サントリーが1978年から毎年展開してきた、新成人や新社会人に向けた新聞広告。人生の節目を迎える若者へエールを送るこの取り組みは、時代を代表する作家がメッセージを紡ぐことで、長年にわたり多くの読者の記憶に刻まれてきた。作家の山口瞳氏、倉本聰氏、伊集院静氏と続いてきたシリーズだが、2025年から劇作家の三谷幸喜氏へとバトンが渡され、クリエイティブも大きく刷新された。この変革の裏にはどのような思想があったのか。制作を手がけるサン・アドのクリエイティブディレクター・コピーライター 岩崎亜矢氏と、アートディレクター 白井陽平氏に、その継承と刷新の哲学を聞いた。
伊集院静から三谷幸喜へ――山口瞳スタイルへの回帰
サントリーによる若者への応援広告は、1978年の新成人向け広告から始まった。現在は、1月の成人の日に「新成人」へ、4月1日に「新社会人」へ贈る言葉が新聞広告の全7段広告で掲載される。作家の山口瞳氏が手がけたこのシリーズは、その後、倉本聰氏、伊集院静氏へと書き手を変えながら、企業の年中行事として定着してきた。特に伊集院氏のシリーズは20年以上続き、多くのファンを獲得した。
2025年からの新シリーズを担当することになった岩崎氏と白井氏。岩崎氏は、人気を博した伊集院氏が築き上げたスタイルに敬意を払いつつ、「変化する若者の気質と価値観に寄り添い、彼ら・彼女らの共感が得られるメッセージを発信するため」に違うアプローチを模索することも選択肢に入れたと振り返る。
そこで、新たな書き手の人選において最も重視されたのがフラットな視点であった。制作陣から細かくディレクションするのではなく、その人の作風自体が、上から目線にならないことが求められた。複数の候補の中から選ばれたのが、三谷幸喜氏だった。岩崎氏は、三谷氏の持つ「飄々としてまったく偉ぶらないキャラクター」が、目指す方向性とマッチしたと語る。
この人選は、シリーズの原点への回帰という思想に基づいていた。岩崎氏が最も好きだと語るのが、初代の書き手である山口瞳氏のシリーズだ。そのスタイルについて、岩崎氏は「自分をちょっと貶めることで相手を励ます、自虐のスタイル」と分析する。人生の節目で不安や焦りを抱える若者にとって、偉大な先輩が自らの失敗を語りかけることで、大きな安心感が得られるのではないか。このスタイルへの回帰こそが、新しいシリーズの根幹をなすコンセプトとなった。
2025年1月、三谷幸喜氏による新シリーズ最初の新成人向け広告
