YKKは非上場企業でありながら、長年にわたりステークホルダーへの情報開示に取り組んできた。その象徴が、継続的に発行している統合報告書だ。その背景には、同社ならではの理念と、ステークホルダーに対する考え方が深く根付いている。
社会、顧客、社員がステークホルダー
上場企業であれば、株主、特に機関投資家が主要なターゲットとなることが多い。この点、非上場企業であるYKKが発行する統合報告書は、誰に向けて書かれているのか。YKKの広報責任者である堀川博光氏は、同社が重視するステークホルダーを「社会、顧客、社員」の3つだと明言する。これは、1993年に掲げられた経営理念「更なるCORPORATE VALUEを求めて」に基づくもので、事業を展開する70の国と地域の「社会」、グローバルブランドから国内ブランド、そして最終消費者まで多岐にわたる「顧客」、そして全世界に約2万8000人いる「社員」が含まれる。背景には、「上場、非上場にかかわらず、ステークホルダーの方々にしっかり説明責任を果たすことは大事だ」との企業姿勢が貫かれている。
特に「社員」の存在は大きい。同社の筆頭株主は社員持株会であり、社員は株主という側面も持つ。そのため、社員への情報伝達とエンゲージメント向上は重要なテーマだ。
2025年版の統合報告書では、社員への浸透を図る新たな試みとして、解説動画を制作した。統合報告書とは何か、なぜYKKが発行するのかといった基本的な内容から、社長メッセージや社員に読んでほしいポイント、そして2025年版の見どころを紹介する構成で、結果的に1000人以上の社員が視聴した。同社の広報担当で統合報告書のリーダーである宇江城瑞葉氏は、「社員を巻き込むための一歩目、基盤作りと位置づけた動画です」と語り、この動画が社員の理解を深める一助となった。
社員向けの説明動画の1コマ。代表取締役社長の松嶋耕一氏が思いを語る。
理念は「善の巡環」
同社の事業活動、そして統合報告書の根幹を成すのが、創業者・𠮷田忠雄氏が提唱した「善の巡環」という企業精神である。「他人の利益を図らずして自らの繁栄はない」。この考え方は、YKKが利益を事業への再投資や社員、社会へ還元し、その好循環がさらなる価値を生むという経営の根幹をなしている。宇江城氏は「当社を『理念を実践する会社』と思ってもらいたい」と語り、報告書では創業者の語録を各所に引用し、現在の事業活動が創業当時から続く理念と地続きであることを示している。
