「マツケンまみれゆうえんち」はこうしてできた――キャッチビジュアル、ネーミング、没入体験、「実体づくり」で届かせる【後編】

触れられたり、買えたり、撮影できる「実体」のほうが拡がる時代

弊社をはじめとして、広告会社が商品開発や事業開発まで手掛けることが増えてきました。僕自身、コロナのパンデミックで窮地に陥ったホテルをコンセプトから変え(朝食に特化)、キャッチネーミングをつけ(The Breakfast Hotel)、PRやSNSで情報を拡げ、結果、広告を使わずに売上V字回復に貢献しています(これもホテルで働くみなさまのおかげです)。

そんな経験や昨今のニュース・SNSを見ていると、従来のような動画広告やポスターよりも、イベント、展覧会、面白い商品、写真を撮れるプロモーション施策、事業そのもの、つまりそれ自身が広告になる「実体」のほうが届きやすく、拡がりやすくなっています。逆に言えば、数年前までのように動画やグラフィック広告が拡散されることが少なくなってきたとも言えます。各メディアに聞くと、動画広告やグラフィック広告関連のニュースは視聴率やアクセス数が増えないため、記事になりにくくなっているそうです(それだけ、生活者の広告への無関心が拡がっているとも言えます)。

従来の広告づくりではなく、感情が動く限定商品や、見に行けて写真も撮れるイベントなど、「実体づくり」をしてPRやSNSで情報を拡散させ、結果的に『届く広告』にする、という選択肢を持つこともこれからは必要になってきます。予算や市場状況によっては「実体づくり」のほうが集客にも購買にも寄与する、ということもあるはずですし、広告が届きにくい現代においては今後「実体づくり」がますます増えていくでしょう。

なお、以前、とある飲食チェーンで、広告予算を美味しい商品の開発費に回してもらいV字回復のきっかけにしたことがありました。実はマツケンまみれゆうえんちも同じスタンスです。みんなで話し合ったうえで、広告予算を実体づくりの予算に回し、PRやSNSで情報拡散するというキャンペーン構造・情報設計にしています。

マツケンまみれゆうえんちはどうやってできたのか

さて、大変お待たせしてしまい申し訳ありません。横浜・八景島シーパラダイスのマツケンまみれゆうえんちをどうやって企画したか、について触れます。

最初に伝えておきたいのが、アイデアが先ではありません。クリエイターはアイデアを考えるとそれを実現したくなります。戦略を後づけして提案したりします。でもそれでは売上増という結果が出ないことが多いので、僕はアイデアから考えず、予算から使うメディアを決め、現実性のある集客(売上増)戦略を立てます。

今回で言えば、水族館に比べればまだ低い遊園地エリアの認知をアップさせ、PRやSNSで情報拡散して集客し、客単価をUPさせて売上増を実現する、という戦略を先に立てています。そのうえで、広告予算を「実体づくり」にまわし、PRとSNSで情報を拡げるという情報戦略をとっています。

ここから、ようやくアイデアを考える右脳フェーズに入ります。まず考えるのはPRやSNSで拡散させるための『没入体験づくり』と『キャッチビジュアルづくり』です。視覚以外を動かす、普段していない動きをする、囲まれる、という観点で言えば、遊園地にはそれらの体験装置がすでにあります。これを活用しようと考えました。

ただし、アトラクションの横にパネルを置くだけでは、視覚体験のみ。そこで、マツケンさんに水を飲ませるといった視覚以外の感覚をつかったり、囲んだり、覗き込んでもらったり、手を出して触れたり、といろいろな感覚や動きをアトラクションに加え『実体づくり』をしました。そのうえで感情が動くようキャッチビジュアルをつくり、「マツケンまみれゆうえんち」というキャッチネーミングをつけ、計算上『届きやすい広告』に必要な要素を最大限投入しました。

さらに夏は暑いため、屋内の水族館エリアでも体験を作ったり、秋はホテルもまみれにしたりして、常に飽きさせず、パワーアップさせていくことで毎季節のPRやSNS拡散を図り、一度来てくれた人にも別の季節で再来訪してもらうことも狙っています(それも売上増につながります)。

マツケンまみれ施策はのべ100万以上のいいねを獲得し、集客増を実現しました。ただ、うまくSNSで拡がったので、こうやって偉そうに話していますが、どこまで拡がるか、はいつも事前には計算できません。たまたま上手なツッコミとともに投稿してくれた人がいたから拡がった、など偶然の力もあったはずです。

ただ、PRやSNS拡散を狙うならば、メディア環境を認識し、受け手発想で多くのポイントを詰め込むことは拡散確率を増やすうえでしたほうがいいと思っています。いずれにしても、集客が大きく増えたことが最大の喜びです。

最後に。繰り返しますが「マツケンまみれゆうえんち」「マツケンまみれまみれ島」は横浜・八景島シーパラダイスのみなさんや弊社の優秀なビジネスディレクターたちと一丸となって実現したもので、僕の手柄ではありません。そしてなによりも、無茶な体験づくりを笑って許可してくれ、ときには「もっと面白いものを」とディレクションしていただいた長田マネージャーとマツケンさんが最大の功労者で、心から感謝しています。

さてみなさま、長すぎるうえに退屈なコラム、本当に失礼いたしました。
メディア環境の変化を意識する、受け手発想になる、PRやSNSを活用する、キャッチビジュアルやキャッチネーミングをつくる、意図的に「実体」をつくる、没入体験をつくる、など偉そうに話してしまいましたが、僕はまだまだ未熟な人間です。広告を見てもらえないこの時代に、1人でも多くの人に広告を届けられるよう、これからも全力で努力していこうと思います。読んでいただきありがとうございました。

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河西智彦

博報堂
クリエイティブ・ディレクター/CMプランナー/コピーライター/アクティベーションプランナー

1999年博報堂入社。 7年間の営業経験、2度のクリエイティブ適性試験不合格を経てクリエイティブ局に転局。他にないアイデアや表現をPRやSNSで拡散させることで、予算に関わらず企業の売上を確実に増加させるクリエイティブ・ディレクター。TVCM、コピー、プロモーション以外にも、関西万博の企業ブースの企画総合演出もおこない、事業開発、PR、SNSバズ、売上増コンサルなど、幅広い手法をつかって売上を増やしていく。 ひらパー兄さんシリーズ、幸楽苑「2億円事件」、八景島シーパラダイス「マツケンまみれゆうえんち」など。

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