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コラム

CSR視点で広報を考える

セシウム新基準値設定に対する反響

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厚労省が食品中の放射性物質対策に関する説明会を開催

厚生労働省は、1月16日から2月28日にかけて、7都道府県で「食品に関するリスクコミュニケーション」と題してセシウム新基準値設定に対する説明会を開催している。その第1回説明会が16日、東京で行われたので参加した。会場は開始時間の15分位前からほぼ満席となり、多数の報道陣も参加して、その関心の高さが伺われる結果となった。

厚生労働省医薬食品局食品安全部長による開会挨拶から始まり、情報提供については、「食品中の放射性物質による健康影響について」「食品中の放射性物質の新たな基準値について」「食品中の放射性物質の検査について」「農業生産現場における対応について」と続いた。

特に今回の基準値の改訂については、「現在の暫定規制値に適合している食品は、健康への影響はないと一般的に評価され、安全は確保されているが、より一層、食品の安全と安心を確保する観点から、現在の暫定規制値で許容している年間線量5ミリシーベルトから年間1ミリシーベルトに基づく基準値に引き下げる」としている。

また、特別な配慮が必要と考えられる「飲料水」、「乳児用食品」、「牛乳」は区分を設け、それ以外の食品を「一般食品」として、全体で4区分に仕分け直す。新基準値は平成24年4月施行予定で、移行にあたっては、市場(流通)に混乱が起きないよう、準備期間が必要な食品(米、牛肉、大豆)については一定の範囲で経過措置期間を設定し、順次、新基準値が適用される。新基準値の改正内容(説明会資料より)は以下の通りであるが、食品群によっては現行の規制値に比べて4倍から20倍も規制が厳しくなる。

食品区分については、「飲料水」が、すべての人が摂取し代替がきかず、摂取量が大きいことや、WHO(世界保健機関)が飲料水中の放射性物質の指標値(10ベクレル/kg)を提示したことなどから、現行の200ベクレル/kgから一気に10ベクレル/kgまで引き下げた。

また、細分化していた各食品を、個人の食習慣の違い(摂取する食品の偏り)の影響や、使用する側である国民にとってわかりやすい規制、さらにコーデックス委員会(FAO=国際連合食糧農業機関およびWHOにより設置された国際的な政府間機関で、国際食品規格等を作成している)などの国際的な考え方を考慮して「一般食品」として取りまとめたとしている。

意見交換会での審議事項

生産者の立場からは依然として規制値が甘く、新基準値の「一般食品」規制値100ベクレル/kgでは、消費者目線からは依然として危険なものが流通しているのではないか、との風評の温床となる懸念があるとの声が続いた。多くの被災エリアの生産物が実際20ベクレル/kg程度まで改善しているにもかかわらず、改定後も100ベクレル/kgという高い水準で維持した場合、消費者側の誤解を解くことができず、現行の「買い控え」の払拭につながらないとの意見だった。

さらに、生産者からは一日でも早く風評を改善し事業の立て直しが必要だが、新基準値移行のための経過措置期間があるために、その立て直しが遅れる懸念が指摘された。

今回の規制については内部被曝を前提に設定されているが、小さなお子様を持つ母親の目線からは、現在も除染しきれていない環境を考慮しながら、外部被曝の影響を含めていない今回の改訂には納得がいかず、さらに、極力被曝を限りなくゼロに近づけようとの努力姿勢が感じられないとの厳しい意見も相次いだ。

食材を取り扱う小売りの立場では、生産者側だけのチェックだけでは不十分で、ダブルチェックを行う必要を感じているが、スクリーニングのための検出機器が高額で、現実的な対策を打つことが難しい、と悲鳴をあげた。

また、今回の改定で厳しくなった食品群の中から実際に新規制値を超える放射能が検出される場合も想定され、使用できなくなる生産物が増加するのではないかとの懸念や、出荷制限となった場合の補償問題などについても意見があがった。

さらに、地震が発生してから1年以上も暫定規制値を運用していたことに対して抗議する意見もあり、第1回目の厚生労働省の説明会の船出はかなり前途多難な厳しい印象に映った。

今後発生するリスクについて

今回の改定は、生産者、流通、一般消費者など立場の違うステークホルダーを対象に、一定のリスクを確保しながらソフトランディングしなければいけないところに難しさが存在する。

あまりに新規制値を厳しくしすぎれば、違反生産物が増えて出荷制限の対象に入る生産物が一時的に増加し、さらなる風評の助長につながったり、経過措置期間を短くすれば流通している生産物の回収等が発生し、市場が混乱する可能性が否めない。

一方で、安全・安心のキーワードを確保するためには、国際基準的な立場からも納得できるレベルが求められている。今回の改定では、コーデックス委員会の基準や論文や科学的データが極めて少ない中から信頼性の高い情報を検証して設定されたものと説明を受けたが、全体的なリスクを包括して考慮した場合、新規制値の設定には一定の合理性があるものと考える。ただし、改定の変更幅には相当の大きさがあり、少なくとも数カ月早く対応ができなかったのかという懸念は残念ながら持たざるを得ない。

今回の改定では個々のステークホルダーごとに完全な提案ができておらず、少しずつリスクを配分したような状況となっているため、それを補足するためにリスクコミュニケーションによる信頼確保や経過措置期間を準備することでリスクの吸収を図ることを前提としている。全7回にわたる説明会はまだあと6回を残しているが、今回の意見交換会を踏まえて、厚生労働省がどのような改善を行い、よりわかりやすく納得性の高い説明を実施できるのかについて期待したい。

白井邦芳「CSR視点で広報を考える」バックナンバー

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