コラム

伊藤洋介の「こうすればよかったんだぁ」

CMだって、競合会社に育てられる

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最近観たCMで、何が一番好き?
こう問われたら、僕は迷わずカロリーメイトを選びます。
好きというより、すげえと思ったという方が正確かな。
満島ひかりが、校庭で「ファイト!」って唄ってるCMと言えば、おわかりですよね。

とにかく初めてテレビで見て衝撃を受け、見終わってすぐにパソコンを開きました。
60秒のバージョンもあって、これがまたいい。
心の襞にじんわりと染みこんできました。
「俺、ちゃんと戦ってるかな」って思わず自問自答したほどです。
内容からして受験生を対象に制作されたんでしょうが、今年生誕50周年を迎える僕が心打たれたのですから、その仕上がりは結果的にオールターゲットと言えるのかもしれません。

で、次に考えたのが一体どんなオリエンだったんだろうってことです。
宣伝部在籍中には、広告代理店に対してのオリエンシートを作成する際に、「物質的価値」か「情緒的価値」か、どちらの線で攻めるかについてプロマネとはいつも徹底的に議論しました。

前者は、増量したとか原料は何を使っているだとか、消費者が確実に享受できるメリット。後者は食べてほっとするとか、元気になるとか、精神的なメリットを指します。
15秒や30秒という短い時間の中で、この二つを訴求するのは不可能というのが僕の持論で、両方訴えたいと主張するプロマネとはよく衝突したものです。

「2粒増えたってことが最大のニュースなんだろう。だったらそれを全面に押し出すべきだと思うけど」
「でも食べたら気持ちが安らいで、ほっとするってこともいいたいんだよ」
「そんなの、15秒の中で両方訴求するなんて無理だよ」
「じゃあせめて、オケージョンだけでも伝えてよ」
「企画の幅が狭まるけど、いいの?」

こんな具合でしょうか。
ところが、このカロリーメイトのCMはきちんとその二つが訴求できています。
夜食の小腹満たしに適していて、なおかつ食べるとヤル気が出るんだという物質的、情緒的両面の価値がちゃんと15秒の中に収まっているのです。
「届け、熱量。君にカロリーメイト」ってコピーが効いてるよなあ。もちろん中島みゆきの唄も。
これは僕からすれば奇跡に等しい。
その上にロングセラーにふさわしい品格と、商品の「デカさ」みたいな迫力までビンビンに伝わってきますから、まさに脱帽です。

あっ、そうだ。喧々諤々やりあったプロマネのみなさんに謝らなきゃ。
「ごめんなさい。両方言うこと、可能みたい……」
今更ですけど……。

湯治君

エイベックス キャスティング課の湯治君。この顔を見たら、声をかけてやってください。

実は以前勤務していた会社にはド競合商品があって、したがってカロリーメイトのコミュニケーションについては研究に研究を重ねていました。
「あっちがこうきた。じゃあ、こっちはこうやろう」って感じで、常に意識していたんです。
商品のみならず、CMだって、競合会社に育てられるってことはあるんですよね。
でも当時、これをやられていたら、相当肝を冷やしていたと思います。
たぶん即効、プロマネにメールして、代理店にも連絡とって、緊急会議を開いていたはずです。

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