ブランド、技術、顧客基盤など、財務諸表だけでは捉えきれない企業の強み。こうした「見えない価値」は、M&Aの現場でどのように評価され、売買価格に反映されるのか。M&Aのファイナンシャル・アドバイザリーを手がけるマクサス・コーポレートアドバイザリー代表取締役社長の森山保氏に聞いた。
M&Aの価格は、最終的には交渉で決まる
━━まず、M&Aを取り巻く環境について伺います。長くアドバイザリー業務に携わる中で、どのような変化を感じていますか。
私が監査法人や証券会社で仕事をしていた1990年代後半から2000年代前半は、金融機関や企業の再編が相次いでいた時期でした。M&Aでも、現在のような前向きな成長戦略というより、企業再生に関わる案件が多かった印象があります。
当時は会計ビッグバンなど、制度面でも大きな変化が進んでいました。現在はルールや実務がかなり整備されてきたと感じます。
特に近年は、東京証券取引所による一連の改革や資本コストを意識した経営への要請などを背景に、非公開化やMBO(経営陣による買収)といった取引が増えています。アクティビストの活動も活発になっています。
企業側の意識も変わりました。以前は会社を売却することに強い抵抗感があり、売却の話をするだけでも緊張感がありました。しかし現在は、買い手にとっても売り手にとっても、M&Aが経営上の選択肢の一つとして受け入れられてきています。事業承継の手段としても一般的になってきたと思います。
━━では、実際のM&Aでは、企業の価値や売買価格はどのように決まるのでしょうか。
最終的な売買価格は、当事者間の交渉によって決まります。これは当たり前のことのようですが、非常に重要です。
企業価値(又は株式価値)の算定には、DCF法(ディスカウンテッド・キャッシュフロー法)や類似会社比較法など、さまざまな手法があります。しかし、算定された企業価値と実際の売買価格は必ずしも一致するとは限りません。売る人と買う人がいて、双方が合意して初めて取引が成立するからです。
不動産でも、鑑定された価格で必ず売れるわけではありません。高い価格であっても、その金額で欲しいという人がいれば取引が成立しますし、反対に買い手がいなければ売却できません。
企業の場合は、さらに個別性が強くなります。同じような売上高や利益を上げている企業でも、事業内容やリスクは異なります。したがって、理論的な企業価値評価と、実際の売買価格は少し分けて考える必要があります。