「パンとエスプレッソと」を展開する日と々と。SNSを起点に注目を集め、現在は国内外の観光地を中心に出店を進めるなど、その成長はとどまることを知らない。だがブランドの始まりは、赤字店舗を“畳む”ための苦しいスタートだったという。空間から業態を発想する独自戦略、社員の働きやすさを最優先に考える業態設計、そして世界展開への再挑戦など、同社の経営で大切にしていることを、代表取締役山本拓三氏に聞いた。
日と々と 代表取締役 山本拓三氏:㈱IDUにて財務・経理の責任者として株式公開準備、上場企業としての決算、財務、税務のマネジメントに従事。その後、㈱IDUの不動産企画開発および飲食、ホテルの企画運営部門のバイアウトを統括し、㈱COLORS(旧社名:㈱IDUプラス)の代表取締役に就任。その後、パンとエスプレッソとの立上げに参加し独立。現在は、㈱日と々との代表取締役として、パンとエスプレッソとを中心にした店舗を40店舗展開。主に管理業務全般、新規出店の企画、事業マネジメトに従事。
不採算店の引き継ぎから始まった「パンとエスプレッソと」
━━まずは「パンとエスプレッソと」の立ち上げの経緯からお聞かせください。
私のキャリアは不動産ベンチャーでの経理職から始まりました。飲食とは無縁の道を歩んでいたのですが、当時の会社が手がけていた不採算の飲食店を自身の独立と同時に譲り受けることになったのです。正直、当時は『畳むため』に引き取った感覚で、未来の展望は描けていませんでした。
店舗を引き継いだのが2011年。店舗の売却も考えていましたし、その話も進んでいたのですが、その直後に発生したのが東日本大震災でした。予定していた店舗売却の話も白紙に戻ってしまいましたね。
そこから、“どうにか続けるしかない”という選択を迫られたことで、店舗の経営に真正面から向き合うようになりました。これが結果的に、今のブランドの礎を築く大きな一歩だったと振り返っています。
━━「パンとエスプレッソと」は、今ではSNSで見ない日がないほど、バズっている印象です。このヒットはいつ頃生まれたものだったのでしょうか。
2012年頃でしたね。店を続ける決意をしてから1年後くらいだったと記憶しています。SNS、とりわけInstagramの普及が進んでいた頃だったのですが、その時にちょうど当店のフレンチトーストが突如バズを起こしたんです。当時はランチと夜のイタリアンバル営業を並行していたのですが、人件費や仕込みの負担が大きく、売上にも繋がらないという課題がありました。
ですが、そんなときにフレンチトーストのバズがあったので、思い切って夜営業をやめ、昼に集中する決断をしました。昼はパニーニとフレンチトーストにメニューを絞り、夜もフレンチトースト1本にしたんです。SNSがきっかけで“『パンとエスプレッソと』といえばフレンチトースト”という印象を形成できたのは大きい転換点だったかもしれません。
「空間ありき」と「社員本位」が生む多様な業態と働き方
━━「パンとエスプレッソと」はベーカリーカフェですが、その他には花屋や和食の業態など、幅広く出店されているイメージです。これは、戦略的なのでしょうか。
まず出店戦略で言うと、そもそも私たちの出店は、一般的な飲食店のやり方と逆なんです。まず空間ありきで、“この物件ならどんな業態が映えるか”から考えます。多くの飲食企業が『うちのブランドに合う物件』を探すのに対し、私たちは空間そのものの個性に業態を合わせていくんです。
『パンとエスプレッソと』にカフェやベーカリー以外の業態が多いのは、実はその店づくりの方法が背景にあります。たとえば、「○○という土地に出店するなら、和食が良さそうだ」といった観点で進めていくので、『パンとエスプレッソと』に限らずいろいろな業態が生まれていくわけです。今となっては、和食業態やクレープ専門店、花屋や宿泊施設にまで展開が広がっていきました。空間ありきの出店は、他にない当社ならではの戦略なのではないかと思いますね。
━━業態の拡大は、社員の働きやすさを考慮して行っている部分もあると聞きました。
その通りです。カフェ業態という側面も関係しているかもしれませんが、現在、弊社の社員の9割は女性。平均年齢は20代後半です。カフェに憧れを持って入社してくれる女性社員がほとんどですが、カフェ勤務は意外と重労働なんです。若いうちは体力で乗り切れるかもしれませんが、長く働いてもらうためには、年齢やライフステージの変化に合わせて働き方を変えられる選択肢が必要だと感じています。
その選択肢を広げるために取っている方法が業態の拡大でもあるんです。カフェ業務で培ったノウハウやスキルを和食、花屋、宿泊業などへと、ワークライフバランスに合わせて異動できるように、業態の幅を広げているというのも経営方針として存在しています。業態開発のキーワードは、「空間ありき」であることと「常に“社員が本当にやりたいか”」の2つですね。
今後の出店で重視するのは「地域活性」と「グローバル」の両立
━━出店戦略の繋がりで言うと、観光地への出店も多い印象があります。ここにも狙いはあるのでしょうか?
これは、後に続く「海外出店」の話にも繋がるところです――
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