ソーシャルメディアのリアルタイム性を支える電子メール
最近のインターネット・マーケティング関連の書籍や記事は、フェイスブックやツイッターに代表される「ソーシャルメディア」や、iPhone(アイフォーン)、アンドロイド端末に代表される「スマートフォン」に集中していると感じている。
このコラムの自分の記事もそこに集中していると考えているので、自戒の念もこめて従来からあるインタラクティブマーケティングの手法にあえてスポットを当ててみたいと思う。今回はその中でも特に電子メールと検索エンジン対策(SEO/SEM)ついて詳しく言及したいと思う。
まずはインターネット創世記(1995年頃)よりある電子メールにスポットを当ててみたい。筆者は電子メールは今でも顧客と継続性の高い関係を構築できる最高のツールであると考えている。特に迷惑メールフィルタリング機能の充実した携帯電話向けのメールは、消費者の信頼性も高いために有効であると考えている。それは、電子メールはユーザーに情報をプッシュ(好きなときに好きな内容を送信)できるという特性を有しているからと、インターネットへの常時接続を必要としないからである。
情報のプッシュに関してであるが、電子メールは“特定電子メールの送信の適正化等に関する法律” (平成十四年四月十七日法律第二十六号)で利用者の許可を得てからでないと送信できないというルール(一般にパーミッションと言われる)が定められたために、受け取る側も信頼できる企業の情報を受け取っているのである。
次に常時接続が必要ないということであるが、電子メールは一般的にインターネットのサイトよりはデータ容量が軽くできており、メールの閲覧ツールにより定期的に端末のメモリー領域にストックされる。つまり、端末があればインターネットに接続しなくてもいつでも見ることができる(一部読み込み方htmlメールなどを除く)ので、例えば電波の届かない電車や飛行機の中でも見たり、返信を書いたりすることができるのである。
さらに実は電子メールのこのプッシュ機能はソーシャルメディアでも広く活用されている。あくまでも希望すればではあるが、ツイッターはフォロワーが増えた場合、フェイスブックでは自分宛のコメントが投稿された場合、ミクシィでは友人が日記をアップデートされた場合、モバゲーやグリー、そしてコカ・コーラ パークでも毎日最新情報やステータスを提供している。
つまり、実は今のソーシャルメディアのリアルタイム性を担保しているのは電子メールであり、電子メールなくしてはソーシャルメディアの普及は無いといっても過言ではなかろう。電子メールは制作や運用のコスト面をきちんと考慮すればまだまだコスト効率が良く、有効で活用の幅が広いメディアと言っても良いのではなかろうか。
SEOは最もROIの高い施策
次は検索対策のSEO(検索上位表示最適化)/SEM(検索連動広告)に話を移したい。インターネットサイトアクセスの主流である検索が、日本では欧米と比べて多いといわれている。それは、海外では盛んなURL表記(例えば https://www.advertimes.com)は日本人には覚えにくく、またテレビCMなどでは表示時間が短いため「検索」を告知(例:[アドタイ]検索)するケースが多いということや、携帯電話に検索機能が標準装備されていることにも起因している。
さらに重要なのは、検索とは利用者の明確な意思表示であるということである。企業にとってこれをマーケティングに利用しない手はない。例えば「日本橋 すし」という検索があったとする、これはたいていの場合その人は日本橋にいるか、行こうとしていてすしが食べたいということである。自宅のPCからのアクセスではこれから行くということであり、携帯やスマートフォンでは現地で検索していると推測することができる。
この検索では日本橋のすし店が告知をすることが最も効率的で、他の地域のすし店情報を流してもあまり意味が無いことは容易に想像できるだろう。あるいは携帯やスマートフォンの検索では例えば本日定休日のすし店が検索広告をすると、これは「なんだ休みか」と顧客をがっかりさせることになる可能性もあるので逆に行わないほうが良いとも考えられる。そのような中、何よりもSEO(検索上位表示最適化)に関してはクリックされても費用がかからないことにより、企業にとってはあらゆる施策のなかでもっともROIの高い施策になる場合があるのではなかろうか?
グーグルが標榜する70-20-10の法則という資源分配法則がある。これは、70%はすでに証明されたものへの配分、20%は既存のものの改善、10%は全く新しいものの実験への配分という内容になっている。
昨今のソーシャルメディアやスマートフォンにまつわるトレンドや報道をみていると、大きな変化が起こりにくい70%の部分はあまり報道されないなかで、どちらかというと10%や20%の分野に注目が集中してしまっている側面もあるような気がする。またこの傾向と同様に、ある企業によっては最近流行ってきている「ソーシャル」や「スマートフォン」への投資を優先するため、本来の“70%”の部分にあたるメールや検索への投資の分をまわしている企業もあるのではなかろうか?
上記の例でも少し示したとおり、一見すると大きな変化が起きにくいと思われるメールや検索に関する施策も、ソーシャルメディアの提供するソーシャルグラフやスマートフォンの位置情報と絡めた活用を通じて、新たな展開方法や予想以上に大きな効果を得られることも十分に考えられる。例えば「日本橋 すし」が日本橋近辺でのスマートフォンでの検索なら、今席の空いているお店の情報提供が広告主にも利用者にとっても一番価値が高いものであることは明確だろう。
インターネットの手法は古く映ってもテクノロジーやプラットフォームの進化によってまだまだ大きく変化してゆく分野であるので、一見するともう大きな変化は生まないだろうと思われる70%にあたる部分も含めて、まだまだ投資の手を緩めてはいけないのではなかろうか。
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