メール受信設定のご確認をお願いいたします。

AdverTimes.からのメールを受信できていない場合は、
下記から受信設定の確認方法をご覧いただけます。

×

米国レポート~Ad Ageデジタル・カンファレンス(3)モバイルアプリ&ソーシャルメディアサービスの気鋭たちのコンペ

share

文/Ys and Partners 代表取締役社長 結城喜宣

4月17日、18日の両日。ニューヨークのメトロポリタン・パビリオンで、米国の広告・マーケティング誌『アドエイジ』が主催するデジタル・カンファレンスが開催された。約700名を超える最先端の業界関係者に対し 、キーノートセッション、ワークショップとネットワーキングの機会が提供された。今回は両日にわたり参加した、Ys and Partnersの結城喜宣氏による現地からのレポートをお届けする。

【レポート(1)「勢い増すインターネットTV、「見たい広告を選べる」Hulu」はこちら
【レポート(2)「モバイルや体験型イベントで証明、“ブランドストーリー”の威力」はこちら

今回のカンファレンスでは多数の広告主(アドバタイザー)が登壇した。本レポートでは前回に続き、広告主の取り組み例としてAT&Tの最近の動きのほか、バドワイザーをスポンサーに迎えたコンペ「Brand Hack」の様子をレポートする。

ad-ageDSC_0869 ad-ageDSC_0136

※このレポートは、『宣伝会議』5月15日号に掲載されたものです。

エモーショナルな訴求でブランド確立急ぐAT&T

ad-ageRethink Possible   The Network of Possibilities   from AT T

AT&Tは新しい経験や価値を提供するライフスタイルブランドとして、「Rethink Possible」というキャンペーンを始めた。

「みんなスマートフォンが好き。だから、もちろんAT&Tも好きでしょ?」という悪い冗談から、同社のグレッグ・ハード氏(ブランド・アイデンティティ&デザイン担当副社長)による講演はスタートした。AT&Tといえば、アメリカ最大手の電話会社であるが、これまで機能的なアプローチ一辺倒だったため、人々にとても事務的な印象を与えている。

それはAT&Tだけではない。つい最近まで、すべてのキャリアがアメリカの広大な大地の中で「ここの地域ではうちのキャリアが最もつながりやすい」という戦いを繰り広げていたのだから、消費者からみれば、キャリア=スペックであり、「キャリア=ノーブランド」という認識だったわけである。

ハード氏は、アメリカの人々がモバイルフォンやインターネットというテクノロジーを愛してはいるものの、AT&Tを筆頭とするキャリアに対し何の感情も持っていないのを肌で感じている。
「AT&Tはライフスタイルブランドであり、新しい経験や価値を提供しています。だから、もっと愛されるブランドになれるはず」――。

そういった問題を背景に、AT&Tは2年前から「Rethink Possible」というキャンペーンを始めた。ヒューマンタッチのエモーショナル・アプローチである。今後、同じタグラインのもとで「テクノロジーが人々の生活にどのような可能性を与えるか?」という問いにフォーカスしていくつもりであるとハード氏は語っている。

AT&Tは今後、シカゴの高級ショッピングモールにフラッグシップストアを出店し、より多くの人々に「ブランド体験」をしてもらうことを重視していくという。

余談ではあるが、iPhoneやiPadは、デバイスを売っているAppleストアと、そのキャリアであるAT&Tの店のどちらで購入しても金額にかわりはない。

私は、最近まで多くの人と同様に迷わずAppleストアを選んでいたが、ある日別の用事でやむなくAT&Tの店を訪れ、それまでとはまったく異なる素晴らしいサービスを受けることとなった。これもハード氏が統率するところの、愛されるブランドになるための第一歩だったに違いない。

ブランドの価値を高めるというのは、もはや表面的なことだけではどうにもならない。人々に愛されたい、と本気で見せつけられたと感じるブランド体験であった。

プレゼン技術はスモールエージェンシーの強みになる

ad-ageDSC_0062

コンペではニューヨークのソーシャルメディア関連のプランニングエージェンシー「Wendr」が「Buds by Budweiser」というアプリの企画で優勝。

カンファレンスの途中、「Brand Hack」と題したコンペが壇上で繰り広げられた。スポンサーは、世界のバドワイザー。参加者は、予選を勝ち残った5名のモバイルアプリやソーシャルメディアサービスの若き担い手たち。彼らの多くは、自前のサービスを立ち上げたもののまだ無名であり、「Spotify」のようにビックブランドとのタイアップを求めている。

数時間に及ぶ審査の結果、「Buds by Budweiser」(Budsはここでは親友という意味)という韻を踏んだうまいネーミングのモバイルアプリが選ばれた。制作したのは「Wendr」。ニューヨークのソーシャルメディア関連のプランニング・エージェンシーが、2万5000ドルの賞金を獲得した。

同社はアイデアもさることながら、プレゼンテーションがいかにもアメリカ的で、機知に富み、情熱と勢いがあった。スポンサーチームはそれに押されるかたちで、甲乙つけがたい中からWendrを選んだに違いない。

私は「Wendr」のプレゼンターが大手広告会社出身と聞いて妙に納得した。プレゼンのやり方がいかにもエージェンシー仕込みであり、他のプログラマーたちを圧倒していたからだ。

アイデアあふれるプレゼンテクニックというのは、特にスモールエージェンシーにとって最大の強みになるのではないかと気づかされたコンペであった。

このアプリは、フォースクエアと連携し、今夜飲みたい人たちをつなぐというお助けアプリである。そこに上手にビールが介在するという仕掛けになっている。

さて、これが実際に世に出て広まるのを見るのが今からとても楽しみである。

Nobu
Ys and Partners 代表取締役社長 結城喜宣(ゆうき・よしのぶ)
日米に拠点を置くCreative Brand Communications – Ys and Partnersのエクゼクティブ・クリエイティブディレクター。JWTを経て、2002年に日本ブランドを世界で有名にすることをミッションに、米国カリフォルニア州に本社設立。2005年には横浜市に日本支社を設立。日米グローバル企業のブランド・コミュニケーションを成功に導いている。ブランド戦略に基づいたストーリーテリングを得意とする。6月から「アドタイ」にて、コラム連載「アメリカ女子高生のデジタルネイティブ日記」(仮題)を連載予定。