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プロの広報・PRキャリアを目指す人へ「メディア露出を評価軸にしてはいけない」

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プロの広報、PRパーソンとして、もっとステップアップしたい。メディア露出だけを目標としていて良いのか――そんな悩みを持っている人へ。国内外には複数の広報・PR関連のアワードがあり、それらの評価は結果としてのメディア露出よりも「認識変容」「行動変容」を重視している。

現在エントリー募集中の「PRアワードグランプリ」(主催:日本パブリックリレーションズ協会)もそのひとつ。10月16日に〆切を迎えるところだ。さらに今年、1961年から開催されている広告賞「ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS」(ACC賞)ではPR部門が独立するなど、自身の仕事が真の意味で評価を受ける腕試しの場は広がりつつある。

そこで今回はACC賞PR部門審査委員長を務める日本マクドナルドの眞野昌子氏、「PRアワードグランプリ」審査委員長の本田哲也氏、そして世界最大の広告関連アワード「カンヌライオンズ」の若手向けコンペ「ヤングカンヌ」に日本代表として出場した博報堂の大井椋介氏、汪芸佳氏が集合。PR関連の企画コンペやアワードに参加する立場、審査する立場それぞれから語ってもらった。
写真 人物 集合 (左から)本田哲也氏、汪芸佳氏(博報堂)、大井椋介氏(博報堂)、眞野昌子氏(日本マクドナルド)
(左から)本田哲也氏、汪芸佳氏(博報堂)、大井椋介氏(博報堂)、眞野昌子氏(日本マクドナルド)。

海外のアワードを経験して~プロセスで見つけた「PR視点」

本田:2022年の10月から11月にかけて、30歳以下の若手向けコンペ「ヤングカンヌコンペティション」PR部門の国内予選が行われました。僕はその審査委員長を務めました。大井さんと汪さんはそこで勝ち抜いたペアになります。100組近い中から選ばれたわけですから、日本の代表になった時点で相当なものです。今年はコロナ禍以降久しぶりの現地開催となったタイミングでもありましたが、実際に予選、本選と挑戦してみていかがでしたか。

大井:ヤングカンヌは2名1組のペアで参加するのが条件ですが、私と汪さんのペアは国内予選PR部門でゴールドに選んでいただき、その結果日本代表としてヤングカンヌ本選に出場することができました。

予選の課題は「海洋プラスチック問題」を解決するアイデアでした。私たちは「プラスチックは海の中で500年間消えない」というファクトに着目し、それをポジティブな形で「500年消えない愛を誓えるプラスチックの婚約指輪」として製品化することでPRする提案をしました。この指輪をもらった人は500年消えない愛を誓うと同時に、海洋プラスチック問題を意識し海を守る約束もするというアイデアです。

6月にフランス・カンヌで開催された「ヤングカンヌ」の会場。今回はコロナ前以来の現地開催に。

6月にフランス・カンヌで開催された「ヤングカンヌ」の会場。今回はコロナ前以来の現地開催に。

:予選の企画を考えた時、ファクトを大事にしたかったため、今回のお題に対して「プラスチックが500年間消えない」という強いファクトをまず見つけました。

大井:ヤングカンヌでは例年社会問題などシリアスなお題が多いのですが、いち生活者として考えたときに、ファクトをそのまま恐怖訴求されても、ビックリはするだろうけどわざわざ自分の行動を変えようとは思わないだろうと。なので、ファクトを見つけた後にそれをポジティブに変換することが必要だと思いました。そこで「500年残ったら嬉しいもの、それは愛」という発見からこのメッセージングを考えました。

:私たちはクリエイティブの人間なので、ヤングカンヌにチャレンジしながらPRの勉強をしていきました。PRではターゲットの認識を変えるだけではなく、行動まで変えることが大事だと知りました。企画出しの時には意識していなかったんですが、予選のアイデアも「このプラスチックの指輪をつければ、カフェではプラスチックのストローが要らない人だ。スーパーではプラスチックの袋が要らない人だ」と認識してもらうため、自然に行動まで変える仕組みをつくりました。

さらに、PR部門での企画は掛け算が大事だと思っていて。ヤングカンヌの予選も本選も、より強い掛け算となるコラボ先を企画の一部として考えました。

大井:予選ではブリーフからどんなコラボ先を選ぶかがクライテリア(判断基準)に入っていたので、必然的にコラボ先を考える必要がありました。さらにヤングカンヌの本選を通して、ただコラボすればいいのではなくて、どうコラボすればオーガニックな話題に乗りやすいかまで計算して設計をすることが、コラボ先を考えることの本質的な意味だと学びました。

本選の表彰式にて。大井氏と汪氏のペアを含め、日本から参加した6チームは惜しくも入賞は逃した。

本選の表彰式にて。大井氏と汪氏のペアを含め、日本から参加した6チームは惜しくも入賞は逃した。

本田:ヤングカンヌの本番は時間も限られてくるので、どこで「カンヌの神様」が降りてくるかという運もあるかもしれません(笑)。さっきもありましたけど、予選、本選を経てPRとは何ぞやということや何が大事かという学びがあったことが、これからクリエイターとして仕事をする上でも得るものがあったんだろうなと思います。

眞野:元々クリエイティブの人たちに、アワードへのチャレンジで企画をつくるプロセスを経てPRを学んでもらえるってとても嬉しいことですね。今年から始まったACC賞のPR部門でも150を超えるエントリーがありました。この中から審査しなければいけないので嬉しい悲鳴です。もう「広告」「PR」の境目がなくなってきているからこそ、PRにしかできないこと、PR部門でしか評価されないところを評価したいです。

カンヌ現地での大井さんと汪さん。現地にはクリエイターたちが世界中から集まる。

カンヌ現地での大井さんと汪さん。現地にはクリエイターたちが世界中から集まる。

メディア露出よりも「認識変容」「行動変容」を重視

本田:ヤングカンヌの予選や、カンヌの今年の受賞作を見ていても感じることですが、パブリックリレーションズにとって「オーセンティシティ」の重要性はますます高まっていると思います。オーセンティシティの日本語訳は難しいですけど、「自分らしさ」と言えばわかりやすいでしょうか。博報堂ケトルの嶋浩一郎さんは「身の丈」という表現をされていましたが、それも言い得て妙ですね。

ソーシャルグッドの流れは、もう10年以上続いていると思いますが、どうも「大きな課題主義」みたいなことになって、その反省というか、本来あるべき活動とは何かという回帰があるような気がします。

眞野:お金のかかる大規模な企画というよりは、アクショナブルで実現可能性の高いアイデア、クリエイティビティへの注目が今のトレンドになってきている気がしますね。

本田:今年のカンヌPR部門のグランプリを受賞したアメリカのフードデリバリー会社・Doordash の「Self Love Bouquet」はちょっと変わったキャンペーンでしたけど、まさしく身の丈なんですね。ご近所感が満載のミニマムなスケールだけど、エグゼキューション(実行)の素晴らしさが評価されています。

もうひとつ重要なポイントは広い意味のチャーミングさですね。プッと笑えるものもそうだし、シリアスなものですら、シリアス一辺倒で行くわけじゃなくてどこかクスっとできるようなひねりがあったりする。この「程よいチャーミングさを企画に付与する」というのは、日本人の弱いところだったりもしますけれど。

DoorDash「Self Love Bouquet」
DoorDash「Self Love Bouquet」 /アメリカ発のフードデリバリー会社 DoorDashは、バレンタインデーの日に、11本のバラの中にセルフプレジャーアイテムを紛れ込ませたブーケを送れるサービスを展開した。アメリカではバレンタインデーは一般的に、男性から女性に花を渡して愛を伝える日とされている。女性の約7割がセルフプレジャーについて話すことを躊躇する、という調査結果から、2人の愛を確かめ合う日に、自信を愛することの大切さを考える機会を提供した。TikTokで有名なバラの花の形をしたセルフプレジャーアイテムと地域の花屋と協力して実現させた。

:本田さんがおっしゃるチャーミングさは大事だと実感します。私たちもヤングカンヌでは、深刻な課題に対してあえて企画の楽しさを出すことを大事にしました。ちょっと悲しいアイデアを出す時も、ヤングカンヌの企画書上では明るい色を使い、ちょっとユーモアのある写真を使うなど、暗い気分を感じさせないようにこだわっていました。

写真 人物 眞野昌子氏(日本マクドナルド)

眞野:今年のカンヌのPR部門の受賞作でコロンビア大学ジャーナリズム大学院による「Are You Press Worthy?」が印象に残っています。もとは白人の若い女性の行方不明者が増えているというシリアスな社会問題が起点なのですが、違う性別、人種、国籍だったらどのくらい報道されるかということを体験させる仕組みです。

それを報道するときに、報道するメディア自身が行方不明報道にバイアスがあったことを反省する、というストーリーがよくできていてすごいと思いました。シリアスさをそのまま深刻にとらえるのではなくて、ファクトをもとに自分ごと化できるし、そこにちょっとしたユーモアもある。

COLUMBIA JOURNALISM REVIEW「Are You Press Worthy?」
COLUMBIA JOURNALISM REVIEW「Are You Press Worthy?」 /行方不明者に関する報道は有色人種に偏っており、若い白人女性が大々的に報道されがちだ。平等な報道を推進するため、コロンビア大学ジャーナリズム大学院では、ユーザーが人口統計情報を入力して、自分の記事がどれだけの報道を集めるかなどを確認するオンラインツール「AreYouPressworthy.com」を立ち上げた。ユーザーは結果をツイートするよう奨励され、全米の報道で多く見られる不平等や偏見についての会話を始める。

本田:カンヌのPR部門で上位に行くような作品はエントリームービーも完成度が高くよくできています。少し前だと“何億人リーチ”とか、“広告費ゼロ”つまりタダで宣伝したようなものが、リザルトとして2分のエントリームービーの最後にありました。僕はそういうのは嫌いですけど(笑)。今は、パーセプションチェンジ(認識変容)かビヘイビアチェンジ(行動変容)の象徴的なリザルトが組み込まれていることが多い。上手にできている作品ほど、その傾向が強いですね。 

結局このPRキャンペーンで成し遂げたかったことは、メディア露出を増やすことではなくて、こういう人たちを救いたいとか、救うために、この人たちがこういう行動を起こし始めたというシーンで終わるのが素敵なんです。

PRパーソンにとってのこれからのチームワークとは

本田:僕は基本的にはPR業界をコアにしてキャリアを重ねてきたわけですが、だんだん越境して広告業界、さらにコミュニケーション業界全体の中で仕事がすることが増えてきて、それで改めて感じることは広告でもPRでも仕事の本質はチームワークだということです。

広告業界がチームワークをリスペクトする、ということで感心するのは、仕事が終わったときに、関わった人全員の名前がクレジットされることです。スーパースターCD(クリエイティブディレクター)が目立つけど、非常にチームワークを大切にしているということがこんなところからも見えますね。

PRの仕事はもともと黒子気質だから、「あれは私たちがやった仕事です」と言わないのと、属人性も高いので、一匹狼みたいな人もいたりします(笑)。

PRの領域でクリエイティブディレクターに匹敵するのは、これからPRストラテジストとか、プロデューサー的な人になってくると思います。PRをわかっているけど狭義のPRではなくて、ハイクオリティのクラフトや、動画制作、ペイド施策など多様な仕事の中心で旗を振るイメージです。これはPRパーソンのひとつのあるべき姿だと思います。多くの専門の人たちが関わって、素晴らしい結果を出す状況を増やしたいですね。

人物 写真 本田哲也氏

眞野:私たちの会社(日本マクドナルド)は広告露出がかなりありますから、マーケティングチームとの協業がキーファクターのひとつです。プロモーション広告と、時間軸の長いコーポレートコミュニケーション的なPR活動は自ずと違ってきますし、期待される結果がどういうものかベクトルを合わせることが重要です。

情報発信の結果、どういう記事になって話題化できるか、もちろん100%その通りにはならないのですが、期待以上の反響が生まれることもある。そこに難しさと面白さがあります。プランニングの段階で、PR的な要素をどのように組み込むかを議論することもあります。いかにそれぞれの強みを活かして相乗効果をつくることができるか。私は、本当にここは課題だと思っています。

さらに実施に向けては、強みの異なるさまざまなPR会社にお願いするなど、案件によってパートナーも多岐にわたります。私の広報チームだけでできることは限られているので、そういう意味では社内で「一匹狼」のような孤高な存在にはなりえないです(笑)。

アワードはPRパーソンを、業界全体を成長させる

大井:「PR」の解釈って、聞く人ごとにみんな答えが違うことに気づきました。自分なりに重要だと思ったのは、PRは受け手の人にブランドや商品を本質的に好きになってもらうためのアプローチだということです。

僕らの世代はある種、現実主義的というか、受け取ったメッセージを一度疑ったり咀嚼したりして、自分の意見として再発信する人たちです。だから時には批判的にもなるし、時には偏愛を持った熱狂的支持者にもなるのが顕著な世代です。コピーライター・CMプランナーとしての広告の仕事も含め、その実感値がある世代のつくり手として、世の中で本当の意味で好きになってもらえるのか?と自分に問い続ける必要があると感じています。

ヤングカンヌのPR部門の特徴は、手法は何でもありなことです。それと同じで、強いコンセプトを軸にどんな手法でも使えるようになりたいからこそ、これから自分が考えるものにはPRの視点を持ち続けていたいです。そしてPR視点さえあれば、ぐっと社会に近づけることも学びました。それを自分の強いスキルとして持てるように頑張っていきたいです。

人物 写真 大井椋介氏

:大井くんが言った「本当に好きにさせる」や「心を動かす」のは広告の役割だと思いましたが、PRも同じで、生活者が本当に好きで心が動いていたら自然と行動まで変えます。そうさせる仕掛けは広告でもあり、PRでもあるため、今はPRも広告もやりたいです。

アワードについては、ヤングカンヌで初めて「そこまで考えるんだ」と思うぐらい、今までの人生で一番真剣に企画出しとプレゼンに取り組んだ経験だったかもしれません。勉強にもなるし、キャリアにとってもすごくいい機会だったため、またアワードにチャレンジする機会があったら挑戦したいです。

眞野:アワードの存在はすごく大きなドライブになると思います。ACCのPR部門の審査員は私も入れて14人いるんですけど、全員が時間をかけてアワードにエントリーしてくれた人の想いを受け取っています。社会課題に向き合って、こういうことがしたかったんだとか、ちょっとアクティベーションがどうなったかわからないけど、ここまで頑張ったとか、そういう審査の場を持てることは本当に貴重。審査のプロセスを経て受賞作品が発信されていくことが、これからのPRの発展に繋がると思います。

ACCのPR部門は150を超える応募で、応募内容にトレンド感はあります。これはいいなと思っても、クリエイティビティの観点からすると、似たようなアプローチに見えて二番煎じ感が出てしまうものもあります。また、以前から続けている活動の延長の取り組みもあります。積み重ねがあってこそ業界の発展があるという意味も含めて、私自身は継続していることは評価したいです。

また、応募にはいくつかのカテゴリーというか、目の付けどころのタイプがあると感じています。今回ACCにPR部門ができた影響で嬉しいのは、社内エンゲージメントを高める視点が出てきていることです。エントリーシートに、この取り組みが社員のプライドを高めていますと書いてあるのは、なんかこれ、いいなって思いますね。集まっての議論はこれからですが、審査員みんなで楽しく議論をしたいと思います。

人物 写真 眞野昌子氏

本田:今日話して、カンヌでもPRアワードグランプリでもACCでも、全部そうなんですけど、アワードとPR業界やPRの仕事全体の成長の関係を改めて思いました。特に若い方のスキルアップはそうした成長の積み重ねだと思います。「別に賞のために仕事をしているんじゃない」っていう人もいるでしょうし、特にPRでは私たちは黒子ですから、そんな日の当たるところにはみたいなこともまだあるでしょう。

でも結論としては、そうしたことも乗り越えてPRパーソンはどんどんアワードにエントリーしてほしい。なぜならアワードで受賞することよりも、エントリーしてチャレンジすることで、個人でも業界全体でも現場の具体的な仕事を、抽象化したり体系化したりすることができるからです。ちょっと俯瞰して、今までやってきた仕事を整理することができる。これはエントリーシートを書いたり、ヤングカンヌへのチャレンジみたいに架空のキャンペーンを出したりすることで鍛えられます。

そういう意味でアワードには社会的な役割があると思います。自分の成長のため、あるいは部下の成長のため、チームの成長のため、 ひいては業界の成長のために、何ができるか。実はアワードにエントリーしてチャレンジすることもそのひとつです。

PRアワードグランプリの締め切りが迫ってきましたが、審査員全員でエントリーをお待ちしています。

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日本マクドナルド
広報部 部長
眞野昌子氏

まの・まさこ
外資系PR代理店、事業会社での広報責任者として、ヘルスケア、消費財、食品、金融など、さまざまな業界で、マーケティング、プロモーション、啓発キャンペーン、危機管理広報や、インナーコミュニケーション、コーポレートコミュニケーションに携わる。2019年より現職。

本田事務所
代表
本田哲也氏

ほんだ・てつや
「世界でもっとも影響力のあるPRプロフェッショナル300人」にPRWEEK誌によって選出された日本を代表するPR専門家。世界的なアワード『PRWeek Awards 2015』にて「PR Professional of
the Year」を受賞している。 2022年度よりPRアワードグランプリ審査員長。

博報堂
コピーライター/CMプラナー
大井椋介氏(右)

おおい・りょうすけ
2020年博報堂入社。クリエイティブ局にコピーライターとして配属され、自動車・嗜好品などさまざまなブランドのコンセプト開発からコピー・映像制作まで携わる。ヤングカンヌ日本代表・ヤングスパイクス日本代表のほか、論文『自走するZ世代を味方につける』でJAAA懸賞論文を受賞。

博報堂
CMプラナー/アクティベーションプラナー
汪 芸佳氏(左)

わん・げいか
中国・北京生まれ。東京大学隈研吾研究室修了後、2020年博報堂入社。コピーライターとして配属。グローバルを軸に、映像、言葉、アクティベーション、サービス、プロダクトなど手法を問わず、コンセプトからクリエイティブ表現までブランド体験を企画。ヤングカンヌ日本代表、ヤングスパイクス日本代表。JPMプランニング・ソリューション・アワード金賞、販促コンペ協賛企業賞などを受賞。