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「ブランド名」からではなく「もの」を見て選んでほしいと、4℃が期間限定で「匿名宝飾店」をオープン

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9月8日、東京・原宿のキャットストリートに「匿名宝飾店」というポップアップストアがオープンした。ここはその名の通り、“ブランド非公開”の体験型ジュエリーショップ。“ブランド名からではなく、ものを見て、自分の指や肌のうえでジュエリーを好きになってほしい”というコンセプトのもと、ブランドの看板を伏せた。そうすることで、ジュエリーショップにありがちな気疲れや緊張感から自由になり、ジュエリーと向き合う時間を楽しんでほしいという思いのもと、つくられた体験型ショップだ。

そして9月20日、そのブランド名が「4℃(ヨンドシー)」(エフ・ディ・シィ・プロダクツ)であることが公表された。

写真 店舗・商業施設 匿名宝飾店

あえて「匿名」で店舗をオープンした目的を、エフ・ディ・シィ・プロダクツ広報 神島涼子氏は次のように話す。

「2022年で創業から50周年を迎えた4℃。ブランドの名前を皆さんに知っていただけた一方で、誰もが知っているからこそ、ブランドのイメージが固定化されてしまう、という課題もありました。一方で、4℃ではサステナブルジュエリーやジェンダーレスジュエリーなどの取り組みも始まっており、4℃の新しい一面や進化を知っていただく機会をつくりたいとも感じていました。そこで、ブランド名を冠さずに、ジュエリーそのものを見て、触れていただく体験をつくることで、4℃の原点でもあり、こだわり続ける『ものづくり』を皆さんにどのように感じていただけるかを知りたいという思いで、『匿名宝飾店』を企画しました」

同社がこうした店舗を企画した背景には、SNSの存在がある。

「SNSによってブランドへの意見が見えやすくなり、4℃に関しても、進化するジュエリーそのものよりもブランドイメージへの意見に触れる機会のほうが増えてきています。そこで、もう一度無名だった創業当初のように、つくっているひとつひとつのジュエリーに対して、お客様の生の声を聞き、今後のジュエリーづくりに生かしたい。そして、ものづくりを信条としたブランドとして再認識していただきたい、ということも今回の企画の目的のひとつです」

「匿名宝飾店」のコンセプトは、「ブランドを冠さない、フラットで気軽な試着体験」だ。

「通常のジュエリーショップではなかなか実現できない、気軽に、思う存分ジュエリーを試していただける、新たなジュエリーとの出会い方も魅力の一つとして企画しました。創業の地でもあるここ原宿から、一人でも多くのかたに、4℃のものづくりの今を知っていただき、ファンになってくださる方がいらっしゃることを願いました」

写真 グラフィック 匿名宝飾店 コンセプト

店舗は、展示、試着、撮影、購入などのエリアに分かれている。来場者は、まず自分の指のサイズや、自分に似合うジュエリーを知ることができるジュエリーカルテの作成からスタート。さまざまなコンテンツを通して、ジュエリーの試着体験を楽しんだあと、一部のジュエリーは購入することもできる。

「ブランド店舗の肩に力の入る空気感からできるだけ離れ、ジュエリーを自由に手に取って肌の上で楽しんでいただく、というコンセプトを体験に落とし込んでいます。食べ放題のように好きなジュエリーを好きなだけ選んで試せる『ジュエリービュッフェ』は、ガラスケースに整然と並んでいるあの緊張感をなくして手に取ってもらうために、試着ハードルをどのように楽しく越えてもらえるかを考えた末のアイデアです。他にも、『フィンガーフィッティングルーム』は、リングを試着した指が主役として輝くようなひとつの舞台装置として、フィンガーサイズの小さな試着室を取り入れています。

会場全体では、ジュエリーをつけている自分の姿をどの場所でも見ることができ、自分に似合うものをじっくり試せるように、『鏡』というモチーフを中心に空間を構成しました」

写真 店舗・商業施設 匿名宝飾店
写真 店舗・商業施設 匿名宝飾店
写真 店舗・商業施設 匿名宝飾店
写真 店舗・商業施設 匿名宝飾店

通常のブランドショップは、ブランドに触れるという高揚感のあるディテールやロゴを効果的に配置するが、今回は「匿名宝飾店」。名前がない中で、その空間はどのようにつくりあげていったのだろうか。

「ブランドを感じさせる要素を消しながら、ジュエリーに正面から向き合ってもらうために、全体を試着空間と捉え、試着が楽しくなるようなユニークな鏡や自撮りも含めた試着のための装置だけを散りばめて全体を構成しています。

個々のジュエリーのユニークなコンセプトに合わせ形や色が違う鏡たち、デザインスケッチを活用したシャンデリアなど、目を凝らしたり、場所の空気でクラフトマンシップが伝わるような空間にしています」

体験の最後には休憩エリアが設けられ、無料のオリジナルドリンクも提供された。

写真 店舗・商業施設 匿名宝飾店
写真 店舗・商業施設 匿名宝飾店
写真 店舗・商業施設 匿名宝飾店

全体のデザインについて、「ブランドのトーンによらない匿名性はもちろん、無骨になりすぎないようにイラストやディスプレイで可愛いらしい企みに見えるよう意識しました」と、神島氏は語る。

「今回は匿名でのイベント。ものを見にきてほしい一方で、告知でものを見せすぎてブランドがわかってしまい、体験として楽しみのひとつであるミステリアスさを失わないように気をつけました。特に、ブランドの主体がわからなくてもまずはこのお店に興味をもってもらえるよう、それぞれの試着体験がSNS映えするような画作りは意識しています。

会場でも、できるだけジュエリーを手に取って身につけてもらうために、たくさんのジュエリーの中から選ぶ楽しさや試着時のときめきが視覚的に伝わるようなディスプレイにしています。また、写真に撮られることの多いロゴや看板まわりには、一緒に写ったりSNSで文字情報を載せやすいようにあえて余白をつくり、入口で配るショッパーは試着体験の邪魔にならないように腕を通せる形にするなど、体験のストーリーに沿っているか、細かくチェックしながらデザインに落とし込んでいます」

この空間に訪れる以前に、告知段階で多くの人の目に留まったのが「匿名宝飾店」という名前だ。

「名前そのものがこの企画のフックになるように、知っているブランドがあえて名前を隠して実施しているニュアンスと誰がやっているのだろう?というミステリアスさ、2つをポイントにしています。ブランドを伏せるという性質上、逆に新ブランド名に見える『nameless』や『anonymous』といった英語名などを避け、日本がルーツのブランドであるという伏線も込めての日本語名です。また、会場のすべてのキャプションは、コピーライターの方とともに工房の職人の皆さんに直接取材し、改めてものづくりの姿勢が感じられるファクトを掘り起こしてまとめました」

オープン以降、連日多くの人が訪れた「匿名宝飾店」。来場者アンケート(9月8~12日実施分)では、「シンプルで洗練されたデザインだった」「アクセサリーの肌馴染みが良かった」など、デザインへ好意的な声が寄せられ、約83%の人が「ブランドのイメージが変わった」と答えている。また、匿名の正体についても、約80%近くの人が「正体を知って意外だった」という。

『今までジュエリーに触れる機会が無かったけれど、自分も身につけてみたいと思った』『ジュエリーショップに入りにくさを感じていたので、参加できて良かった』といった声もあり、匿名宝飾店を通して、4℃の新しい一面を知っていただくと同時に、新しいお客様に出会う機会にもなったと考えています」

「匿名宝飾店」は、9月24日にクローズした。ブランド名を伏せた状態で13日間、ブランド名公開後は5日間、併せて18日間の会期で、同社の予想をはるかに超える5500人が来店したという。

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