「JAROってなんじゃろ?」のCMで有名なJARO(日本広告審査機構)は、「悪い広告をなくし、正しいよい広告を育てたい」と願う広告主、広告会社、新聞社、出版社、放送会社などが集って1974年に誕生した広告・表示に関する民間の自主規制機関。
創立50周年の記念事業として、2025年4月29日~6月14日の期間、東京・カレッタ汐留の「アドミュージアム」で「愛と苦情の広告史」を開催している(公益財団法人 吉田秀雄記念事業財団と共催)。JAROの川名周事務局長と野崎佳奈子氏の案内のもと、宣伝会議学生記者のメンバーが展示を見学。見学後には「広告」「苦情」「メディア」などのテーマで、野崎氏のモデレートの元、参加者全員で座談会を行った。
※本記事は情報、メディア、コミュニケーション、ジャーナリズムについて学びたい人たちのために、おもに学部レベルの教育を2年間にわたって行う教育組織である、東京大学大学院情報学環教育部の有志と『宣伝会議』編集部が連携して実施する「宣伝会議学生記者」企画によって制作されたものです。企画・取材・執筆をすべて教育部の学生が自ら行っています。
※本記事の取材・執筆は教育部修了生・黒田恭一が、また取材には平松優太(修了生)、佐藤良祐が参加しました。
詐欺をする人にも、まず必要なのは認知!? 広告が悪用される背景とは?
野崎:展示をご覧いただいた皆さんの感想を伺いたいです。
佐藤:来場した方のコメントがハート型の付箋で貼られていることも影響しているのかもしれませんが、内容の奥深さとギャップがあるというか、展示の印象がポップに感じられました。若年層のカップルも来ていたり、ポップな見た目に魅せられたのか、外国人観光客の方もいらしていましたね。JAROを知るきっかけとして、非常に有効なのではないかと感じました。
平松:これまでJAROに寄せられた、消費者からの苦情を感覚的に理解できる展示の工夫がすごいと思いました。
川名:特に若い人に届けたいと考えて企画したので、大変ありがたい感想です。
アドミュージアムでの展示風景の一例。
黒田:展示内容を拝見し、苦情の内容はその時々に起きる多様な変数に影響を受けていることがわかりました。景気動向に震災のような災害、さらにはメディア自体の変化が苦情の内容にも影響を与えていましたね。
一方で、昨今はデジタル上の詐欺広告やコンプレックスに強く働きかける広告が問題視しされていますが、歴史を振り返ると、新聞広告の時代から、同じような問題表現はあったことに驚かされます。
野崎:変数に影響を受けるというのは、その通りだと思います。例えば、東日本大震災の直後は、広告を自粛する企業が増え、代わりに広告団体の
原稿に差し替えられましたが、同じ内容の広告が大量に流れたことから非常に多くの苦情件数を記録することになりました。
川名:そうした時代背景に紐づく苦情もありますし、残念ながら、広告を使って誰かを騙そうという人たちがいつの時代にも一定数いるのも事実だと思います。悪いことをする人たちにとっても、まずは認知度獲得が欠かせない。なので、広告が悪用されてしまうのですが、実は資産運用や身体的なコンプレックスに関わる広告が昔も今も多いことに変わりはありません。人の欲望は昔から変わっていなくて、そこにつけこむ人が必ずいるという状況は昔も今も同じなのでしょうね。
黒田さんが言うところのメディアの変化という点も、苦情内容の変遷に大きくかかわっています。JAROの設立当時は実は、新聞広告に対する苦情の数が一番多かったのです。しかし、JAROの働きかけや業界内の自主規制によって、次第に悪質な広告が掲載出来ないようになっていったんですね。テレビ、折込においても同様です。昨今は、デジタル広告の品質が問題視されていますが、それが次なる課題と言えます。
野崎:新聞もテレビも広告枠には限りがあるため、掲載できる広告の点数も限られています。一方で、デジタル広告はある意味で無限に広告枠が存在するとも言える。それゆえ、従来のマスメディア広告では行っていた事前の考査はデジタル広告では行えず、問題のある広告に対する対応が掲載後とならざるを得ない。それが今の悪質な広告が横行するひとつの原因になっています。
JAROの川名周事務局長。