そんなこんなで、結局ケッセルスと180からその日にメールで返事が来て、翌日会いにいくことになりました(ワイデンからは返事なし……だけど今はそこで働いているというから人生わからないものです)。当時を振り返ると、なんだか道場破りをするような気持ちで挑んだ記憶があります。そのちょっと珍しく無謀な日本人を面白いと思ってくれたのか、両社ともすごく話を聞いて気に入ってくれました。迷った結果180に行くことにして、もうその場で契約書にサインをして帰ってきました。
このとき印象に残っているのは、僕のそれまでやってきたCMや広告キャンペーン仕事よりも、サイドでやっていた“Rainbow in your hand”やその時できたばかりだったSOURの「半月」のミュージックビデオの方が、がぜん話が盛り上がったことです。当時は広告のエージェンシーなんだから広告を見せなきゃいけないという変な思い込みがどこかにあったのですが、作品を順に見せていたら、始めからコレ見せろよ! と言わんばかりの食いつきをされてうれしい驚きがありました。もちろん単純にこれらの作品の方が面白かったというのもあるのでしょうが、海外のエージェンシーが広告という枠の中に収まらずに自らコンテンツを作ったり、新しいコミュニケーションの形を模索しているんだというのを肌で感じられてすごいワクワクしました。
180との交渉のときも、インタラクティブだとかコピーライターだとかアートディレクターだとか枠にくくらないで欲しいとお願いしたら、“Hybrid Creative(ハイブリッドクリエーティブ)”という肩書きを作ってくれました。ちょっと響きはうさんくさいけど、それはすっごく嬉しかった。残念ながら現実は厳しくて、180ではその理想とするような制作活動をあまり実現できなかったけれど、今でも僕はまだこの肩書きを背負っている気持ちで創作しています。
ちょっと思い出話が長くなってしまいました。次回は、始めの方で書いた「クリエーティブは他の職種よりもよっぽど海外で生きていける確率が高い」と僕が思う理由やら、自分を振り返ってじゃあ僕は何を武器にして海外で生き延びて来たのか、などなど書いていけたらと思っています。
それでは、また。
※隔週土曜日連載(全7回)。次回は12月11日です。
川村真司「世界のクリエーティブ」バックナンバー
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