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書くことに憧れはあった、でも……
書くことは、幼いころから好きだった。好きだったと言っても、作文で賞をもらったこともないし、読書量も人並み。作家を夢見るというほどの強い野心もなく、自作の長編物語をこっそり綴るでもなく。文章にまつわる特別な思い出があるとすれば、仲のいい先生にポエムと写真を合わせてつくったアルバムを渡したり、内面を書き出した日記を思春期からずっと続けていたくらい。けれど、なぜかずっと確かな気持ちで「文章が好き」と思っていた。
こういう子は、わんさかいる。そしてそのわんさかいる子と同様、「書く仕事に憧れるけれど、わたしには無理」と思い込んできた。狭き門だと聞くし、なにより「書く仕事」の人が何をしているのか分からない。そもそもどんな種類の仕事がある? 書きたくないことも書かなければならない? 原稿に追われて眠る時間がないって本当? 好きなことを仕事にするとつらい?
……見たこともない仕事のことを田舎の一部屋で考え込んでは、夢を勝手に終わらせようとした。
今でも思い出せる、夕暮れ時のわたしの部屋。好きな芸能人のポスターをささやかに貼った6畳の部屋で、目をつむった。遠い遠い東京での暮らしのこと、大人のわたしが一体どこで、誰と笑って、何をして暮らしているのか。大学を決めなくてはならなくて、地元にはもういられないと予感して、しかし東京でわたしはなにをしているかが不安で。何か見えてこないかと、念じた。けれどいくら念じても、聞こえてくるのは階下で夕飯を作る包丁の音、そしてコオロギの声。思い描けない未来に、夢をのせることなんてできない。
とにかく、わからなかった。わからないくせに、わたしにはできるはずもない、と思い込んでいた。
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