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広告コピー「昨日まで世界になかったものを。」が旭化成のグループスローガンになるまで

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「昨日まで世界になかったものを。」――このコピーで、旭化成という企業を「世の中のいろんな問題を、昨日まで世界になかった技術で解決する会社」と再定義した。
認知獲得、態度変容、イメージ向上……企業の活動には多くのコピーが関わり、それは企業の成長段階や施策の目的などによって使い分ける必要があります。しかし、企業内に多くの言葉が氾濫する中、一つひとつのコピーの役割が整理できていないケースが多く見られます。
「昨日まで世界になかったものを。」というコピーのもと、旭化成の企業広告をともに生み出してきた、電通 クリエイティブディレクターの磯島拓矢氏と旭化成 広報室長の山崎真人氏が、「企業とコピーの関係を考える」をテーマに、企業に貢献するコピーの役割について改めて議論しました。

サランラップやヘーベルハウスはたった3割という事実

山崎:宮崎県延岡市を発祥の地とする旭化成グループは、2022年に100周年を迎えます。現在、従業員3万2000人のうち、1万人近くが外国在住です。旭化成というと、皆さんは「サランラップ」や「ヘーベルハウス」に馴染みがあるかもしれません。しかし実は、ケミカル・繊維、エレクトロニクス、ヘルスケアといったBtoB事業が7割を占めています。

磯島:僕も延岡市の工場を実際に見せていただいて、改めて「旭化成は、素材メーカーなんだな」ということを実感しました。当然かもしれませんが、車メーカーでは車が、家電メーカーでは家電が、工場内で完成するものですが、旭化成さんの工場は、最後まで「ドロドロ」とか、「シュー」とか(笑)。でも、だからこそ、素材メーカーがつくる「新しいもの」というのは、新型自動車や新型家電といったものとはまた違う、本当に今までにない新しい存在なんじゃないか、とスケールの大きさを感じたのを覚えています。

「イヒ」から、「昨日まで世界になかったものを。」へ

山崎:旭化成は、1997年に「イヒ!」というコピーを使用し企業広告を始めました。「イ」と「ヒ」を合わせると「化」ける。総合化学メーカーである旭化成を、一言で表現している、ということで採用しました。そこから2007年までテレビCMや新聞広告でも使用し、その親しみやすさで旭化成の知名度を高めたコピーでした。

しかし10年が経ち、「旭化成って、イメージはいいんだけど、何をやっている会社かわからない」という声を耳にするようになった。さらに、2006年からは、旭化成が本格的にグローバル化を目指し始めたタイミングでもありました。「イヒ!」は、グローバルでは通用しない。そこで、新しいキャッチコピーをつくらざるを得なくなりました。

磯島:「イヒ!」は個性が立ったキャンペーンでしたから、制作者としては、次は真逆に振ったほうが、勝ち目があるだろうなと思いました。いただいた課題も、「イヒ!というキャンペーンで、旭化成が何をやっている会社かつかみにくくなっている」と「グローバルという中期経営計画」の2点で、非常に明確でした。

企業広告をつくる目的は、大きく分けて2つあります。ひとつは、「その企業が何であるかをしっかりと言い当てる」というもの。もうひとつは、「この企業はどこに進むのか、ということを指し示す」ということです。

今回の課題を踏まえると、前者のほうが強いだろうな、と照準を定めました。そして、コピーの中には「グローバル」とか「アース」とか、「地球」とかいう言葉があったほうがいいだろうな………と、かなりロジカルに書き始めました。

山崎:「グローバル化」は今でこそ当たり前の企業活動ですが、2006年の時点では、社内で行ったアンケートで、従業員のグローバル意識が低いという結果が出ていました。ですから、グローバル化を目指すにはまず従業員の意識をいかに高めるか、ということが当時の課題でした。

磯島:世の中のいろんな問題を、昨日まで世界になかった技術で解決する会社――そんなふうに、旭化成という企業を再設定するという方向性で、2つのコピーをご提案しました。

10年、20年前だったら、「うちがナンバー1」とか、「世界最小」「最軽量」という、ある種の自慢話にも多くの人がついてきてくれていた感じがするんですけど、景気が低迷して、人々の心の中がモヤモヤしているときは、そうしたわかりやすいリーダーシップよりも、世の中にある問題を一つひとつ潰していくような会社のほうが、地味だけれど信頼されるのではないか、ということを皆で話し合いましたね。

その結果、世の中に流通する広告の9割が「こっちを向いて」というスタイルだった中、「世の中のことをあなたと一緒に考えるんですが、いかがでしょうか?」というアプローチの広告が生まれました。それが2007年8月に展開をスタートした「昨日まで世界になかったものを。」ですね。

当初は、「なんだこの広告は、ずいぶん暗いぞ」という反応があったんですけど、TCC賞(2008年)・ADC賞(2008年)などいくつか広告賞をいただくうちに、「なんか意外といいかもね」とジワジワと認知されていった感じがします。

山崎:受賞を通じて、だんだん評価が上がっていきました。広告賞はインパクトが大きかった分、社内でも効果が大きかったです。



次ページ 「企業広告と技術広告のせめぎ合い」へ続く