エルメスからAIまで、正解の幅をどう生きるか。カンヌライオンズ受賞作から考えた、コンサル×クリエイティブの新たなスタンダード

2026年も6月22日から26日にかけてフランス・カンヌで開催され、盛況のうちに閉幕となったクリエイティブの世界最大の祭典「カンヌライオンズ」。2025年、大手広告会社のクリエイティブディレクターからコンサルティング業界へ転身した、ベイカレントの田中寿氏が“コンサル”“クリエイター”双方の視点から見たカンヌのレポートを2回にわたりお届けします(本稿は前・後編の後編です)。前編はこちらから

FILM部門グランプリは広告付きAIを風刺したAnthropic「Claude」のテレビCMに。スーパーボウルの中継番組向けに制作されたものだが、カンヌの会場でも上映されると大いに盛り上がった。

2026年カンヌにおいても、未知の知性に対する警戒感や、自らのアイデンティティを守ろうとする防衛本能からか、AIか、人間かという二項対立の議論がまだ絶えなかった。

あらゆる講演者が必ずと言っていいほどAIの向き合い方を意識して話していた。大方として、AIは人間の可能性の拡張であり、代替するモノではないといった論調だ。果たしてクリエイティブは人間に残された最後の砦なのか、それともAIに代替されるのかといった具合だ。

AI vs AI―「Claude」独自の正当性を提示したグランプリ

しかし、そんな中カンヌFILM部門グランプリを獲得したのが、「Claude」を提供するAnthropicによる「Can I Get a Six Pack Quickly?」(早く腹筋をシックスパックにするには?)と「How Can I Communicate Better with My Mom?」(母ともっと上手くコミュニケーションを取るには?)だ。

コアとなる“Ads are coming to AI. But not to Claude.(AIに広告が導入されようとしています。Claudeには導入されません)”というメッセージは、単純な二元論をはるかに超越していた。

Anthropicが、ライバルである「ChatGPT」を提供するOpenAIのビジネスモデルの動向を鮮烈に風刺したキャンペーンである。

このキャンペーンの痛快さは、市場が「人間 vs AI」という構図で議論している最中に、彼らは「商業主義に染まるAI vs 純粋な思考の場を守るAI」という、一歩引いたAI vs AIの構造を仕掛けた点にあると思う。

映像の中で、真剣に悩む人間に対して、AIがアルゴリズム的に早口で無機質なセールスプロモーションをねじ込んでくる。その不条理でユーモラスなすれ違いを、私たち「人間」が客観的に眺め、あざ笑うという見事なメタ構造が設計されているのだ。

AIという器の定義が意味を失いつつある今、ビジネスの勝敗を分けるのは、人間の手による物語性に他ならない。テクノロジーを完全に道具として従えた人間の知性そのものだ。

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