メディア環境の変化で、広告はどう変わってきたのか?―「愛と苦情の広告史」見学記

大切なのは、苦情が届く環境 「量」が「質」を生むことも

佐藤:若者の認知度を向上させることを目指しているのは理解しつつも、お話を伺っていると、JAROの存在を知っている人からしか苦情は提供されていないので、広告や社会を良くしようといった建設的な議論が、狭い中でなされているように感じます。仮に認知度が拡がって、若い人がたくさん参加してきたとしたら、そこで提供される広告への苦情の種類も変わってくるかもしれませんね。

野崎:確かにそういう側面はあるかもしれません。ただ、広告への苦情が適正化する起点となっているので「何かこれおかしいんじゃないのかな」と思った時に伝える先があることを知っていただくことが、まずは重要だと考えています。社会を良くするためには「声を上げることが大事なのだ」という気運を作っていくことが必要だと思います。

川名:現在のJAROの苦情の受付は78%がオンラインの受付フォームからで、電話での苦情は22%です。ネット広告のことを電話で伝えるのって難しいですよね。スマホで見た広告の苦情はスマホ上でさくっと伝えたい。また、テレビの苦情が多かった頃は「何時に映っていたアレ」、新聞の場合は、「●●新聞の何面」と言われるので、その都度確認出来ていたんですが、ネットからの苦情は一人一人表示される広告が違うので確認がむずかしい。ですから、苦情にキャプチャーしたネット上の広告を添付していただけるとより適正化につながりやすいです。

平松:ネットの記録自体は距離を取れると思うのですが、DDoS攻撃みたいな、同じような苦情が続くこともありますよね。

川名:受付側の処理で同じ意見が何回も送れないような対応をとっています。上がってきた声を起点とする生活者・消費者を真ん中に置いた生業なので、ある程度は致し方ないところもあると思っています。

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JAROが消費者にとって苦情を届ける、ファーストチョイスになるためには?

黒田:昔のJAROって、「何か物申したい」という人達の受け皿として機能していた感じがします。義憤にかられた方が、新聞に投書するのと同じような感覚で、JAROに電話していたのではないでしょうか。でも今は、言いたいことをSNSで発信できて、広告主に直接文句を言うことも可能なので、JAROがファーストチョイスになりにくいのではと感じています。

野崎:誰でも発信者になれる環境が整った中、そうした可能性はあると思います。ただ、色々な広告関連団体がある中、消費者との接点となり消費者の声を受ける役割を担う目的でJAROが設立された経緯があります。JAROへの意見がきっかけとなり広告業界全体を良くしていくのだということを、もっとたくさんの人に知っていただかなくてはなりませんね。

佐藤:まさにその点を、JAROを使ってもらう理由としてアピールしていくべきですよね。自己抑制が働きにくい時代であるからこそ、JAROの存在意義が高まるのではないかと思います。今日は、そういった覚悟というものを感じ取ることができま
した。

野崎:若い学生さんと話をすると、お笑い深夜ラジオを聞く中でJAROのラジオCMが放送されていてJAROのことを知ったっていう方が多いんですよ。そういう場からの拡がりも期待しています。

川名:本日はありがとうございました。広告に苦情が来ないのは、とてもいいことなのですが、それすら来なくなると、単にスルーされているだけの状態になってしまいますので、まずはJAROのことを知っていただきたいですね。JAROはいただいたご意見を全部見ていて、広告主や広告関係者にそれらの意見を伝えていくという活動をしているので、とにかく「JAROって何だろう?」と引っかかってくれればと思っています。

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■取材対象者
公益社団法人 JARO(日本広告審査機構)事務局長 川名周氏
公益社団法人 JARO(日本広告審査機構)     野崎佳奈子氏

【取材を終えて】

●社会が情報や広告にあふれ、「JAROってなんじゃろ?」というキャッチフレーズも、その存在さえも知ってもらうことが困難になっている現代で、この展示は愛=苦情の広告をポップなものへと昇華することに成功し、たくさんの若者や海外の方々を魅了しているように感じられました。(佐藤)
●江戸の時代から連綿と続く人々の暮らしと広告に触れ、ハードローとソフトローの最適解を模索する歴史の末にJAROの取組があることを知れて感謝です。(平松)
●50年間のJAROの存在意義を感じられた、素晴らしい展示会と座談会でした。ちょっとした違和感からくる広告への苦情が、社会を良くするきっかけになるかもしれません。これからも、広告業界の目安箱として、影響力を発揮いただきたいと思います。(黒田)

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【開催概要】
「愛と苦情の広告史 〜あなたも広告にひとことを〜」

主催:公益財団法人 吉田秀雄記念事業財団
公益社団法人 日本広告審査機構
会期:2025年4月29日(火)~6 月14日(土)
会場:アドミュージアム東京 企画展示室(Hall B)
東京都港区東新橋1-8-2カレッタ汐留
開館時間:火~土曜 12:00~18:00
*状況により開館時間、曜日が変更になることがあります
休 館 日:日曜、月曜(ほか不定休あり)
入 場 料:無料


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