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米国レポート~Ad Ageデジタル・カンファレンス(2)モバイルや体験型イベントで証明、“ブランドストーリー”の威力

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文/Ys and Partners 代表取締役社長 結城喜宣

4月17日、18日の両日。ニューヨークのメトロポリタン・パビリオンで、米国の広告・マーケティング誌『アドエイジ』が主催するデジタル・カンファレンスが開催された。約700名を超える最先端の業界関係者に対し 、キーノートセッション、ワークショップとネットワーキングの機会が提供された。今回は両日にわたり参加した、Ys and Partnersの結城喜宣氏による現地からのレポートをお届けする。

【レポート(1)「勢い増すインターネットTV、「見たい広告を選べる」Hulu」はこちら

今回のカンファレンスではアドバタイザー(広告主)サイドから、GAP、PUMA、ゼロックス、ソニー、ゲータレード のCMOやディレクターがスピーカーとして登壇した。本レポートではマスターカード、世界最大のコンピュータゲーム会社・アクティビジョンの取り組みをレポートする。

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※このレポートは、『宣伝会議』5月15日号に掲載されたものです。

ローカルベースでモバイルへシフトするマスターカード

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マスターカードによるロケーションキャンペーン「PRICELESS NEW YORK」

米国では久しくマスターカードのテレビコマーシャルを見かけない。思い出そうにも記憶にさえ残ってない、と思ってユーチューブを調べたら、確かに「PRICELESS」というキャンペーンをやっていた。 特に「PRICELESS NEW YORK」というロケーションベースのキャンペーンに力を入れていたため、西海岸に住む私には印象が薄かったのかも知れない。

マスターカードのマーケティング担当シニアバイスプレジデント、シェリル・ゲリン氏は、顧客とのタッチポイントをモバイルにシフトしてきている理由を「シンプルに顧客の選択に合わせただけ」と語った。具体的には、モバイルの広告アプリとモバイルペイメントにフォーカスし、ニューヨークでテストを行っているようだ。

「私たちの調査からわかっていることは、人々は一日平均40回モバイル端末を見るということです。そしてホリディシーズン(10月のハロウィンからニューイヤーホリデーまでの期間)には、11%のオンラインセールスと14.9%のオンライントラフィックがモバイルから上がってきていることは見逃せない事実です」。

「モバイルを利用すればハイパーローカルなアプローチができる」とゲリン氏は言う。オールドヤンキースタジアムという現存こそしないが、ニューヨーカーの心に深く刻み込まれているプライスレスな存在を利用したキャンペーンアイデアは、モバイル+ソーシャルを利用し、4日間で5500万のインプレッションを集めた。

「ペイドメディアを一切使用していないのです」とゲリン氏。この広告を使わないキャンペーンの打ち方に、私は賛成の一票を投じたいと思う。

ブランドストーリーを実際に体験させたアクティビジョン

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コンピュータゲーム大手の「アクティビジョン」による、新しいコンテンツを定期的にダウンロードできるプレミアムサービス「コールオブデューティ・エリート」。

2011年のフォルクスワーゲンがスーパーボールで流したテレビCM「ミニ・ダースベーダー」。第二次世界大戦を舞台にした自社のゲーム「コールオブデューティ」。世界最大のコンピュータゲーム会社「アクティビジョン」のCMOであるティム・エリス氏は、この2つのコンテンツの事例を中心に、ソーシャルとデジタル、エクスペリエンシャル・マーケティングのパワーについて語った。特に、後者のゲームについての話が面白かったのでここで取り上げたい。

エリス氏は、ゲームのリリース前に、ファンの人々に彼らのソーシャルコミュニティでビデオをシェアしてもらえるように仕掛け、参加者があたかもストーリーの一部を体験しているような感覚を与えたいと企てた。

そこで、有料の予約購読中心のプレミアムサービス「コールオブデューティ・エリート」を配信し、ファンが新しいコンテンツを定期的にダウンロードできるようにしようと考えた。が、戦争ゲームさながら、彼は道に埋まった地雷を踏みかけた。当初ファンの声を無視して有料サービスを進めようとしたため、一時は不満の声が多く危険な状態に陥ったのだ。

「そこで私たちはファンの間でくすぶっていた不満の火種を消そうと、史上初の“コールオブデューティXP”と銘打った2日間のイベントを開催しました」。

これは、ゲームで展開する戦闘を、実際のグランドを使って行った体験型+実戦型のイベントである。私は会場で流れたビデオの圧倒的な迫力をみて、これは恐らく日本企業では実現できなかっただろうと思った。かなり大がかりで危険の伴う実験的な試みだったからである。

ビデオストリーミングを活用、ソーシャルコネクションに拡散

エリス氏は、これが現実化したことは、自分がスウェーデンで働いていた経験も影響しているのだと語った。「つまり、いまスウェーデンがデジタルの先進国となっているのは実験を繰り返し、失敗を怖れないカルチャーが育っているからに他なりません」。

このライブイベントは、ファンのソーシャルコネクションを通し、ビデオストリーミングやナローキャスティングを利用することで、イベントに参加できなかったファンを取り込むことを積極的に行った。

その結果、ゲーマーのインフルーエンサーたちは、ファンに「コールオブデューティ・エリート」の定期購読を薦め、16日間で約798億円のセールスを達成することに成功した。これは、アバターよりも速い記録となった。

ブランドストーリーの一部を共に体験すること。これからのブランドにとってもっとも大事なことである。

Nobu
Ys and Partners 代表取締役社長 結城喜宣(ゆうき・よしのぶ)
日米に拠点を置くCreative Brand Communications – Ys and Partnersのエクゼクティブ・クリエイティブディレクター。JWTを経て、2002年に日本ブランドを世界で有名にすることをミッションに、米国カリフォルニア州に本社設立。2005年には横浜市に日本支社を設立。日米グローバル企業のブランド・コミュニケーションを成功に導いている。ブランド戦略に基づいたストーリーテリングを得意とする。6月から「アドタイ」にて、コラム連載「アメリカ女子高生のデジタルネイティブ日記」(仮題)を連載予定。