業にある“見えない価値”を可視化する動きはここ数年で生まれた。私はその価値を見出す仕組みをつくろうと国連で取り組んでおり、代表的なものが非財務価値を測る『新国富指標』。SDGsの目標8『働きがいも経済成長』に該当する概念である」(馬奈木氏)

『新国富指標』は富を支える資本を自然資本・人的資本・人工資本の3つに分類して計測する指標だ。GDPに代わる価値を測る指標として、馬奈木氏が代表を務める国連組織で『新国富報告書』にその考えが確立された。馬奈木氏は講演内で「現状で気候変動は予想以上に進んでいる」と分析したうえで、「国連全体でGDPの価値指標を超えた“新しい価値指標”を目指そうという考えから『新国富指標』をまとめた。これまでは気候変動対策をするとGDPが3%下がると言われ、今後さらに悪化する可能性がある。そういうなかで世界は『多様な側面を見てあげるのがESGだ』という風潮に変わってきた」と話した。

 

人権をはじめとしたESGの取組が企業に求められる

環境・社会・ガバナンスの3要素からさらに分岐するESGは多様な側面を持ち、「ESGを経営に取り入れない=企業は存在できない」と考えを提示した馬奈木氏。なかでも最後に行きつく課題が『人権』だ。馬奈木氏は、日本政府が2022年9月に策定した『責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン』について、実質的にESGをサプライチェーンに導入したもので、人権が重視され始めたことを象徴する事象として紹介。アメリカの大手アパレルメーカーが所有工場で強制労働や児童労働などの人権問題に端を発する不買行動により、予測利益の1/3を数年にわたり失い続けた事例を引き合いに、「『自社では他国に工場を持っていないから人権問題は大丈夫』とはならない。他国の取引先が『どのようなESGにもとづき、どのように原料を調達しているのか』といった自社ルールの開示を求めてくるかもしれない。そこで先方と合致しなければ取引終了となる」と参加者に危機意識を持つよう促した。

写真 イベントで話す馬奈木氏
「ESGを経営に取り入れない=企業は存在できない」と話す馬奈木氏

世界各国で実践されるESG経営について、馬奈木氏は「日本企業は比較的よく実践している。特に環境製品の取り組みはすばらしい」との見解を示した。これから意識するべきこととしては生物多様性とネイチャーポジティブを挙げ、「自然資本に対して、企業はもっと配慮した動きをするべき」との考えを伝えた。また、従来の豊かさから『幸せ』へ価値指標に転換するとして、新たな経済指標として『新国富指標』『地域コミュニティ指標』『幸福指標』の3つの指標が機能し、人を中心としたウェルビーイングな人生と幸福コミュニティの形成に向かう未来を示唆した。

 

多様な取組で脱炭素社会の実現を目指す

馬奈木氏は自然資本の重要性に言及した背景には、一人当たりの自然資本が減少傾向にある状況が関係している。馬奈木氏は「GDPの半分以上は自然資本から生まれているが、その価値は30年で半減している」として、これからは“自然の価値の数値化・指標化”が重要になると語った。自然の価値を可視化する取組はイギリス、アメリカ、中国など主要国で進行し、バランスシート上に取組実績を記載することで企業経営に好影響を及ぼしている。

主要国においてサプライチェーン上のESGに関する問題が深刻になるなか、解決支援策として「株式会社aiESG (アイエスジー)」が紹介された。世界初となる製品・サービスのESG分析評価サービスは、ビッグデータを用いたAI分析と3200のESG指標にもとづいてサプライチェーンをすべて数値化し、開発を手掛けた馬奈木氏は「『資源を掘削し過ぎているが、水の消費量は少ない』や『気候変動に悪影響を与えているが、人権は遵守している』など、自社の課題も良さを数値化できる。企業のリスクは社内にいる人間では見つけにくい。自社を可視化・評価したうえで次の取組につながる仕組みとして貢献できれば」と展望を話した。

講演の最後には、馬奈木氏がカーボンクレジット市場の活性化を通じて脱炭素社会を実現することを目標に設立した一般社団法人ナチュラルキャピタルクレジットコンソーシアム(NCCC)の取組も紹介された。社会全体を網羅した活動により自然資本の増加を目指す取組は、森林資源だけでなく古民家や古材などもカーボンクレジットを得る対象となり、温室効果ガスの削減に貢献する。脱炭素社会の実現に向けて着実に歩みを進めるなか、馬奈木氏は「日本のカーボンクレジット市場は、シンガポールなどと比べて遅れをとっている部分がある。より推進力を持って脱炭素社会を実現するためには、海外と国内を連携させて取り組むことが大事」の発展の余地を指摘して講演を締めた。

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