多くの企業が営業力強化を目指し、AI活用を進めている。しかし、AIを営業の効率化やパフォーマンスの底上げにつなげるには、ツール導入以上の変革が求められる。
営業成果を最大化するための、知識・スキル・ツールの体系的な支援活動「セールスイネーブルメント」にAIを組み込む新たなアプローチ「セールスAX(AI Transformation)」を推進するナレッジワークのCAIO(Chief AI Officer)山崎はずむ氏に、これからの営業活動のあり方について聞いた。
「水平型」AIだけでは、営業現場に届かない
山崎氏は、企業のAI活用が期待ほど業務インパクトを生み出せていない背景として、「水平型」AIの限界を指摘する。水平型とはChatGPTやMicrosoft Copilot、Claudeに代表される、業務全般に使える汎用AIのことだ。幅広い業務に使える反面、各社の営業プロセスや顧客対応の実態に合わせて設計されているわけではない。
一方、各タスクや特定の業務に特化して構築されたAIを「垂直型」AIと言い、自律的に動くAIエージェントが代表される。
ひと口に営業と言っても、製造業、金融業、通信業では商材や提案プロセスなど、それぞれ業務内容が大きく異なる。同じツールを一律に配るだけでは現場に定着しにくいのだ。そこで、各社固有の営業文脈を理解したAIエージェントを構築し、営業活動の中に組み込む「セールスAX」という概念が誕生した。
出典:McKinsey&Company「エージェント型AI時代の到来:企業変革の新たな戦略」
「個社最適」を叶えるセールスAX
従来のDXにおいて、企業が導入するツールはSaaSが中心だった。そのため、人がシステムやツールに合わせて、効率化を図っていくことが推奨された。この方法はどうしても、各社固有の業務の進め方には対応しきれない。
「今やAIエージェントが登場したことで、個社ごとのカスタマイズが簡単にできるようになりました。ビジネスモデルや業務フローに合わせた形で、各社独自のデータや業務を理解して対応できるようになった点がこれまでのDXと大きく変わった部分ですね」(山崎氏)
つまりAXとは、従来のDXが取りこぼしてきた「個社性・個別性」を担保できる変革と言える。
ハイパフォーマーの知見をAIが理解できる形に
個社の営業文脈に合わせたAIエージェントは、ツールを導入すればすぐに使えるようになるものではない。山崎氏は、セールスAXの実現には、データ、業務、実装、ユーザー体験の整理が必要になると述べる。商談記録や営業資料がAIの参照できる状態になっていなければ、AIは一般論しか返せない。営業プロセスが整理されていなければ、どこをAIに任せ、どこを人間が担うのかも決められない。
また、1人のトップセールスの手法をそのまま共有するのではなく、複数のハイパフォーマーに共通する行動を整理し、再現可能なスキルとして言語化する必要がある。
「ハイパフォーマーがどういう商談をしているのか、どのような営業プロセスに基づいて進行しているのかを記録します。これは人間が参照するためだけでなく、AIが各社の営業文脈や戦略を理解・分析するうえでも重要です。AIが営業担当者にフィードバックするには、まずは何を良い営業とするのかが言語化されていなければなりません」(山崎氏)
商談記録や営業プロセス、スキルマップが整備されれば、AIは議事録作成の用途を超え、個人の営業スキルに基づいた助言やトレーニングにも活用できるようになる。
営業準備から提案書作成まで、AIを業務フローに組み込む
では、セールスAXによって営業業務は具体的にどう変わるのか。営業活動の一部を個別に効率化するのではなく、AIエージェントが営業準備から商談後の提案、トレーニングまでを一連の流れとして支援するようになる。
たとえば商談前には、営業担当者が自分で企業情報を調べ、過去の商談メモや社内資料を探し回るのではなく、AIがインターネット上の公開情報などから顧客情報を収集し、過去のやり取りや案件化の状況を踏まえて、アカウントプランを整理する。
さらに、過去の商談記録から顧客の課題を抽出し、社内に蓄積されたナレッジデータベースから関連するディスカッションペーパー、商品紹介資料などを提案する。営業担当者が「どの資料を使うべきか」を探す時間を減らし、顧客にどう提案すべきかを考える時間に振り向けられる。
商談後は、文字起こしはもちろん、要約や顧客課題の抽出が自動化される。それらを反映し、新たな提案書やスライドを生成することも可能になる。
営業担当者がAIツールを開いて、プロンプトを入力しながら作業するのではなく、営業の業務フローの中で仕組み化されるのだ。

