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PRの専門家じゃなくても、面白いPRの仕事はできる。

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日本パブリックリレーションズ協会(以下、PRSJ)では、9月から、今年のPRSJアワードグランプリ(以下、PRアワード)のエントリー募集を開始した。アドタイでは受賞者らのインタビューを通じて、PRアワードの全貌を解明する。

今回は「前編」に続き、昨年、「東北食べる通信」で「PRアワード」グランプリを受賞した坂本陽児さん(電通 iPR局 情報戦略プランニング部)が登場。PRSJのアドバイザーを務める博報堂ケトルの嶋浩一郎さんが、PRアワード参加者の視点を聞いた。

前篇はこちらから

「東北食べる通信」に夢中になりつつ、お風呂の重要性について語る坂本陽児さん(左)と嶋浩一郎さん(右)

PRは、プロモーションの真面目なやつだと思ってた

嶋:坂本さんのPRパーソン歴を教えていただけませんか?

坂本:僕、実はPRパーソン歴ってあまりないんですよ。2年前に嶋さんにカンヌで会って話を聞いた時に、PRってそういうもんなんだって思ったくらいの浅さで……。PRをやろうと思って始めたわけではなく、どうやったら社会に影響を及ぼすことができるんだろう、というところから逆算して、気づいたらここにいるっていう感じなんですよね。

今まで、カンヌライオンズに何回も出しては落ちているんですけど、出し始めた2010年ごろは、プロモーションライオンとPRライオンの違いすら、まったくわからなかったですね。プロモーションの真面目なやつがPRなんだって思ってました(笑)。

PRのいろんな人と話すうちに、似て非なるものだということがだんだんわかってきました。目からウロコでしたね。僕はもともと、クリエイティブの出身なんですが、「自走する要素」がないとダメだというところは、PRもクリエイティブに近いところがあるなと思いました。

嶋:坂本さんみたいなクリエイティブ出身の人がPRの世界にどんどん参入してきてもらうってことはとてもありがたいです。日本のPRパーソンってテクノロジーを取り入れるのはけっこう得意かなと思っていますが、デザインとかクリエイティブなアイデアを取り入れるのは苦手かなと思うんです。だから、クリエイティブ畑の方のPRへの参戦はすごくいいことなんです。

坂本:もう今は、テレビに出せばなんとかなる、新聞に出せばなんとかなるっていう時代じゃないです。どうやったら伝わるかとか、どうやったらパーセプションチェンジを起こせるかというのをゼロベースに考えていくと、最短距離で世の中を変える最も効率のいい方法として、PRに行き着くんじゃないかなと思います。

勘のいいクリエイティブの若い人の中には、そういう人が増えていっていると思います。どんなにいいクリエイティブ作っても、見てもらうためにはいいリリース書いたりとか、いいセグメントに向けてそれを届けないと効かないと思うんです。もう、WebスキルよりもPRスキルがないと、なにもワークしない世界になっているんだろうなと思います。

嶋:そうですね。

PRって全員がハッピーになる仕組み

坂本:話は少し飛ぶんですが、嶋さんがやっている本屋のB&Bってすばらしいですよね。僕は、すばらしいキャンペーンとか世界のすごいアイデアって、「負けようがなくできてる」と思うんです。B&Bは本が売れなくても、毎日あの場所でイベントをやって人が来ることで、人脈ができるじゃないですか。例えば万が一、本屋として失敗に終わっても、そこだけはポジティブにずっと残りますよね。「東北食べる通信」も、どうやったら負けないかということをずっと考えた結果、生まれたんです。

NPOって善意で集まっているから、うまくいかないと、いやーな終わりかたをしますよね。最初のうちは、メンバー同士であれは失敗だったねって言っている絵しか思い浮かばなくて、それでお風呂で、たとえ事業としてうまくいかなくても、どうやったらみんなが、少なくともあれは面白かったよねっていう達成感を残せるかということをすごく考えたんです。一人一人の顔を思い浮かべて、そしたら「メディアを作れる!」ということに気づいて、それから、なにもかもがうまく回り始めました。だから、負けないこと、負けようがない仕組みを考えるっていうのがすごく大切だと思います。他の人から見たら「負け」でも、当事者にはなにかしらの「勝ち」の要素が残る仕組みというか。

嶋:単純なパブリシティにしても、PRパーソンだったら、メディアがこの情報を読者に伝えられてよかったって思ってくれるレベルにまで、情報を加工しなければいけないじゃないですか。編集部からしてみれば、「すてきな情報提供をありがとう。読者も満足です」みたいな。PRって、その仕組みに参加する人が全員「ハッピー」になることみたいな気がしますね。僕が手伝っている本屋大賞も、書店も取次店も、作家も、読者も、みんなうれしい仕組みだし、「東北食べる通信」も、自治体がうれしい、生産者もうれしい、食べる人もうれしい仕組みになってますよね。PRってプレーヤーが増えれば増えるほど方程式が複雑になるけど、こういうところがいいですよね。

坂本:そうですね。今、面白いことが起きていて、1500人の読者に食材を届けるのってすごく大変じゃないですか、だからそれを手伝いに、読者が現地に来たりしてるんですよ。待っていれば自分のところに届くのに、わざわざ行って詰めてる。それっておかしいですよね。

嶋:リアルリレーションズまで生み出しているってことですね。

坂本:えぇ、すべて役満で、いいことだらけなんです。意外だったのは、「東北食べる通信」で特集された生産者同士の横のつながりさえも生まれていることです。今までだったら、いわきの野菜農家と岩手の畜産業の方は出会うはずもなかったのに、「東北食べる通信」のイベントを通じて知り合ってお互いに会いに行ったり、秋田の農家が田んぼのコンディションがめちゃくちゃになって困っている時にみんなで手伝いに行った際には、各号の生産者が食べ物を差し入れしてくれたり……。すごくいろんなことが生まれていますね。

PRにエモーションを!!

嶋:PRの世界に来て、戸惑ったことや、すごいと思ったことはありますか?

坂本:PRは、うまくいった時に一番ハマった感が強いですよね。マスメディアの広告とかは評価されても受賞で終わってしまったり、オンエア時期の終わりとともに終わってしまうことが多いですが、PRは本当にパブリックとのリレーションなので、うまくいくと、社会全体が変わったことをすごい実感できますよね。それが一番の醍醐味だと感じました。

一方で、意外にルーティン化しているとも感じました。初めて記者発表会に行った時、記者の人がルーティンの仕事としてその場に来ていて、ルーティンとして面白くもないものを取材して、終わったらそそくさと帰っていく、みたいなのを見て本当に驚きました。そこになんのエモーションもなくて、本当にただの「作業」になっていたのがショックでしたね。

嶋:うーん、それは外からの視点を持った、いい指摘です。そうなんです。なんか、新しいものを作り出そうという気分より、ルーティンの仕事になってしまっている感じも現場ではあるんです。

坂本:意外と、PR専門の人よりもクリエイティブ畑から来ている人が「必ず二度見たくなるムービー配信」や「記者の人たちが読んで気になるプレスリリース」を作れたりするんですよね。これからはPRの外から来た人が、PRの世界にエモーションを撒き散らすことも増えるのかもしれません。

嶋:僕もそこは、まだまだチャンスがあるところだと思いますね。

坂本:そうですね。だから、PRの専門家じゃなくても、面白いPRの仕事はできると僕は思います。

嶋:その通りです。PR会社にいなくても、センスのあるいい仕事をしている人はいっぱいいます。PRセンスはもはや、全員必須の装備アイテムなんですよね。だから、所属している会社や部署に関わらず、PRアワードにもいろんな人に参加してほしいですね。

坂本:はい。僕みたいに、思いがけず、自分の仕事を高く評価してもらえるチャンスだと思います。

嶋:そのとおり! ぜひ、たくさんの人に応募してほしいですね。

(聞き手:伊澤佑美)


坂本陽児(さかもと・ようじ)
電通iPR局 情報戦略プランニング部

媒体の種類にこだわらず、常に生活者へ最も効果的に届くアイデアを探し求めているコミュニケーション・デザイナー。世界初の「食べる」月刊情報誌「東北食べる通信」のコンセプト作りや、東北六魂祭の立ち上げ、ミドリムシを使ったバイオベンチャー企業・ユーグレナ社のトータルブランディングなどを担当。グッドデザイン賞金賞、スパイクス・アジアでゴールドほか受賞多数。今年のカンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバルではヘルスケア部門である「ライオンズヘルス」の審査員を務めた。

 

嶋浩一郎(しま・こういちろう)
博報堂ケトル 代表取締役社長 クリエイティブディレクター/編集者

93年博報堂入社。コーポレートコミュニケーション局配属。企業の情報戦略、黎明期の企業ウェブサイトの編集に関わる。01年朝日新聞社に出向。スターバックスコーヒーなどで販売された若者向け新聞「SEVEN」の編集ディレクター。02年~04年博報堂刊行「広告編集長」。04年本屋大賞立ち上げに関わる。現NPO本屋大賞実行委員会理事。06年既存の手法にとらわれないコミュニケーションによる企業の課題解決を標榜し、クリエイティブエージェンシー「博報堂ケトル」を設立、代表に。09年から地域ニュース配信サイト「赤坂経済新聞」編集長。11年からカルチャー誌「ケトル」編集長。2012年下北沢に書店B&Bをヌマブックス内沼晋太郎氏と開業。11年、13年、15年のカンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバルの審査員も務める。