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コラム

伊藤洋介の「こうすればよかったんだぁ」

社長、ここは我々現場に任せてくれませんか?

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『アドタイ・デイズ 2013』に伊藤さん登壇
アドタイ初のリアルイベント。広告界の未来を構想する2日間
テーマ:人を動かす*世の中を動かす言葉

連載開始から、早3ヶ月。今回で一応、最終回とさせていただきます。
これまで読んでいただいた皆様には、改めて感謝です。
中でも「いいね!」を押していただいた方々。そのひと押しが、どれほど励みになったことか。本当にありがとうございました。

最後なんで、何を書こうかと考えていた矢先に、とある芸能プロダクションのマネージャーと飯を食いました。
そこで話題になったのが、「最近、コンテの最終決定権が社長にある会社が増えている気がする」ってお話。中にはタレントの決定まで社長の決済を仰ぐ会社も少なくないんだとか。したがって、キャスティング会社なんかは密かに社長と直接話のできるルートを模索し、接待の席なんかで、お薦めのタレント名をそっとささやいたりするそうです。

おいおいって感じですよね。
社長にコンテが読めますか?タレントの良し悪しがわかりますか?
「商品カット、もう少し長くならないの?」
「ですよね。早速スタッフ集めて、検討します」
なんて光景、想像するだけで滑稽です。
最近になってテレビ広告を始めるようになった会社で、トップが若く独特の嗅覚を持っているなんてケースだったらまだしも、そのマネージャーから耳にした会社は、歴史あるいわゆるナショナルクライアントばかり。誰もが知ってる会社です。
しかもその多くは社長自身の意志で「俺にコンテを見せろ」「タレントは俺が決める」とのたまわっているというのですから、もう開いた口が塞がりません。
自身に責任がふりかかってくることを恐れるばかりに、社員が社長に確認しようとしている状況ならいざしらず。
そんな過程で出来上がったCMを見せつけられる視聴者の身になってほしいものですし、少なからず広告の世界に身を置いていたものからすれば「CMを舐めるな!」と罵声の一つも浴びせたくなります。

こんな状況を社内の誰かが声を上げ、是正できればいいのですが、それは土台無理なお話でしょう。
もちろん「それでは業務を放棄しているのと同じだ」なんて叫ぶ宣伝部員が登場すれば、喝采を送りたいところですが、サラリーマンにそんな言動を求めるのはあまりに酷なお話です。何せ相手が社長ですから、機嫌を損ね、異動なんて憂き目にでもあったら目も当てられません。

やはりここは、広告代理店の営業に一肌脱いでもらいたいところです。どうも広告代理店、とりわけ営業はクライアントのイエスマンに成り下がってしまっている傾向にあります。ましてや相手が社長ともなれば尚更です。その扱いを他店へ移されてしまうことを憂う気持ちもわかりますが、何でもかんでも「イエス」では、果たしてマーケティング戦略を考案する上でのパートナーと言えるでしょうか。
自虐的なことを言う代理店の人をよく見かけますが、そんな状況を作ってしまったのは、他ならぬ自身の振る舞いのせいだと自覚してほしいものです。
クライアントの利益になるように言うべきことは言う。正すべきところは正す。
社長に言われて、「なるほど、なるほど」なんてコンテを書き換えているようでは、全く話になりません。
おそらく業界の体質として、当事者意識が足りないんだと思います。
売れても、売れなくても、もらえる制作費も発注されるスポットの金額も変わらないし、だったら言うこと聞いておくか……みたいな発想が根本にあるのです。だからこそ、コンテやタレントの決定に社長が関わるなんて馬鹿げた事態を放っておいてしまう。広告についてはプロなわけで、プライド持ってほしいなあ。

少なくとも営業から仕事を受注するプランナー、制作会社スタッフ、演出家、照明、美術等の皆は自身の腕に誇りを持ち、当然プロ意識を兼ね備えています。なのに、彼らを取りまとめるべき役割の営業が、クライアントの言うことなら何でも「はい、はい」と聞いてしまう風見鶏状態では、その力を存分に発揮できるわけなんてないのです。

宣伝部在籍時代の僕。隣は某制作会社の社長。二人して調子乗ってました……反省

手前味噌ながら、僕がかつて宣伝部に在籍していたころ、担当してくれていた営業の面々には「みんなはある意味、プロデューサーなんだからさあ。俺の言ってることが違うと思ったら、バンバン言ってほしいし、クリエイティブにだって口を挟んでほしい」と口が酸っぱくなるくらいに言ってました。
もちろん、言われたら腹は立つんですけどね(笑)。一方で一層の信頼感が芽生えたことも事実ですし、こうして広告の世界から離れても未だに付き合っているのは当時、喧々諤々やりあった連中です。

営業はクライアントの顔色を伺いながら相槌打って、見積もり書いて、マージン抜くのが仕事じゃありません。
クライアントに最も近い存在として、当事者意識を持ってクリエイティブに関与し、その効果について一喜一憂するのが本来求められる姿だと僕は思います。
そうじゃなきゃ、おもしろくないでしょう。
そもそも相当な苦労をして、会社に入ったはずですから。

その頃の志を今一度思い出して、「違う」と思ったら躊躇うことなく、クライアントに噛み付くべきです。
「社長、ここは我々現場に任せてくれませんか」なんて堂々と胸を張って主張してほしい。それで、扱いがなくなったり、出禁なんてくらわす会社なら、汗をかく意味なんてないですから。

では最後に声高らかに……。
フレー、フレー、営業!フレフレ営業!フレフレ営業!

というわけで、3ヶ月間お世話になりました。
またどこかでお会いできたらいいなあ……。

あっ、そうだ!アドタイ・デイズ参加しますんで、お時間ある方は是非お越しください。
ちなみにプリンはかぶってません。あしからず……。

※連載「伊藤洋介の「こうすればよかったんだぁ」」は今回で終了です。ご愛読ありがとうございました。

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