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コラム

片岡英彦のMPR(Marketing PR)な人々

紅白歌合戦といえばこの方(!?)小林幸子の豪華衣装を戦略広報の視点で考える。

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こんにちは。片岡英彦です。第7回目は戦略広報上の視点から「First Choice」について考えてみたいと思います。

「First Choice」とは、その名の通り「最初の選択」つまり「顧客に最初に選ばれる会社(商品)になる」ことを意味します。「Mind Share」や「純粋想起」とも近いものです。

現代のように市場に多種多様の商品が溢れていますと、市場に出回る商品の性能や機能自体で差別化を図ることは、よほどの技術革新(innovation)や需要創出(Demand Creation)がない限りは難しいのが現実です。「価格」や「アフターサービス」「デザイン」「販売網」で自社の「強み」を活かせればよいのですが、大抵、どこの競合他社も同じことを考えています。すでに市場に普及してしまっている日用品(commodity)などの販売の場合、どのようにして他の類似した商品と差別化を図るか重要な課題です。

ところで、年末の紅白歌合戦。私が毎年、紅白歌合戦“といえば”まず、最初に思い浮かべるのは小林幸子さんの豪華な衣装です。特に演歌が好きなわけでもなく、ギラギラしたファッションが好みなわけでもありません。ただ、私にとって、紅白歌合戦“といえば”小林幸子であり、小林幸子の衣装がNHKホールのステージ一杯に広がった瞬間“こそが”私にとっての紅白歌合戦なのです。

この“◯◯といえば”や“◯◯こそが”が「First Choice」と呼ばれるものです。

小林幸子の衣装がなぜ、私にとって、紅白歌合戦の中のシーンとして「First Choice」となり得るのか、4つの視点で考えてみます。

  • 排他性(同じ事をやる人が他にいない。他の人にはやれない。)
  • 反復性(繰り返し行われている。毎年行っている。)
  • 一般性(認知度が高く、誰もが知っている。)
  • 純粋想起率(マインドシェア)が高い。なかなか忘れない。

4つのポイントをもう少し深く掘り下げてみます。

排他性(同じ事をやる人が他にいない)

あれほどの規模の大掛かりな衣装(!?)ともなりますと、他の歌手の方は「マネ」のしようもありません。厳密に言いますと、同じ豪華衣装で小林幸子に対抗した人物がいました。美川憲一さんです。しかし「First Choice」である小林幸子に対抗する「対立軸」としての演出でした。小林幸子の豪華な衣装が、すでに多くの人にとってFirst Choiceとして定着している中、その「対立軸」としての白組の美川憲一の豪華な衣装が「紅白歌合戦」を盛り上げたのです。(これは「対立軸」を利用した演出だったと思います。)つい忘れがちですが「紅白歌合戦」はあくまで「歌合戦」なので、演出上の「対立」があってしかるべきなのです。

反復性(繰り返し行われている)

First Choiceとして定着するまでには、ある程度の継続期間が必要です。どんなに独創的で画期的な製品も、継続性なしにはFirst Choiceにはなりにくいのです。「定番化」「常態化」するために「いつでもそこにある」必要があります。小林幸子の衣装に勝る「First Choice」が新たに生まれるまでは、ぜひ、今後も継続して頂きたいと思うのです。

一般性(認知度が高く誰もが知っている)

「一般性」は上記の2つ(排他性、反復性)と表裏一体です。「他にやる人がいない」「繰り返し行う」、この結果、「認知度が上がる」(誰もが知っている)状況になります。もっとも、「紅白歌合戦」という番組がすでに毎年高視聴率を維持しているからこそでもあります。番組の視聴率が低ければ、番組内の「人気コーナー」にはなり得ても、国民的「First Choice」とはなりません。

純粋想起率が高い。忘れない

通常、テレビ番組などにおける(純粋)想起率は必ずしも視聴率とは一致しません。(同じように、ブランド想起率は必ずしも販売シェアとは一致しません。)これはテレビの視聴率(販売シェア)は、裏番組の状況(競合関係)やその時々の話題性、主役のインパクト等、また製品の場合は価格設定、販売網の力など、様々な要因が関わってくるからです。

紅白での小林幸子の衣装の想起率が高いのは、視覚的な「インパクト」の強さと同時に、毎回、基本的には同じ演出の繰り返しだからです。

  • トップバッターでもトリでもなく、歌合戦の中盤に登場する。
  • 歌の開始当初は控えめな電飾
  • 1番が終わり間奏のあたりからしだいにハデになって衣装が開き始める。
  • 歌の最後のサビで全開となる、(さらに回るとか)
  • 毎回5分程度で終わる。

こうした(お決まりの)フォーマットを大きく崩してしまうと、子供からお年寄りまでの広い層に、安心感(共感)が生まれにくいのでしょう。視覚的な「インパクト」と同時にこの「安心感」(共感)があればこそ、「紅白といえば・・・」という「First Choice」となるのかもしれません。

「排他性」「反復性」「一般性」「純粋想起率」の4つの要素が相まって初めて、「◯◯といえば」=「First Choice」として成り立つのでしょう。考えただけでもとても難しいことだと、私は毎年、なぜか「戦略広報」の視点で感心するのです。

「記憶とは活動したり、消すことのできない持続である」(アンリ・ベルクソン)

来週はジャニーズ事務所と吉本興業を戦略広報上の「二次使用」という視点で考えます。

それではみなさま。また来週。

片岡英彦「片岡英彦のMPR(Marketing PR)な人々」バックナンバー

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