環境問題の解決こそ自社の存在意義、家族やパートナーとの「Values」を大事にするスウェーデンのテック企業

2024年に日本での展開を開始したスウェーデン発の動画広告配信テクノロジー、それがSeenThisです。画期的なアダプティブ・ストリーミング技術により、SeenThisは従来の技術に比べ、デジタルコンテンツの配信と気候への影響を変革しています。そんなSeenThisはパーパスブランディングにおいて「Values」を重視した企業。そこで、『パーパスの浸透と実践』著者であるSMO 齊藤三希子さんが、CEOで共同総御者のJesper Benon氏にインタビューを行いました。

設立以来、持ち続ける「問題を解決することへの情熱」

齊藤:はじめに「SeenThis」のテクノロジーとサービスについて簡単に教えてください。

Jesperさん:インターネットというのは、サーバーからデバイスに転送されるファイルで基本構成されており、ユーザーが新しいサイトに入ると様々な情報が画面に読み込まれます。それが音楽や動画の場合、バイナリデータ(2進法データ)の100%がデバイスに転送されなければいけませんでした。例えば、iTunesで音楽を聴くときは、曲全体をダウンロードしないと再生ができなかったのです。しかし、Spotifyの音楽ストリーミングの登場で、すぐに音楽を再生することを可能としました。一つの大きなファイルを送るのではなく、小さなパケットに分けて送ることで、即座に再生の開始ができるようになり、曲の切り替えもスムーズになったのです。SeenThisではストリーミングの仕組みを使って、画像や動画を広告に活用することで、コンテンツの読み込みを速くしてユーザーエクスペリエンスを向上させ、かつ広告主のパフォーマンスの向上にも貢献しています。

齊藤:なるほど、ユーザー視点で最適化しただけでなく、広告に適用して広告主やメディア媒体に対して有益化することにも貢献されているのですね。

Jesperさん:さらには、送信されるデータ量、タイミング、内容をより細かく制御できるだけでなく、広告がスクリーンから外れるとデータ送信を停止することができます。それにより不要な転送データ量の削減により消費エネルギーも削減できるため、環境にもやさしいのです。

齊藤:日本で言う「3方よし」のサービスということですね。どのような経緯でこのようなサービスを始められたのですか。

Jesperさん:大学卒業後の2008年に最初の会社を立ち上げたのですが、当初の動機は単純に、“問題を解決する”ためでした。その姿勢は、共同創業者たちと共に創業当時から変わりません。私たちは何度も方向転換をし、ビジネスモデルを変えていますが、「問題を解決することへの情熱」はずっと変わらず、今のSeenThisにつながっています。

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Jesper Benon氏

齊藤:「問題への解決」が、常に存在意義として軸にあり、変化を遂げられているわけですね。

Jesperさん:はい、そして、クライアントに提供する広告のパフォーマンスを向上させると同時に環境に与える悪影響への軽減にもつながっていると気づいた時、真のパーパス・ドリブンなビジネスになったと感じます。広告のパフォーマンス向上という純粋なメリットを享受しつつ、環境にも貢献できるソリューションは、他では無いものだと思います。

齊藤:素晴らしいですね。その環境負荷への削減インパクトについて、より詳しく教えていただけますか。

Jesperさん:私たちが多くのクライアントのニーズに応えていくうち、2020年ごろに、データ転送とエネルギー消費の間に高い相関関係があることがわかってきたのですが、当時一般的には、広告が環境に与える影響については議論されず、弊社自らで外部協力会社も使いながら、様々な調査を始めました。現在では、業界全体で調査検証の枠組みができて、広告からエミッションが多く発生していることがわかってきて、弊社では、ビジネスパフォーマンスを向上させつつ、環境問題も改善していけると考えました。機会の1つとして調査していたものが、事業の中心的な要素へと進化し、いまでは私たちの企業活動の中核となり、会社の在り方や、対外的な会社の説明、より良い製品開発において必要不可欠なものになっています。

齊藤:環境問題の解決というところに存在意義=パーパスを見出したと、先ほどおっしゃいましたが、それを達成する上でのミッションやビジョンはありますか。

Jesperさん:この4〜5年、「小さな環境負荷で高速なインターネットを実現する」ことを私たちの指針としてきました。現状、バリューチェーンの様々なボトルネックを原因にインターネットはまだ遅いと感じます。インフラを整備しても、より多くのデータを流すことでその効果が相殺されてしまい、再び遅くなってしまう。この問題は特に広告業界で顕著です。私たちがコンテンツの配信方法を革新し、インターネットを高速化できれば、同時にデータの転送をよりスマートにし、環境負荷を軽減することも可能になります。「驚くほど高速なインターネットと、環境負荷の低いデータ配信」これを実現するのは、10年先を見据えても常に大きな課題であり、革新の余地がある指針だと思います。

齊藤: SeenThisのサービスで、広告業界はどう変わっていくのでしょうか。

Jesperさん: SeenThisは、環境への配慮を通常のキャンペーンKPIと統合することで、広告の成功を再定義することを目指しています。弊社のサービスにより、ブランドが広告費をビジネス成果に最適化できるだけでなく、よりサステナブルで環境への影響を最小限に抑えることができるようにしたいと考えています。このアプローチにより、ブランドはマーケティング目標を達成しながら、より環境への配慮を促進し、消費者のサステナビリティに関する価値観に合わせ、長期的にブランドの信頼と忠誠心を高めることができます。ソリューションは、ビジネスだけでなく環境にとっても持続可能でなければ、真に持続可能とは言えません。

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多くの場合、ファネルの下流でのアクティベーションに重点が置かれすぎていて、長期的なブランドエンゲージメントの構築よりも即時のコンバージョンが優先されています。高品質なクリエイティブコンテンツはブランド価値を高めるだけでなく、ユーザーエクスペリエンスを大幅に向上させます。魅力的なクリエイティブを組み込むことで、即時の売上促進だけでなく、より魅力的で邪魔にならない広告体験を提供することができます。これにより、広告による不快感が軽減されるだけでなく、広告が単に見られるだけのものから、より強いインパクトを記憶に残せるものになります。

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宣伝会議 書籍編集部
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宣伝会議書籍編集部では、広告・マーケティング・クリエイティブ分野に特化した専門書籍の企画・編集を担当。業界の第一線で活躍する実務家や研究者と連携し、実践的かつ最先端の知見を読者に届けています。

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