サカナクション「怪獣」「いらない」の裏側 映像監督が語るMV演出とAI時代の表現

サカナクションのミュージックビデオ(MV)やライブ演出を手がける映像ディレクター、田中裕介氏。モーショングラフィックスの黎明期からキャリアをスタートさせ、CM制作会社を経てフリーランスとなった同氏が、どのようにして映像表現を確立してきたのか。サカナクションとの制作背景や、ライブ総合演出、AI時代のクリエイター像などについて話を聞いた。

サカナクションMV「怪獣」「いらない」の裏側

サカナクションの近作「怪獣」のMVは、ボーカル・山口一郎氏からの「AI時代だからこそ、リアルなもので勝負したい」という要望から始まった。ここでいう「リアル」とは、崖から落ちる、壁に挟まれるといった身体的(フィジカル)な感覚を指す。このテーマに対し、田中氏は「壁に挟まれる」というアイデアを軸に企画を立てた。

企画を具体化する段階で、田中氏は歌詞の解釈を深めていった。「怪獣」という曲には、「信念を貫くモンスターとしての怪獣」と「常識に飼い慣らされる懐柔」という二つの意味が込められていると山口氏から聞いていた。この二面性を、主人公が「卵(=信念)」を守り抜くというストーリーで表現した。

2026年4月時点で7200万回再生を超す「サカナクション / 怪獣 -Music Video-」

Music Video撮影の舞台裏を伝える「サカナクション / 怪獣 -Music Video Behind the Scenes-」。田中氏と山口氏による演技や演出のやり取りを垣間見ることができる

また、この曲がアニメ『チ。 -地球の運動について-』(NHK)の主題歌であり、TikTokなどを通じて若いリスナーに届いていたことから、「わかりやすさ」も意識したという。ペンを渡す場面や「NORM(規範・常識)」と書かれた看板など、物語の伏線と回収を明確にすることで、幅広い視聴者が解釈できる映像を目指した。

一方、「いらない」のMVは、山口氏自身のアイデアが強く反映された作品である。この曲の歌詞では、「君」と「僕」という二つの人格が描かれている。このテーマを表現するため、山口氏から「二人羽織」というアイデアが出された。体が自分の思い通りに動かせないもどかしい感覚が、歌詞の世界観と近いと感じたからだという。

さらに、曲が「君の全てを知りたい/僕の全てを知りたい」という歌詞で締めくくられることから、二つの人格が対立するのではなく、互いを受け入れて共に生きていくというメッセージを込めるため、「『パルプ・フィクション』(編注:タランティーノ監督による1994年の映画)のように二人で踊る」というアイデアも山口氏から提案された。

アーティストから具体的なアイデアが提示された場合、ディレクターはそれをMVの尺に収まるストーリーとして構成し、映像的な「勝算」を立てる役割を担う。アイデアが4分程度の尺を飽きさせずに見せられる力があるかを見極め、物語へと仕上げていった。

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