危機管理の伝説「米国ペプシ注射針混入事件」の対処は日本でも役立つか?
1993年6月10日、米国ワシントン州シアトルの郊外、タコーマという町で「ダイエット・ペプシコーラ缶に注射針が混入していた」というニュースが流れた。
当時82歳の老人による第一報に基づくニュースだったが、4日後の13日(日曜日)には、ルイジアナ州ニューオーリンズで同じニュースが流れて、混入事件は全米に一気に拡大、さらに2件目が発生して、消費者から被害届けが殺到、事件報告数は全米23州、50人以上に上昇した。1992年、ダイエット・ペプシは売上高42億ドル以上となっていたため、「注射針混入事件」は、まさにコーポレート・クライシスとなった。
危機管理の鉄則として不可欠なのは、経営トップの対処へのスピードである。経営トップが自ら動き、取締役会を招集することは珍しいことではないが、ペプシコ本社取締役会は、その招集の目的を、事故の原因究明と外部に向けた情報管理に重点を置いていたのが特筆すべき点だ。
この緊急取締役会で、今後、どんな騒ぎが広がっても製品の回収等の措置は取らない、外部からの問い合わせには製品の安全性には自信をもって対応する、ことを決定した。15日には、ニュースリリースを主要各社のメディアに配布したが、その内容は以下の通りだった。
- 事件で犠牲者は出ていない
- 製造過程で針混入は不可能
- 心配な消費者はグラスに注いで飲むこと
- 虚偽の通報(被害届け)をした者は処罰される
同時にペプシコ社長は自らテレビ各社の朝番組に出演し、ペプシ缶の製造工程を収録したビデオをテレビ局に放映させ、製造工程で針が混入する可能性が殆どゼロに近いことを説明した。当時の記録によれば、同社長の論旨は、「1日にペプシ缶は、2000万本も製造されているが、一つ一つに商品コードが入っており、過去48時間以内に起きた針混入事件のペプシ缶を調べると製造日にばらつきがあり、製造過程で針が混入することはありえない」とするものだった。
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