基礎は百貨店の「おもてなし」 三越伊勢丹HDのオウンドメディア

自前の情報発信拠点として多くの企業・団体が注目するオウンドメディア。戦略の立て方や効果測定の方法、制作のコツを探ります。
今回は、三越伊勢丹ホールディングスのオウンドメディア「FOODIE」の制作の裏側に迫りました。
※本記事は、広報会議2024年12月号の転載記事です。

三越伊勢丹ホールディングスのオウンドメディア「FOODIE」のDATA

URL https://mi-journey.jp/foodie/
開設 2015年3月
所轄部署(内人数) スタジオアルタ 営業本部 クリエイティブ営業部(4人)
制作体制 社内の担当者4名が企画・編集を担当し、フリーのライターやカメラマン、プロダクションと協業
コンセプト 毎日をもっとおいしく、楽しく!
更新頻度 月15~20本
総記事数 約2500本
CMS WordPress
効果測定 PV数・UU数・オーガニック流入数、オンラインストアや店舗サイトへの流入数をKPIにしている

全国に百貨店を展開する三越伊勢丹ホールディングスは、2015年にオウンドメディア「FOODIE」を立ち上げた。

当時はリアル店舗での百貨店体験に重きを置く一方で、デジタル領域の拡充も急務となっていた。

「その当時のお客さまは店舗にいらっしゃる方が中心でした。百貨店が選択肢にない潜在顧客層の方と接点をつくること、ひいては新規顧客を得ることを目的にメディアを立ち上げ、現在まで運営してきました」と語るのは、同グループ会社のスタジオアルタ、クリエイティブ営業部の石﨑潤起氏だ。

百貨店店舗のメイン顧客層が50代以上なのに対し、同メディアのコアユーザーは20~40代。狙い通り、新たな顧客層とのタッチポイントとなっている。

情報量とクオリティの両立

百貨店の食品メディアであるため、重要なのは高級なブランドイメージを維持すること。プロや専門家への取材をしたり、監修を受けたりすることで、情報の正確さを担保。また、百貨店の高級で高品質なイメージを守るため、目指すのは丁寧でありつつも堅苦しさを感じさせない表現だ。

起用するライターやカメラマンは食品関係に知見があることはもちろんだが、信頼関係を築ける人かどうかを判断基準に、既に仕事をともにしている人からの紹介でつながりを得ているという。

記事のクオリティを保ちつつ、月に15~20本も更新し続けられるのは、百貨店ならではの背景がある。取り扱う商品の量が情報量につながるため、企画の種には困らないのだ。

ただし、記事にすれば絶対に読んでもらえるわけではない。どの商品を取り扱うのか、どんな切り口で紹介するのか、取捨選択し、季節や催事、ユーザーの関心などを考慮しながら企画を練り上げていく。

また、顧客に「新しさ」を届けることも百貨店の役割のひとつ。毎月のバイヤーとの打ち合わせで新商品やお店の情報を得ることも欠かせない。また、直接店舗に出向いて企画を考えることも大切にしているという。

「バイヤーとは異なる視点で店舗を見ることで、得られる発見もあります。その発見と、メディアのデータやSNS、社会トレンドなどを照らし合わせて、『お客さまが今知りたいもの』の記事化を目指しています」(石﨑氏)。

長年運営する中で、既存顧客の読者も増えてきた。「内容や言葉選びそのものは大きく変わりませんが、新規・既存問わず、食生活に役に立つと思っていただけるような記事づくりを心がけています」と石﨑氏。

店頭で培われたおもてなし精神

メディア運営の根底にあるのは「読者をがっかりさせたくないという思い」だと石﨑氏は話す。同メディアでは、記事を公開するだけでなく、特定の時期にアクセスが増える人気コンテンツや、通年で読まれている記事について、定期的に見直しを行っている。

価格の変更や、商品・店舗の入れ替えなどに伴い、新しい情報に更新。さらにSEO対策も徹底しており、検索ボリュームの高いキーワードを意識しながら記事を公開・更新し、読者に求められる情報を的確なタイミングで届けている。

編集部の現メンバーの多くは、百貨店の店頭で働いた経験があり、そこで培った百貨店のおもてなし精神がメディアにも反映されているのだ。

百貨店の力が支える継続

同メディアが約10年継続できている理由は、百貨店という業態が持つ力に加え、バイヤーや店頭の販売員など多くのスタッフが関わり合いながら商品やサービスが日々新たに生まれていることにあるという。

「百貨店が上質で豊かな生活を求めるお客さまに対して、絶え間なく価値提供をする。百貨店にとってのそのような“当たり前”を続けていることが、いちばんのメディア存続のポイントだと思います」と石﨑氏。

今後の課題としては、AIを筆頭としたデジタル技術の進化など時代に即した対応を挙げた。「SNSが普及したときのように、情報の価値や扱い方に変化が起きても、『FOODIE』は必要だと思っていただけるような、そんなメディアづくりをしていきたい」と語った。

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