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【Webサービス改善会議③】もっと自由に「メディア」について考えよう

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広告会社発のメディア事業としてサービスを開始した「キタコレ!」をめぐって、事業を運営する小林パウロ篤史さん、糸永洋三さんが、博報堂時代の先輩でもある高広伯彦さんからアドバイスを受ける形で始まった鼎談も3回目。いよいよ席も温まってきました。今回のテーマは、ユーザーに情報を届ける最適な「メディア」の考え方。PCやスマートフォン、テレビといった既存のデバイスありきで発想しないことがポイントといえそうです。

第1回第2回はこちら

そこにメディアがなければ、つくることを考える

小林さん糸永さん

(左)小林パウロ篤史 MediaJUMP代表取締役共同経営責任者
(右) 糸永洋三 MediaJUMP代表取締役共同経営責任者


高広さん

高広伯彦
コミュニケーションプランナー/広告ビジネスコンサルタント

小林 ユーザーの嗜好に合ったイベント情報を提供することで、「あした、何しよう?」に応えるのが「キタコレ!」の目指すサービスです。つまり、より充実した週末を過ごしてもらうためにつくったわけですが、アクセス数の推移を見ると週末に大きく落ち込んでしまっています。

高広 それは、インターネットの特性だから。

小林 そうなんですけど、「ここまで下がる?」と思うわけです。

高広 メディアビジネスは、コンテンツの作成(調達)と、コンテンツを配信する仕組みによって成り立っている。週末にアクセスが落ち込むことは、配信するツールとして使っている仕組みの問題であって、コンテンツの需要そのものが落ちているとは必ずしも言えないんじゃないかな?

糸永 そう信じてつくっています。

高広 とすると、コンテンツの需要に対して最適なツールを考えることが重要。そこの設計をどうするかはサービスの肝だよね。

糸永 では、スマホ(スマートフォン)になりますかね。

高広 それはわからない。スマホじゃないかもしれないよ。

小林 そうですか?

糸永 でも会社PCよりも利用シーンに近いのは確かですよね。

高広 デジタルのメディアじゃないような気がするな。意外と。利用はどんな時間帯を想定してる?

小林 土曜、日曜の朝とかですね。予定のない日にどこに行くか決めたり。

高広 週末に人が増えるのはどこかと考えたときに、例えば郊外のコンビニエンスストアが浮かんでくる。これは一例だけど、セブン-イレブンで何かを買うと、そこでクーポンが出てくるようにする。大手のコンビニにはネットワーク型のプリンターがあるから、そこにクーポンを持って行くと店内のプリンターで、土曜日から1週間分のキタコレ情報が出力できる、といったことが考えられる。

二人 なるほど!

高広 情報提供の仕方を、いま存在しているツールだけで考えるのではなくて、見てもらいたい人たちが集まる場所から発想したほうがいいと思う。そこにメディアは存在しなくても、もしかしたらつくれるかもしれない。スマートフォンにこだわるとか、テレビやパソコンにこだわるのは、デバイス単位でしかメディアを捉えられてないということだよね。場所やタイミングなども「メディア」として設定できる要素だと思う。

糸永 う~ん。その通りですね。

サービスを提供する「相手」をイメージする

高広 例えば、「タダコピ」(注)のようなサービスと提携して、タダコピに広告が入るときに、下の4分の1とか5分の1のスペースをキタコレ!が提供して、大学生向けに何らかの情報提供をすることもできるわけじゃない。情報の届け先があれば、そこの間に入るメディアは何でもいい。

「広告」の定義は、「広く告げる」とかいろいろなものがあるけど、僕は「企業と生活者の良い関係づくりのための企て」という定義に到達した。そうとらえると、企業が変わろうが、メディアが変わろうが、消費者が変わろうが、ビジネスの基本は変わらない。「間」に入るものは何でもいい。キタコレ!の話とこの話は近いと思う。

糸永 近いですね。

高広 生活を豊かにする、楽しくするためのコンテンツを提供したい、という君たちが実現したいことに対して、届ける相手がいるわけでしょ。その相手をイメージしなければいけない。それは性や年齢などデモグラフィックな属性でイメージするだけではだめ。一方で、今あるカテゴリーで括らなくても構わない。

例えば、雑誌の世界ではかつて「CanCam(キャンキャン)族」などと言われる人たちが出てきたりしたけど、それまでそのように括られた人っていなかったでしょ? 雑誌が生み出す読者とか街中とかあるいはソーシャルメディア上での集団というのは、それぞれのメディアやシチュエーション、コンテクスト自体がある種のトライブ(種族・共通の趣味や属性をもった仲間)を生み出す装置になっている。それは必ずしもデモグラフィックには区切られてない。ところが広告業界の人は、ついデモグラフィックに考えてしまう傾向にある。

僕はクライアントの新商品発売にかかわるときに、その商品のターゲット層となるペルソナ(=架空の人物)像をつくることがたまにある。そのときは、単純に「ここにマーケットがあります」とデータに基づいてつくられるわけじゃなくて、みんなが「こういう人だよね」と共通の認識で描ける人物像というのが出てくる。それを僕はペルソナと言ってるんだけど、「こういう人たちに売りたい」とまず考え、その人たちに向けたプロモーションなり、マーケティング施策はどうするべきか、という考え方をしている。

こういったことは「マーケットイン型」ではなくて、「プロダクトアウト型」のコミュニケーションからでなければ生まれない。おそらくキタコレ!も同じで、いま想像できる人たちに売ろうと考えるとき、キタコレ!の情報との間に何があるべきかと考えないと、ビジネスとしてのイノベーションはなかなか起きない。

デジタルの革新はディスプレイの中だけで起きているのではない

小林 さきほどのコンビニのプリンターはまったくその通りだと思います。僕の自宅にもプリンターはあるわけですけど、写真をいちいち印刷するのは面倒なわけですよ。そこで先日、コンビニでネットプリントを使ったのですが、ホントに楽。「プリンターいらないかも?」と。パソコンも要らないし。この便利さにはびっくりしましたね。そして、ついでに雑誌を立ち読みしたり何か買ったりするわけです。

高広 ネットプリントは1枚20円くらいのコストがかかるので、POS連動では30円とか40円のコストがかかるんじゃないかな。それに見合うもので、裏面に広告を掲載したりとか、その辺りのビジネスモデルは考えないといけないけど、そこにビジネスが成立する可能性は十分にある。言いたいのは、デジタルがもたらした革新は決してパソコンやケータイのディスプレイの中だけで起こっているわけではない、ということ。コンビニのネットワークプリンターなんて、デジタルの恩恵そのものだから。

糸永 本当ですよね。

小林 僕らも、これを使って外に出ましょうと提案しているけど、本当にユーザーがその情報で外に出るためには、最後のひと押しが必要だと考えていました。

高広 そのためには「アテンション」(認知)の接点をいくつつくれるかになるけど、例えばメルマガやスマートフォンのプッシュ通知もそうだし、コンビニのクーポンによるアテンションがあるかもしれない。情報に対するアテンションのつくりかたというものをもっと自由に考えた方がいいかもしれないね。

(次回は12月12日に掲載します)

(注)「タダコピ」=コピー用紙に企業の広告を掲載することで、コピー料金の無料化を実現した大学生向けのサービス。企業にとっては大学生向けの広告メディアとして使われている。学生ベンチャーを母体とするオーシャナイズ(東京・渋谷)が運営する。

続きはこちら

「宣伝会議」12月1日発売号にも鼎談の一部を掲載しています。こちらもご覧ください。

シリーズ【Webサービス改善会議】
【Webサービス改善会議①】広告会社の新ビジネス領域を開拓する! 
【Webサービス改善会議②】ソーシャルメディアは「人と人のつながり」って本当?


「キタコレ!」とは

kitakore

URL:http://www.kita-colle.com/
「あした、何しよう?」をコンセプトに、個人の興味・関心や生活圏に合わせたイベントを上位表示するWebサービス。独自のアルゴリズムによるレコメンド(推奨)エンジンを開発し、ユーザーの登録情報やサイト上での行動履歴を基に、関心の高いと思われるイベントを提案するもの。博報堂DYグループの新規ビジネスアイデア公募制度から生まれた社内ベンチャー「MediaJUMP(メディアジャンプ)」が立ち上げた。